誰に転生したか分かり頭を抱えていると、背後で咳払いする音が聞こえた。
「あ~、ティーナ? そろそろ一緒にいる事を思い出してほしいんだが……。突然現れた2人を紹介してくれないか?」
あぁっ!
沙良の父親も一緒にいたんだった!
ティーナの記憶が戻ってから、すっかり忘れていたらしい。
目の前に突然、見知らぬ男性2人が現れたら驚くだろう。
しかも2人は、沙良ではなくティーナと接しているのだ。
今まで話し掛けてこなかったのは、成り行きを見守っていたからだろうか?
それにしては、気配を消したように感じなかったけど……。
私は、この状況を何と説明していいのか悩む。
日本人である父に、前世の記憶が戻ったと伝える?
セイちゃんは契約竜で、もう1人は世界樹の精霊王だと言ったら信じてもらえるだろうか……。
「お父さん。実は私、この世界で生きた記憶があるの。今、それを思い出したみたい。ティーナという名前なのよ」
「あぁ、その名前は俺とお前の母であるいつ……ヒルダが考えたものだ」
ヒルダって、私の母親の名前よね?
何故、父が知っているんだろう。
それに私の名前を2人が名付けたとは、どういう意味?
私が不思議そうな表情をしていると、父が気まずげに口を開く。
「家族には内緒にしていたが、俺は150年前のカルドサリ国王だった。その時の第二王妃が、お前の母親だ」
何ですとっ!?
精霊王が名前を教えてくれなかった父親が、沙良の父と同じなの?
じゃあ、前世の記憶があるというのか……。
同じ父親の娘として生まれたのは、偶然にしては出来すぎだ。
「初めてお会いするが、娘を育ててくれたのは精霊王だったのでしょうか? やはり娘のティーナは、エルフの守護神と呼ばれる存在だったのですね……」
そう言いながら、父は精霊王に近付いていく。
「君がヒルダの夫か……。ティーナは巫女姫です。人族に育てるのは無理だと判断し、私が精霊の森へ連れ帰りました。ある存在に狙われているため人間に転生させましたが、転生先が父親の下とは驚きましたね」
それまで父の存在を気に留める素振りさえ見せなかった精霊王が、ティーナの父親だと知り関心を持ったようだ。
ずっと父に対し覚えていた違和感の正体は、これだったのか。
どうも異世界の事を知り過ぎてると思ったのよね~。
魔物に躊躇しないのは、存在を知っていたのだと分かれば納得だ。
「ティーナの父親である、ロッセル・カーランドと申します。娘を育てて下さり、ありがとうございます。可能ならもう少し詳しく事情を話してもらえると助かりますが、再び記憶を封印するのは娘に危険があるからでしょう。今日知った事実を誰にも口外しないと誓いますから、どうか俺の記憶はそのままにして下さい」
「申し訳ないけど、あまり記憶が戻った状態でいるのは良くないのだよ。先に2人の記憶を封印する必要がある。セイはティーナの契約竜ですが今は冒険者をしているそうだから一旦、元の場所へ返してほしい」
セイちゃんをホーム内に移転させないと!
「お父さん。セイちゃんは、SS級冒険者のセイさんだよ」
「はっ!?」
驚き過ぎたのか口を大きく開けたまま、父がセイちゃんを凝視している。
「先輩は、ご主人様の父上でいらしたのですね。気が付かず申し訳ありません」
セイちゃんはティーナの父親だと知り、敬うように一礼した。
父はまだ混乱しているのか固まっている。
「さて時間もない事だし、先にセイの封印を済ませようか。ティーナ、後は頼むよ」
人へ変態したセイちゃんが、高梨 聖の姿に擬態した。
精霊王がセイちゃんの額に文様を描き封印を施したのを見届けた後、ホーム内のホテルへ送り届ける。
召喚する前どこにいたか分からないけど、日曜日なのでホテルからは移動していない筈。
「君の記憶は希望通り、そのままにしておこう。ティーナの父親なら害はないしね。ヒルダが亡くなり、娘もいない状態は辛かったろうから……」
「あ~、ヒルダは生きています。日本人として、ですが……」
これには、精霊王と私も呆気に取られた。
母が生きているの?
「ヒルダは人族に転生していたのかい?」
「転生とは、また違うようで……。元々人間としての記憶を持ったままこの世界で転生し、亡くなった後で再び元の人間に戻ったといいますか……」
なんだか父の歯切れが悪い。
「お母さんも、もしかして一緒なの?」
「……お前の母親は、尚人君の父親である樹だよ」
うん?
聞き間違えかしら?
今、母親は旭の父親だと聞こえたけど……。
「あぁ、あの子は男性の記憶を持っていたんだね。道理で……」
そこで、私は考えを拒否したのか意識を失った。
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