「おぉ、そうだ! 儂にも従魔がいるのだ。紹介するのを忘れておったわ。『ポチ』!」
私がシルバーとフォレストの話をすると、ガーグ老は自分にも従魔がいると教えてくれた。
そして『ポチ』と呼ばれた白梟が上空から降りてくる。
私の周りをグルグルと回り、暫くするとガーグ老の肩に止まった。
この白梟は以前商業ギルドから家具工房へ初めて行く時に、上空を旋回していた個体じゃないかな?
誰かのペットだと思っていたけど、ガーグ老の従魔だったらしい。
という事は、このご老人はテイム魔法を持っているのよね?
貴族出身なのか……。
体長30cmくらいの、ごく普通サイズの魔物らしい。
2mを超える強面であるガーグ老の肩に止まっている姿は、なんとも不釣り合いで笑ってしまう。
愛嬌のある可愛い白梟だった。
ただ名前が『ポチ』というのが、どうにも気になるのよね~。
日本では犬に付ける定番の名前だ。
『ピザ』をご馳走した時も、仕えていた主人が料理名を知っている事を零していたし……。
何とか、それとなく話を聞き出す事は出来ないだろうか?
私は少し考えて、不審に思われない話題を探した。
「『ポチ』なんて、変わった名前ですね~。ガーグ老が名付けたんですか?」
「いや、これはひめ……亡くなった孫がつけたのだ。サラ……ちゃんの従魔の名前は、……そのままだな」
「はい、分かり易くて良いでしょう? お孫さんが付けられた名前なんですね? 亡くなってしまって本当に残念です。私に似ていると聞いたので、一度お会いしてみたかったなぁ」
「本当に、ひ……孫に会わせたかったの。とてもお転婆で剣術が大好きだったわ。冒険者になりたがっておったよ」
「へぇ~女性なのに珍しいですね。『ポチ』、私は沙良よ、よろしくね!」
貴族の女性でも剣術を習い冒険者をしたがるとは……。
どうやら亡くなったお孫さんと主人の両方が元日本人だったらしい。
お孫さんとはもう会えないし、ガーグ老の主人なら確実に貴族だろうからこれ以上詮索しない方がいい。
いつどんな偶然が起きて、リーシャの身分がバレるかも知れないからだ。
公爵令嬢という出身は、今の私には邪魔なものでしかない。
B級冒険者として生活をしている方が楽しいからね。
名前を呼んであげると、『ポチ』がふわりと飛んで私の肩に止まる。
まぁ、この従魔は私の言葉が分かるのかしら?
従魔はテイムした人間の言葉しか解さないと思っていたのだけど……。
私は人懐っこい『ポチ』の喉元を指先で撫でてあげる。
「『タマ』はどこにいるのかしらね~。お前に番はいないの?」
『ポチ』と言ったら『タマ』だろう、そう思ってつい口にした言葉にガーグ老も『ポチ』も大きな反応を示す。
『ポチ』は羽を大きく広げ首を激しく上下に動かしているし、ガーグ老は孫の事を思い出したのか目を赤くしながら叫んだのだ。
「『タマ』!」
??
数分後、とてつもない速さで滑空してくるもう1匹の白梟の姿が見えた。
ええぇっ~!
まさかの『タマ』が白梟なの?
これはもう、確実にお孫さんは元日本人に間違いないわね!
この世界には、一体どれくらいの元日本人がいるんだろう?
思った以上に多そうだ。
それにしても、『タマ』の飛ぶ速さが尋常じゃない。
従魔Lvが私と同じように、テイマー本人のLvに依存しているのならガーグ老はかなり高Lvなんだろう。
魔物とはいえ、梟はそんなに速くは飛べない筈だ。
それとも風魔法を使用して加速する事が出来るのかしら?
これなら梟便として充分に活躍しそうね!
ちょっと欲しいなと思った事は内緒だ。
『タマ』は私の周りをぐるりと一周した後で、『ポチ』とは反対側の肩に止まった。
私は両肩に梟を乗せるという、貴重な体験をする事になる。
これくらい小型の魔物も可愛いわよね。
2匹が私の頬に顔を寄せてきたので、頭を撫でてあげた。
他人の従魔は、こんなに直ぐ懐くものかしら?
