ルシファーの父親は直ぐに戻ると言っていたし、私達も場所を移動せず待っていよう。
同じ領内の公爵なら、魔王相手に揉める事なく簡単に解決出来そうだ。
お茶を飲むくらいは時間があると思い、庭にテーブルと椅子を出し3人分のコーヒーを淹れようとしたところ、父からお酒の方がいいと言われ兄のマンションにあったビールサーバーを出してあげた。
以前、セイさんに渡したら喜んでいたからね。
樹おじさんは嬉々として缶ビールを嵌め、早速ビールサーバーからグラスに注ぎ飲み始める。
「おっ、旨いな! 響、お前も飲んでみろ!」
そう言うと、父のグラスにビールを注ぎ手渡していた。
私に味の違いは分からないけど、直接缶から飲むより美味しいのかな?
ビールだけじゃ味気ないだろうから、つまみ用に冷凍枝豆、だし巻き卵、串カツを出すと、
「娘は、いい奥さんになりそうだ」
樹おじさんが串カツを食べながら、父に視線を向け笑っている。
「嫁に行くのは、まだ早い」
父は、もう酔っているのか56歳の私に対し兄のような台詞を言う。
リーシャの体は20歳だから早い気もするけど、もうガーグ老と私の身代わりで樹おじさんが偽装結婚したあとだよ……。
まぁ今の見た目からして、両親が結婚をせっつく事は暫くないだろう。
そもそも秘密が多い私の相手が、異世界で早々に見付かるとは思えないしね。
そう考えるとホーム内で生活している雫ちゃんと、セイさんの結婚も難しいかも知れない。
Lvが上がって寿命が延びた私達の相手は、気長に探せばいいか……。
「当り前だ、もう100年くらい先でいい!」
そんな風に思っていると、樹おじさんが飲んでいたビールグラスをテーブルの上に叩き付け大声を上げた。
いや、それは幾らなんでも遅すぎるよ! 100年経ったら、お婆ちゃんになってる。
私の心配より、娘の結婚を考えてあげて!
「好きな人が見つかれば結婚するから!」
「好きな相手がいるのか!?」
勢いよく身を乗り出した樹おじさんに、両手を握られビックリしてしまう。
「今は、いませんけど……」
「樹、落ち着いて席に座れ」
父がおじさんの肩に手を置き、強引に座らせた。
どうしてそれほど私の結婚が気になるのか分からないけど、同じ娘を持つ父親として敏感になっているんだろうか?
ここは話題を変えよう。
「さっきは祝福のキスが、とんだ事になっちゃってごめんなさい。私がすれば良かったです」
「あっ、あれは……沙良ちゃんがするよりいい」
「でも、場所が唇に……」
「だっ、大丈夫だ! 一瞬だけだったからな」
そう言う割には顔色が悪く、変える話題を間違えたかもと気になっていた件を振った。
「魅惑魔法のLvは、どうやって上げたんですか?」
樹おじさんに魅惑魔法Lv7を掛けられたルシファーは、ずっと好きになった状態のままでいる。
どうして攻撃魔法じゃない魅惑魔法を上げたのか、ずっと不思議に思っていたのだ。
「それは……響を相手に練習した」
父に魅惑魔法を掛けたの!?
「えっ? じゃあ、お父さんもおじさんが好きになったりした?」
「……そういう魔法だからな」
うわぁ~、樹おじさんは親友相手に酷い真似をするな。
今は普通に見えるから、父は魅惑魔法の耐性があり解除された状態なんだろう。
でも、魔法で好きにさせられた気持ちは覚えているんだよね?
「その時は樹おじさんが、どう見えていたの?」
「美しい……女性に見えた」
うん? 魅惑魔法に掛けられると、相手の姿が違って見えるのかしら? じゃあ女性化から戻っても、ルシファーには同じ姿として映るのかな?
