真っ先に思ったのは、自分が夢を見ている事だった。
何故、少女の姿になった夢を見ているのかは分からないけど……。
目が覚めるまで、この状況を楽しもうと決めた。
子供達が亡くなり、気分が沈みがちだったので夫には随分と心配させてしまった。
夢の中で気分転換をするのもいいだろう。
姿身に映った姿をまじまじと見てみる。
そこには70歳だった私ではなく、別人のように可愛らしい少女がいた。
淡いピンクの髪と、エメラルドグリーン色をした瞳に既視感を覚える。
あれ?
この色の組み合わせと容姿を、よく知っている気がする……。
どこで見たんだったかしら?
暫く考え込んで、正解に辿り着いた。
この子、雫と一緒に遊んだ乙女ゲームの主人公だわ。
あれから22年も経っているから直ぐには分からなかった。
でもこの特徴的な色彩と容姿は間違いない。
名前は……ちょっと思い出せないなぁ。
舞台となる国の名前は、カメハメハ……?
いや、そんな面白い名前じゃなかった。
それじゃあ大王様の名前だ。
記憶の何処かで乙女ゲームを覚えていたんだろう。
私の推しキャラは、王子様ではなく宰相の息子だったけどね。
そんな事を思っていたら部屋の扉をノックされた。
返事をすると、メイド服を着た人物が入ってくる。
「おはようございます、お嬢様。今日は、ご自分で起きられたのですね。もうすぐ王都にいくのが楽しみなのですか?」
おおっ、ゲームのストーリーが始まっているようだ。
確かこれから3年間、王都にある魔法学校へ通って王子様と仲良くなるのよね?
嫉妬した悪役令嬢に、あの手この手で嫌がらせされるんだけど……。
最後は王子様と結ばれるのが王道パターンだ。
夢の中で実体験出来るなんて、少しわくわくしてしまう。
「おはよう。えぇ、本当に楽しみなのよ」
メイドに服を着替えさせられ、私は家族の待つ朝食の席へ着いた。
この子の両親と兄が既に揃っている。
主人公は伯爵令嬢だったから、一応中流貴族になるのかしら?
「おはようございます。お父様、お母様、お兄様」
「おはよう、アリサ。もう王都いきの準備は済ませたかい?」
父親にそう聞かれ、アリサとしての記憶がない私はどう答えたらいいか迷ってしまう。
ゲーム通りなら荷物は纏めてあるだろうと、ここは笑顔で言い切った。
「はい、もう用意は済ませました」
しかし、主人公の名前に違和感がある。
アリサだっけ?
「魔法学校ではタケルもいるし、安心するといい」
父親の言葉に隣で兄が頷いている。
タケル……って、もろ日本人の名前なんだけど。
このゲーム、何かが少しおかしい。
貴族が食べる朝食はどんな物かと期待したら、あまり豪華なメニューではなくてがっかりした。
出てきたのは、塩味の野菜と肉が入ったスープとゆで卵に硬いパンと紅茶。
これなら、私が作った朝食の方がましじゃないかしら?
食事を済ませると、母親から15歳の郊外学習で魔物を倒すまで、絶対にLvを上げないようにと言い含められた。
あぁ、貴族特権ってやつよね。
この世界では、Lv1になった年齢がHPとMPの初期値になるから庶民と差を付けたいのだろう。
部屋に戻ると、やけに時間の流れが正確である事に気付く。
こんなに進まないんじゃ、夢の中で魔法学校にいく前に目が覚めてしまいそう。
少しでも楽しむために、部屋の中を物色でもしようかな。
日本とは違う物が沢山ありそうだ。
羊皮紙に書かれた背表紙の文字は、日本語ではなかったけど読めるみたいね。
伯爵令嬢だからかドレスの数も多い。
1人で着れない服は面倒臭そう。
家具には装飾が施され、日本の子供部屋とは大違いだった。
室内に置かれた机の上に1通の封筒を見付け、なんだろうと手に取ってみる。
日本語で【詫び状】と書かれた封筒を開けたら、中には手紙が入っていた。
少し内容が気になり読んでみると……。
『とても困った事になっている貴方へ。
すべての元凶は私です。
この責任を取り、出来うる限りの保障をさせて頂きました。
まず、いま貴方がいる世界は地球ではありません。
剣と魔法のファンタジーである所の異世界です。
そしてとても残念ですが旭 結花様70歳は、お亡くなりになりました。
貴方は現在カルドサリ王国のリザルト公爵領にある、フィンレイ伯爵家のアリサ・フィンレイ12歳です。
旭 結花様の能力
【時空魔法】
●アイテムBOX 容量無限・時間停止。
【光魔法】
●ヒール 怪我を治せますが、病気を治す事は出来ません。
●ホーリー HPを回復したり、アンデッド系を攻撃します。
●ライトボール 攻撃魔法。照明代わりにもなります。
まずは「ステータス」と唱え、能力の確認をお勧めします。
最後に、このような不幸な目に遭わせてしまいましたが、これからの貴方の人生が幸多き事でありますよう、お祈り申し上げます。』
はぁ!?
何これっ!!
そんな設定、ゲームにはなかったわよ??
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