「お前達には分かるんだな……」
そう小さな声でガーグ老は言い、私達を見ながら涙を溢れさせる。
容姿が似ていると、魔力も似ている可能性はあるのだろうか?
2匹の従魔に、私は口を開かず思った事を伝えてみる。
『私の言葉が分かるなら、2回頷いてくれる?』
すると2匹が頭を2回上下させた。
これは……。
私がテイム魔法じゃなく、魔物を魅了してテイムしている所為だろうか?
考えた事もないけど、他人の従魔を魅了した場合は主人が私に切り替わるのでは?
ついそんな怖い事を思ってしまう。
今回2匹に魅了は使用してないけれど、意志が通じているのなら命令する事も可能なんじゃないかしら?
ガーグ老の従魔に、私の命令が利いてしまうのは問題な気がする。
元より謎だらけのテイム魔法に、更なる疑問が追加された瞬間だった。
私の傍を離れようとしない2匹の姿を、部下達9人は何か微笑ましいものを見ている様子。
皆さん、上司の従魔ですよ?
それでいいんですかね?
「『タマ』と『ポチ』は番なのだ。サラ……ちゃんを見て、懐かしいのだろう。可愛がってやってほしい」
ガーグ老がそう言うのなら、私に否やはない。
私の知る限り、従魔同士で主人の寵を競う事はしたりしないからね。
シルバーもハニーもフォレストも、皆非常に仲良しだ。
それが別の主人となると判断がつかないけど……。
私は2匹の白梟と戯れながら、シルバーとフォレストとも仲良くなってくれたら嬉しいなぁと思うのだった。
ここの人達にはお世話になっているので、暇なご老人達の手慰みになる遊びをお礼に教えてあげよう。
「ガーグ老、これ私から稽古のお礼です」
マジックバッグから『リバーシ』を5組取り出し手渡すと、ガーグ老は非常に驚いた表情になる。
「これは……。儂も知っておるぞ、確か『オセ……』」
「あ~、『リバーシ』です! 遊び方をご存じなら、ちょうど良かった」
私は商品名を言われそうになり、とっさに遮ってしまう。
元日本人のどちらか不明だけど、異世界転生・転移物の小説は読んでいなかったらしい。
そして知識無双をして流行らせる事もなかったようだ。
カルドサリ王国内には、『リバーシ』は存在していないからね。
「はて、そんな名前だったかのぉ? サラ……ちゃんは、将棋は知っておるか? あれは王族を守るために覚えた方がよいと言われたのだが……」
んんんっ!?
ちょっと待った!
引退した騎士団だと思っていたけど、ガーグ老達は王族を警護する近衛兵か親衛隊だったの!?
それなら部下の皆さんが統率された動きをするのも納得がいく。
しかも元主人の方は将棋を教えていたとは……。
カルドサリ王国の王族に、元日本人がいるって事よね?
リーシャは公爵令嬢だったけど、私は記憶を引き継いでいないのでこの国の王族の事を全く知らない。
タケルの妹が王子様と結婚したがったと聞いたので、私の2歳上になる王子がいる事だけは分かるんだけど……。
もしかしてその王子の護衛を務めていたの?
でも年齢的に考えたら、もっと上じゃないと護衛対象として釣り合わない気がするなぁ。
王様か王妃様、もしくは先代の王様とか……。
いずれにしても私には雲の上の人達過ぎて関わる事はないだろう。
将棋の仕方を覚えたというのなら、漢字の意味が分かるのかしら?
「えぇ、将棋も知っていますよ。ただ私は指す事が出来ないので、兄達なら相手になると思います」
そう言って、序でに将棋も5組渡しておいた。
「おぉ、これは嬉しいな。懐かしい物だ。明日は是非、稽古の後で一局手合わせしてもらおう」
兄も旭も祖父仕込みの腕前だ。
そう簡単には、ご老人達でも敵うまい。
元主人が棋士でもない限り、ガーグ老達の腕は並だろう。
初心者相手じゃない将棋の勝負に、兄達も久々に楽しめるかもね~。
私は纏わりつく2匹に、「明日、私の従魔を紹介するから仲良くしてね」と言って工房を後にした。
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