目が覚めると額に何か貼り付けてある。
何だろう?
手を伸ばし触ってみると、どうやら〇え〇タシートのようだった。
昨日は何とかパジャマに着替えてベッドに入った記憶はあるけど、そこからは直ぐに寝てしまったのか何も覚えていない。
寝ている自分が額に貼る事は出来ないだろうから、これは兄か旭が貼ってくれたのかな?
でもきっと兄は若い女性の寝室に身内以外を入れる事はしないと思うので、貼ったのは兄で間違いない。
となると私は熱を出してしまったようだ。
そう分かると何だか体が急に怠い気がするから不思議よね。
ベッドで寝たまま時計を確認する。
午前10時を少し過ぎていた。
帰宅したのが午前4時だったので、約6時間眠っていた事になる。
2人は朝食の時間にいつも通り部屋に入ってきて、ダイニングにいない私に気が付いたのか。
心配して兄が様子を見にきた時に、目覚めない私の熱を測ってくれたんだろうなぁ。
子供の頃から妹弟の体調不良に気が付くのはいつも兄だった。
そう思うと、結局医者になったのは天職だったのかも知れない。
まぁそこに至るまで、様々な葛藤はあっただろうけれど……。
ベッドの脇にあるサイドテーブルに目を移すと、兄の文字でメモ書きが置いてあった。
熱があるので薬を飲ませた事、汗をかいていたのでパジャマを着替えさせた事等が書いてある。
はっ!?
何ですとっ!!
兄はきっと医者の立場で患者の体調を気遣いパジャマを着替えさせてくれたんだと思うけど、妹として裸を見られたのはショックだ。
パジャマに着替えたから、下着はショーツだけしか穿いていない状態だった。
ブラをして寝る習慣がないので、思いっきり見られてしまったわ!
そして汗もタオルで拭いてくれたんじゃないかしら?
昨日の疲労の所為なのか、そこまでされても全然気が付かなかったよ……。
思わず赤面する。
なんだろう、この身内の男性に見られてしまった居たたまれなさは。
ゔぅ~、まだ55歳時の自分の体を見られた訳じゃないから良しとしよう。
19歳のリーシャの体は、どこに出しても恥ずかしくないプロポーションをしている。
過去のお腹が出て、みっともない弛んだ体じゃないだけましか……。
兄は医者だから患者の裸なんて見慣れているしね。
そもそも手術中は裸だ。
なんとか恥ずかしい思いを脇に追いやり、ベッドから出てトイレに向かった。
リビングには2人がいてTVを見ている所だった。
「お兄ちゃん、おはよう。薬飲ませてくれてありがとう」
私は着替えの事には触れず兄にお礼を言った。
「沙良、もう起きて大丈夫なのか? 熱が38.4度もあったから今日は家で大人しくしてろ。レトルトで悪いが、お粥を買ってきてある。食べたら熱をもう一度測って薬を飲むんだぞ」
「うん、そうするよ。心配かけてごめんね」
「沙良ちゃん、食欲があれば桃の缶詰もあるから言ってね」
「ありがとう旭。取り敢えず、お粥をレンジで温めて食べるよ」
レトルトのお粥に梅干しを入れて食べ終わると、兄に言われた通り熱を測った。
昔は脇の下で5分程当てる必要がある水銀の入ったガラス製の体温計しかなかったけど、今は耳に当て僅か1秒で測る事が出来る電子体温計がある。
便利な世の中になったなぁ。
体温を確認すると37.8度とまだ熱があった。
確かに、この怠さは熱からくるものだろう。
兄が用意してくれた薬を飲み寝室へ戻る。
きっと熱が出たのは、昨日魔法を使い過ぎた所為だろうな~。
時空魔法はどれだけ使用してもMP消費は0だけど、普段と違う方法で連続使用したので熱が出たんじゃないかと思う。
それにマッピングでオリーさんを探し出すのに、時間が掛かり過ぎた事も原因だろう。
迷宮都市の何処に住んでいるか分からなかったので、しらみつぶしに当たったのだ。
職場が冒険者ギルドという事で、付近から捜索範囲を広げたんだけど……。
オリーさんは秘書という割に給料が安かったのかそれとも金使いが荒かったのか、地下1階を拠点にしている冒険者が泊まるような安宿にいた。
あんなに壁が薄いんじゃ防音効果なんて期待出来ないだろう。
荷物も少なかったし……。
お陰で見付け出すまでに10時間も掛かってしまった。
その間マッピングを3Dの状態で見続けたお陰で、眼精疲労が半端なかったよ。
昨日体調が悪いと言ってダンジョンの攻略を中止したので、熱が出ても不審には思われないだろう。
私の言葉に真実味が増したので、熱が出た事はかえって良かったかも知れない。
今日もダンジョン攻略は中止になった。
あの冒険者達は昨日治療が出来ず、ダンジョンから帰還している筈だ。
運が良ければ教会か治療院で、金貨1枚以上の治療費を払って治してもらえたかも知れない。
ただ、普通は地下14階からダンジョンを出るには半日以上必要になる。
しかも刺された場所から毒が回っている状態では、それ以上時間が掛かったに違いない。
既に刺された場所は、壊死してしまった可能性の方が高いだろうな。
オリーさんからの依頼料が幾らだったか知らないけど、僅かなお金と引き換えに高い代償を払う事になり、今頃後悔しているだろうか?
そんな事を思いながら、薬が効いてきたのか私は再び眠りについた。
3時間後。
起きたらサイドテーブルに、ミネラルウォーター(500ml)のペットボトルが置いてある。
きっと兄が様子を見にきた時に用意してくれたんだろう。
額に貼られているシートも交換してあるみたいだった。
兄の心遣いに感謝してミネラルウォーターを飲み、もう一度熱を測る。
体温は37.2度まで下がっていた。
それにしても、先程見た夢は何だかとても悲しかった。
熱があり気持ちが沈んでいる所為かとも思ったけど、どうも違うような気がする。
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