私は確認しようと、念話の魔道具を起動させた。
兄から直ぐに応答がある。
『沙良。何か動きがあったのか?』
『うん。従者の1人が離れて別行動を取り出したみたい。誰かと接触するのを待った方がいいかな?』
『そうだな。今回の経過報告を知らせるために仲間と接触する可能性がある。もう少し、行方を追ってくれ』
『了解!』
従魔登録も済ませたので、ランドルさんへお礼を言い会議室から出ようとした所、
「これを、お守り代わりに持っていなされ。何かあった時は吹いてみるとよい」
紐が付いた小さな笛のような物を渡された。
何だろう?
犬笛みたいな物かしら?
吹くと、ランドルさんと同じ種族の獣人が駆けつけてくれるとか?
「ありがとうございます。大切にしますね」
もらった笛を首から下げ、お礼を伝え冒険者ギルドを後にした。
知り合いらしい奏伯父さんへ早速尋ねてみる。
「ギルドマスターのランドルさんは、何の種族なの?」
「俺もはっきり知らないが、多分鳥系じゃないかと思う」
「あ~彼は特徴的な目と髪の色をしているから、白頭鷲の一族じゃないかと思う」
横から父が推測を述べる。
髪の色は分かるけど特徴的な目?
私は特に変わった所もなく普通に見えたけどなぁ。
「確かギルマスは空を飛べると自慢していたわね」
「俺にもそう自慢していたな」
雫ちゃんのお母さんと奏伯父さんが同じ事を言う。
じゃあ、これは犬笛じゃなく鳥笛か……。
「お守りにって渡されたけど、どんな効果があるんだろう?」
「多分、吹くと白頭鷲の一族に聞こえるようになっているんだろう。簡単に吹くような代物じゃない。いい物を貰ったな。大切にするんだぞ」
父からそう言われ、私は失くさないようアイテムBOXへ収納した。
そんな重要な物を会ったばかりの私にくれた理由が、さっぱり分からないけど……。
「あっ、従者の1人が誰かと接触してる!」
会話しながらも、ずっとマッピングで見ていた従者が冒険者と合流していた。
呪具をダンジョンに設置した実行犯かも知れない。
「お兄ちゃん。全員確保する?」
「少し様子を探りたいな。相手から見えない場所へ移転出来るか?」
「うん、大丈夫」
私は言った瞬間、パーティー全員を犯人達から見えない場所へ移転させた。
少し離れた先には、6人組の冒険者と司教の従者がいる。
暫く様子を窺っていると、7人が移動を開始した。
これから王都を離れる心算だろうか?
門には普段より多い衛兵が検問を行っている。
特に出ていく人間を警戒しているから、簡単に出られないとは思うけど……。
兄に捕捉のハンドサインを送った。
兄から指を2本立てた了解の合図が送られる。
逃げられる前にアイテムBOXへ収納しようとした所、突然犯人達が地面に倒れた。
兄から即座に中止の合図がくる。
私達の目の前で、犯人達は猿轡をされ簀巻きの状態になった。
けれど、それを実行している人間が見えない。
これは……もしや、妖精さんの仕業だろうか?
7人が同じ状態になると、空中からひらりと羊皮紙が犯人の体に落ちる。
身動き出来ない状態にされているから、危険はないだろうと近付き羊皮紙を取り上げた。
『アシュカナ帝国の諜報員です。自決しようとしたので、毒消しポーションを飲ませてあります。6人は呪具を設置した実行犯。1人は教会への連絡係でしょう。』
羊皮紙には、そう書かれてあった。
「先に妖精が動いてくれたみたいだな」
納得したように父がうんうん頷いている。
「妖精って……。ガーグ老の庭にいる?」
「まぁ! 来週は沢山お供え物を作らないといけないわね!」
奏伯父さんは唖然としていたけど、子供達を助けてくれた件を知っている雫ちゃんのお母さんは、お礼の品を考えているようだ。
「えっと、この人達は衛兵所へ連れていった方がいいの? それとも冒険者ギルドの方?」
「事件が起こったのはダンジョン内だから、今回は冒険者ギルドの方だろうな。従魔達に引っ張ってもらおう」
父が前回、誘拐犯を連行した時と同じように、簀巻き状態の犯人を従魔達と繋いでいく。
源五郎に繋がれたのは、司教の従者をしていた人物だった。
フォレストラビットでの移動はバウンドして大変そうだけど、敵に情けをかける必要はないか。
私達はそのまま従魔に騎乗し、再び冒険者ギルドまで戻った。
受付嬢へ犯人を捕まえた事を伝え、ギルド職員に引き渡す。
司教の従者と犯人の接触が判明したので、司教は尋問されるだろう。
教会とアシュカナ帝国が、実際どんな関係なのかは分からない。
少なくとも今回表沙汰になったお陰で、世間からは何らかの関与を疑われる。
教会と言えども客商売には違いない。
評判が下がるのは本意ではない筈だ。
これから相手国との関係を見直す必要が出てくるだろう。
本当に利用されているのは、どちらなのか……。
そんな事を思いながら迷宮都市に移転し、ホームの自宅へ戻ってきた。
帰りを心配していた雫ちゃんが、全員の無事な姿を見るなり安堵し旭に抱き着いている。
「ただいま、雫」
旭が雫ちゃんの背中をポンポンとあやしている姿が、兄と重なった。
2人は案外、似た者同士かも知れないなぁ。
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