【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第351話 冒険者ギルドマスター オリビア・ハーレイ 3 2人の治癒術師

公開日時: 2023年4月17日(月) 12:05
更新日時: 2023年8月22日(火) 16:33
文字数:2,369

 ハイエルフの王族が、折角せっかくお忍びで迷宮都市に滞在して下さるのだ。

 私は万が一にもサラ様に不快な思いをさせないよう、ありとあらゆる情報を集める事にした。


 我がハーレイ家は、カルドサリ王国内に居る100人程のハーフエルフをまとめる立場にある。


 その内の何人かは私と同じく出稼ぎ組で、他領にあるダンジョンの冒険者ギルドマスターだったり商業ギルドマスターだったりした。


 それ以外のハーフエルフは普段表に出る事は無い部署に所属しており、主な任務はカルドサリ王国内の情報収集が専門だ。


 その容姿で以って人族をたらし込み情報を抜き取る。

 まぁやり方はアレだが、昔から諜報ちょうほう活動でもちいられる古典的な方法だ。


 老いも若きも美人には弱い。

 少し気を持たせれば、固い口もゆるくなるのだろう。


 私はサラ様達に気付かれないよう、細心の注意を払うように命令し宿泊している宿や懇意こんいにしている店、またミリオネの町での様子等を調べるように指示を出した。


 結果、大陸を渡ってきた記録が一切無い事が証明される。

 通常エルフの国から、このカルドサリ王国がある大陸に渡るには王族専用のドラゴンが運ぶのが当然だった。


 ミリオネの町付近でドラゴンが目撃された情報もなければ、降りたった町で宿泊した形跡も無いとは……。


 これはよもや王族の中でも滅多に現れる事が無いと言われる、時空魔法の適性がサラ様にはあるのか!?


 そう考えれば全て納得が行く。

 迷宮都市で宿泊した事が無いのも、どこか別に拠点を持っているのだとしたら……。


 どうやら私はとんでも無い秘密を知ってしまったらしい。

 時空魔法適性持ちの王族は、王宮深くにある精霊殿に住まいを持つと言われているのだ。

  

 その存在は秘匿ひとくされ、王と同等の扱いを受ける。

 何者にも利用されないよう、厳重に周囲を影衆の精鋭部隊『万象ばんしょう』が護衛しているらしい。


 その人数は50名。

 24時間2交代制で、場合に依っては王の命より優先されるまさに至高の存在。


 当然、影衆のトップは当主が務める。

 現在の影衆トップは完全な実力主義で決められていた。


 毎年その技術を競い勝ち残った者がなるのだけど、ここ数百年代替わりしたとの話は聞いた事が無い程化け物じみた御仁ごじんらしい。


 父がお役目をたまわる以前、若かりし頃に稽古を付けてもらったと言っていた。

 単純に考えて300年間は当主の座を譲った事が無い計算になる。


 一体サラ様はどういう経緯があり、カルドサリ王国で冒険者をする事になったのか……。

 これ以上調べる事は危険だと判断し、私は命令を取り下げた。


 王都からシルバーウルフの皮狙いでやって来た冒険者が撤退し、やれやれと息を吐いていた私の所に更なる爆弾が投げ込まれたのはそれから少し経過した後だった。


 コカトリスの卵を大量に換金される事や、ダンジョンで採取した果物を換金出来ないかと尋ねられた出来事等吹き飛ぶくらいに衝撃を受ける。


 面会を希望している冒険者が居ると聞き、会ってみれば20年も昔に地下20階を攻略していたトップクランのリーダーだった。

 全身が石化していたためにダンジョンから帰還出来ず、冒険者ギルドカードが停止された状態なので更新してほしいと言われた時にはあごが外れそうになるくらい驚いた。


 このクランリーダーの事はよく覚えている。

 若くして迷宮都市のトップクランにまで上り詰めた期待の冒険者だったからだ。


 20年前――。

 その堅実な攻略の仕方には、密かに迷宮都市の最終階層がついに更新されるかも知れないとさえ思った。

 確か妻が優秀な治癒術師だったはずだ。


 しかし全身が石化された状態を、一体誰が治療したと言うのか?

 カルドサリ王国でそれを可能とするのは、教会の枢機卿クラスが使用するハイヒールくらいなんだが……。


 治療費は金貨100枚(1億円)では収まらないだろう。


 私はタブーだと分かっていてもどうしても気になり、態々わざわざ他言無用の誓約書を書いてまで彼に治療した人間を聞き出した。


 すると彼は秘密なんだが……と前置きし絶対に沈黙を守ってほしいと忠告した後で、サラ様の護衛2人の名前を言った。


 なんですとっ!?


 彼らは単なる護衛役ではなく、高名な治癒術師であったのか!

 ハイヒールが使用出来るのならば、王族の侍医を任される程の地位にある。


 それがサラ様に2人も付き従っている事から、これは相当手厚く保護されている事がうかがい知れた。

 

 挨拶に来たクランリーダーのパーティー全員の冒険者ギルドカードを更新し、私の方からもそれとなく年若い(実際は違うと思われるが)サラ様達が狙われる事が無いように口止めしておいた。


 彼は義理難い人間だから、治療してもらった方に迷惑を掛けるような事はしないだろう。

 もし口を滑らせる事があったら、申し訳無いがこちらで対処させてもらおう。


 サラ様、いくら慈悲深い性格をしていらっしゃるとは言え、全身石化した人間の治療をするのはマズイです!


 教会に知られでもしたら強欲な人間の事だ、きっと囲い込もうとするはず

 きっと手段は選ばないに違い無い。


 もしサラ様の周囲に危険が迫れば、影衆の当主が皆殺しにするだろう。

 あぁ、ダンジョン産の果物を換金してほしいとお願いされた事がなんと可愛い出来事だったか。


 薬草は受付嬢に言って換金対象にしてもらったけど、流石さすがにダンジョン産の果物は常設依頼に追加出来ません。

 もし常設依頼に追加してしまうと、換金狙いで冒険者が無茶な攻略をして命を落とす危険性があったからですが……。

 

 その時もサラ様にご寛恕かんじょ頂けるか心配していましたよ。

 

 私の任期終了まで後100年。

 もう何も無いですよね?

 これ以上は本当に勘弁して下さい。


 またしても、私の願いは叶わなかったようだ……。


 その後、サラ様から従魔登録を依頼されてしまう。


 あ~、サラ様?

 もう全然隠す気はないようですね!


 本当に大丈夫なんですか!?

 私、本国から冒険者ギルドマスターのお役目を首になったりしませんよね??

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