奥さんに約束した指輪を全く考えてなさそうな樹おじさんの代わりに、ここは私が一肌脱ごうと口を開く。
「あのう、この指輪に加護を授けているなら作製したのは貴方ですか?」
「ええ、それは私の鱗で作ったものですよ」
やはり、普通の素材じゃなかったらしい。
同じような見た目の指輪は、青龍しか作製出来ないのか……。
雫ちゃんのお母さんは、おじさんの指に嵌った指輪を何度も見ているので、別のものを贈られたらガッカリするよね?
「お願いがあるんですけど、どうかこの指輪と同じものを1個作って頂けませんか?」
外してもらった指輪を、そのままプレゼントするわけにはいかないから、魔道具じゃない指輪を用意する必要がある。
青龍の加護が付加されていなければ、王族の伴侶である証にはならないだろう。
アマンダさんに見られると困るので、ダンジョン攻略中は着けないよう言えばいい。
「では、巫女を助けて下さったお礼に渡しましょう」
青龍はそう言うと目の前に大きな鱗を1枚出し、私達には聞き取れない言語を唱え出す。
すると見る見るうちに鱗が小さくなり、ひとつの指輪に変化した。
これは錬金術みたいな魔法かしら?
鱗1枚で1個の指輪しか出来ないなら、相当価値がありそう……。
「どうぞ、お受け取り下さい」
青龍から渡された指輪は、アマンダさんから貰った指輪と同じに見える。
これなら雫ちゃんのお母さんに渡しても大丈夫かな?
「ありがとうごさいます! ちなみに、この指輪はサイズが自動で調整される機能もありますか?」
「はい、どの指に嵌めても問題ないです」
「その、外れないという事は……」
「それは普通の指輪ですから、安心して下さい」
良かった。
一度嵌めたら外れない、呪いのような効果は付いてないらしい。
指輪の件は解決したので、青龍にもう一度お礼を伝えカルドサリ王国へ戻った。
「樹おじさん、プレゼントの指輪を渡すね」
「えっ! これは結花の分だったのか?」
私が青龍にお願いした理由に気付かず、おじさんは渡された指輪を見て唖然としている。
あぁ本当に何も考えてなかったのか……、夫婦喧嘩が勃発するところだったよ。
雫ちゃんが両親の喧嘩に巻き込まれるのは可哀想だ。
今回は、未然に防げたので良しとしよう。
それにしても、この残念さは旭と同じだなぁ。
父や兄なら事前に対応策を練るし、そもそも指輪を嵌めたりしないだろう。
似た者親子だと思っていると、父が思いっきり樹おじさんの頭を叩いた。
「痛っ! 何するんだ!」
「お前は沙良に感謝しろ!」
「あ~、助かったよ。ありがとう」
おじさんは痛みに顔を顰めつつ照れたように笑い、指輪を腕輪に収納している。
ちゃんと奥さんに渡して下さいね。
「お礼は、ベヒモスを見つけてもらえればいいです」
「ベヒモス!?」
「ええ、ちょっと必要なんですよね~」
私は笑顔でお礼を請求した。
「そんな簡単に見つけられるのか?」
「ダンジョンの移転陣から、他のダンジョンへ行けるので探しましょう!」
「おっ、おう……」
異世界の家で簡単な昼食を食べ、ガーグ老の工房へ向かう。
ガーグ老達と従魔に乗って摩天楼へ移動し、私と茜以外はアイテムBOXに入ってもらい、99階の移転陣からダンジョンに繋がる112階を選んだ。
112階は地中に埋もれて小部屋からは出られないため、一度ダンジョンマスター部屋までマッピングで移動し1階層下に降り、安全地帯で皆をアイテムBOXから出す。
「今日はベヒモスを探そうと思っているので、ダンジョンを移動する予定です」
護衛を依頼したガーグ老達に、別の階層を調べるのではなくベヒモス探しをすると宣言した。
「サラ……ちゃん。ベヒモスを見付けるのは難しいと思うがの」
ガーグ老が、ちらちらと樹おじさんを見て困惑気な表情をする。
「どっ、何処かにはいるだろう! もしかして、爺は知らないか?」
「ダンジョンに出現するような魔物ではないですぞ? 実際に見た事は、ありませんな……。セイ殿は、生息している地域をご存じか?」
ガーグ老に話を振られたセイさんが考え込み、首を横に振る。
「生憎、私もベヒモスは見た事がないです」
茜が召喚したベヒモスは、かなりレアな魔物のようだ。
1体しか呼び出せなかった事から分かってはいたけど、ベヒモス探しは難航しそう。
「ダンジョンに繋がる階層は沢山あるから、ひとつずつ当たれば見つかるよ!」
父が私の言葉に首を傾げ、懐疑的な顔をしたのは見ないフリだ。
まずは、いると信じてこのダンジョンを攻略しよう。
前回来た時は地上に出るまで移転を繰り返しただけだったから、どんな魔物がいるか見ていない。
マッピングを展開し上空から俯瞰すると、大きい象のような魔物を発見する。
その他には大きなサイやキリンや8本脚の馬のような魔物がいたけど、ベヒモスの姿はなかった。
皆にいない事を告げ、次の階層へ降りる。
ベヒモスを探しながら10階層下がったところで、次のダンジョンへ向かう。
強い魔物なら最終階層近くにいると思い、無駄な時間を省いたのだ。
その後、摩天楼の113階~119階から行けるダンジョンを調べたけど収穫はなく、迷宮都市へ帰る。
ガーグ老達と別れ、異世界の家へ入るとルシファーが庭で待っていた。
樹おじさんを見るなり、嬉しそうに近寄ってくる。
爵位を上げるのは月~金曜日なのに、今日は何しに来たのかしら?
「姫! 私の気持ちを受け取って下さい!」
頬を高揚させ両手を差し出したルシファーの掌には、またもや指輪が……。
あぁ、これ絶対嵌めちゃ駄目なやつ。
きっと、樹おじさんの指につけられていた指輪を見たんだろうな。
ブラックダイヤのようにキラキラと輝く指輪には、何の効果があるんだろう?
「お主は死にたいらしいな。これは儂が預かっておく。来週は、いつもより多く扱いてやろう」
突然、姿を現したガーグ老がルシファーから指輪を奪い取ってしまった。
えっ!? さっき別れたばかりなのに……。
いきなり過ぎて、心臓が飛び出るかと思ったよ!
何か用事でもあったのかしら?
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