王都へ移転して、冒険者ギルドの受付嬢に従魔登録の申請をお願いする。
冒険者ギルド内にいた冒険者達が、2匹のファイト・カンガルーへ興味深そうな視線を向けた。
王都のダンジョンでは出現しないタイプの魔物なんだろう。
私達が騎乗してきた従魔達は、数が多いからギルド前で待機させておいた。
受付嬢に案内され、会議室へ入ると直ぐにギルドマスターのランドルさんがやってくる。
女装化した樹おじさんを紹介しておこう。
「ランドルさん、こんにちは。え~っと、実の母です」
いつか本当の母親が王都の冒険者ギルドに行く可能性も考え問題にならないよう、そう伝える。
母は香織ちゃんの子育てが一段落したら、冒険者活動を再開したいと言っていた。
40代に若返りLvも50になったので、体力的な心配はいらないだろう。
異世界には子供を預ける場所がないため、手が離れるのは相当先だと思うけど……。
香織ちゃんが、もしリーシャだった頃の記憶を持って生まれたら、10歳で冒険者登録したいと言うかもしれないなぁ。
「母のい……痛っ! です」
樹おじさんは女性化した時の名前を考えていなかったのか、本名を名乗ろうとし焦り舌を噛んでいた。
カルドサリ王国の第二王妃であったヒルダさんの名前を使う事も出来ないし、困った様子で父に視線を送っている。
女性化している期間は残り僅かだから、もうランドルさんに会う機会はないと思うよ。
「姿を戻されたのか……御二方が揃っている姿を見られるとは光栄です。本当に似ておられますな」
どこか感慨深い表情をしたランドルさんは、そう言って父を見遣る。
父は、その言葉に小さく頷きを返しただけだった。
樹おじさんは姿を戻したんじゃなく、女性化で変えているんだけど……。
名前の件には触れられなかったので、このまま話を進めよう。
「2匹の従魔登録をお願いします」
「これはまた、見た事もない魔物だな……。どなたがテイムされたのか?」
「テイムしたのは私です」
「サラちゃんの従魔か……。あ~、メンバーがもう1人増えているようだの」
ちらちらとランドルさんが、セイさんの方を見て紹介を促される。
あれ? セイさんはランドルさんと会った事がなかったかしら?
迷宮都市と摩天楼のダンジョンで冒険者活動をしていたから、王都の冒険者ギルドに行くのは初めてだったかも?
「メンバーのセイです」
「ギルドマスターのランドルと申します。御方様が傍にいて下されば安心ですな。どうか、サラちゃんをよろしく頼みます」
自己紹介をしたセイさんに、どこからか取り出した棒をクルクルと回し一礼するランドルさんの姿をぽかんと見つめる。
彼は白頭鷲の一族だから、これは種族特有の礼の仕方なのかしら?
しかし何故セイさんに向かって、これ程改まった態度を見せるんだろう。
そしてパーティーリーダーを務める私が不安なのか……。
茜が察したように、このメンバーの中で一番強い人物だと気付いのかも知れない。
「ええ、任せて下さい」
私の事をお願いされたセイさんは、にっこり微笑んで請け負うとランドルさんの肩を叩く。
見た目年齢からすると、なんだか違和感がある構図だ。
獣人のランドルさんの方が、遥かに年上だよね?