「へえ~、そうなんだ。間違いが起きなくて良かったね!」
父に魅惑耐性がなければ、樹おじさんを襲っていたかも知れない。
そうなるとキスどころじゃない悲劇だ。
「まっ、間違いなんて起こるわけないだろ!」
顔を真っ赤にした樹おじさんが、父から顔を逸らせ必死に言い訳するのは何故なのか……。
ええっと、本当に何もなかったんですよね?
「あっ、魔王が戻ってきたみたいだぞ」
父が魔法陣が光り戻ってきたルシファーの父親を、焦ったように知らせてくる。
2人とも、なんだか挙動不審で怪しいんだけど……下手に突っ込まない方がいいかも。
「青龍の巫女は、エンハルト王国へ送り届けました。これで契約完了です。それでは対価を頂きましょう」
30分程で戻ってきた魔王は、にこやかにそう告げると対価の魔力1,000を受け取った。
私の魔力は多いから引かれても何ともないけど、普通は昏倒する数値だろう。
「はい、ありがとうございます」
「それでは魔界へ帰りますので、今後も息子をよろしくお願いします」
私にしっかりと視線を合わせ一礼したあと、ルシファーの父親は青い光と共に召喚陣から帰っていった。
毎回、光魔法を使用する必要はあるのかしら? 魔王の登場時は、これが定番なの?
アマンダさんから依頼はされていないけど、青龍の巫女が戻った件は明日伝えよう。
翌日もダンジョン攻略なので早々にホームの自宅へ戻ると、兄達が寝ずに待っていた。
「お帰り沙良。青龍の巫女は無事だったのか?」
私の顔を見るなり兄が口を開き聞いてくる。
「ただいま~。うん、ルシファーの父親が連れ戻してくれたよ」
「そうか、ならアマンダさんも安心するだろう。異世界は物騒だから、俺達もLvを早く100まで上げた方がいいな」
「突然、どうしたの?」
今までは安全第一の攻略をしてきた兄が、そんな事を言うから驚いてしまった。
「お前は安全地帯で魔物が倒せるから心配せずに済む。摩天楼のダンジョンに関しては、茜がいれば安心だ。攻略階層を上げよう」
「分かった、明日お父さん達にも言っておくね」
兄の気が変わらない内に了解しておこう。
「それで茜はダンジョンマスターの時、何の魔物を召喚したんだ?」
「ベヒモスだよ」
「ベヒモス!? そんな魔物よく召喚出来たね!」
話を聞いていた旭が、自分の召喚した魔物との違いに驚き目を丸くしていた。
「確か召喚枠は30あったと思うが、他に召喚しなかったのか?」
記憶力のいい兄が手紙の内容を覚えていたのか、茜に質問を続ける。
あまりベヒモスには触れてほしくないんだけど……。
「ベヒモス1体で、残りの召喚枠を消費したから他の魔物は呼び出せなかった」
「それは残念だな。でもベヒモスを倒せば一気にLvを上げられそうだ」
「おおぉお兄ちゃん! 言い忘れてたんだけど、昨日99階でファイト・カンガルーをテイムした時、珍しい魔物が見えて倒しちゃったんだよ! 茜に聞いたらベヒモスだったみたい」
「なら、相当Lvが上がったんじゃないか?」
「そっ、そうかも? ちょっとステータスを確認するよ。あっ、Lv100になってる!」
ここは演技力を発揮して、今知ったばかりだと強調しなければ!
幸い兄は昨日99階で魔物をテイムしたと知っており、疑問に思わなかったようだ。
「1匹倒しただけでLvが100に上がったの!? じゃあ、俺達も簡単にLv上げ出来るね~」
呑気な旭がベヒモスを倒せばLvが上がると喜んでいたけど、もう出現しないとは言いにくい。
「旭、いきなり99階に行くのは危険だ。まずは50階までにしよう」
「階層を上がる度に魔物は強くなるから、初見で99階は止めた方がいい」
兄と茜の言葉に旭は納得したのか、じゃあ楽しみにしてると大人しく言う事を聞いた。
あぁベヒモスは、何処かのダンジョンにいないものか……。
99階を攻略するまでに見つけて、アイテムBOXに収納しておかなければ……。
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