「従魔登録は、こちらで上手く処理をしておきましょう。では、登録用紙に記入して下さい」
なんだか引っかかる言い方だけど、摩天楼ダンジョンの魔物でも申請出来るならいいか。
渡された2枚の登録用紙に記入して首輪を2個受け取り、ガルボとガルシングの首に装着後、従魔登録料の金貨2枚(200万円)を支払い部屋を出た。
用事を済ませ王都から迷宮都市の家に戻りホームへ帰る。
新しくテイムした2匹を会わせようと従魔達を呼び出した。
先輩になる従魔達より2匹は強い魔物だけど、テイムされた順番が序列になるのか2匹は大人しく自分から頭を下げ挨拶している。
2匹を異世界の家に置くのは、子供達に紹介してからにしよう。
それまではホーム内で待機かな? あぁ、でも一応ハニー達にも会わせないとね。
「樹おじさん、覚えた結界魔法を使ってみて下さい。Lv70になったから魔法耐性は充分あると思うんですが、早崎さんの結界は茜の蹴りで壊れちゃたんですよね~」
「茜ちゃんはLv200だからなぁ。体術Lvが150もあるんじゃ、結界魔法のLvを相当上げないと無理だろ。早崎さんが試した時はLvが幾つだったんだ?」
「確かLv20の時に、Lv0の結界魔法を調べた気がします」
「それだとLv差が10倍あるな。取り敢えず、使用してみよう」
樹おじさんが結界を張ったのを確認して、隣にいたセイさんがちょんと突いた。
すると呆気なく結界は崩壊……。
「……聖、試してみたいのは分かるが樹が可哀想だから止めておけ」
「すみません、新しい魔法に興味があったものですから」
「俺の結界が弱すぎる……」
セイさんに指先でちょんと突かれただけで壊れたのを見て、おじさんが天を仰ぎ嘆いている。
「ええっと、頑張ってLv上げをしましょう! 茜、早崎さんを呼んできてくれる? どうせなら一緒にした方がいいでしょ」
「じゃあ、行ってくる」
ここで茜の蹴りでも壊されたら、おじさんのやる気が削がれると思い呼びに行かせた。
私達も試してみよう。
3人に結界魔法を張ってもらい、槍を取り出し突いてみる。
槍術Lv12の私が突いた結界は壊れなかった。
父はLv50、樹おじさんはLv70、セイさんはLv100あるからだろうか?
魔法はどうかしら? もし壊れてもいいように、貫通力のある固形系は外して試そう。
「今度はファイアーボールを撃つから、もう一度結界を張ってね」
私のファイアーボールはLv50になっているけど皆、基礎値が高いから大丈夫!
「ちょっと待て!」
「あっ!」
父と樹おじさんの慌てた声が聞こえたけど、既に発動してしまったあとだ。
3つのファイアーボールは、それぞれの結界に向かって飛び、樹おじさんの結界の前で霧散し、セイさんの結界は壊れず、父の結界は崩壊した。
結界を貫通したファイアーボールを父が躱して、怪我をせずに済む。
しかし、この結果はどうなんだ?
Lvが100あり、『手紙の人』から火魔法の能力が与えられたセイさんの結界が壊れなかったのは分かる。
2倍のLvがある私の魔法で、父の結界が壊れたのも納得だ。
だけど樹おじさんの結界へ触れる前に、ファイアーボールが消失したのはどうしてなのか……。
「樹おじさん、結界魔法は魔法を消すイメージですか?」
「ああ、そうだよ! びっくりしたな~。沙良ちゃんは、MP値が上がる飴を毎日舐めているから魔法を撃たないでくれると助かる」
それもそうか……。
私のMP値は、あれから大分増えているから、もし父が避けなければ火傷じゃ済まないところだった。
「分かりました。今度は私が結界を張りますね」
さて、私の結界魔法の性能はどうかしら?
3人が順番に張った結界へ攻撃を始める。
樹おじさんが武器を使用せず素手で正拳突きした結果、結界は壊れた。
父も同様にしてセイさんは人差し指でちょんと突き、2人の攻撃を受けた結界は持たず壊れる。
どうやらHP値が高くても、体術を持っている2人と力が強いセイさんからの攻撃には耐えられないようだ。
まぁ、まだLv0だしこんなものか。
結界の効果を確かめ合っていると、茜が早崎さんを連れてきた。
「皆さん、何をしてるんですか?」
互いを攻撃しているように見えるのか、不思議そうな顔で早崎さんが尋ねてくる。
「結界魔法の練習をしているです。早崎さんも一緒にどうかと思って呼んだんですよ」
「えっ!? 結界魔法を習得したんですか?」
あっ……摩天楼ダンジョンの魔物から覚えた件は秘密だった。
い、言い訳を考えないと!
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