竜馬に騎乗したまま王都の門を出ると、ガンツ師匠が騎獣用の笛を吹き進行方向の指示を出す。
テイムされた従魔は主人の意を汲み行動するので騎獣用の笛は必要ないが、調教された魔物には騎獣用の笛でモールス信号のように音を出し方角を示すのだ。
王都へ向かう際、借りたスレイプニルにバールが笛で指示を与えておったが……。
初日しか聞いた覚えがないのは、気の所為じゃろうか?
指示された方角へ竜馬が快調に走り出すと、みるみる内に速度が上がっていく。
体感速度が時速100Kmを越える頃、ふわりと竜馬が上空へ浮き上がった。
この魔物は空も飛べるのか!?
驚くと同時に、風圧や風切り音がない事に気付く。
もしかするとウィンドウォールの魔法で、騎乗者を竜馬が守っておるのかの。
「ガンツ師匠。目的地の鉱山は、どれだけ距離があるのだ?」
儂の後ろに乗っている師匠へ尋ねると、
「レガントの大型ダンジョンは、王都から馬車で2週間だな。スレイプニルなら1週間の距離だが、竜馬なら3日後には着くだろう」
当然のように言われ、開いた口が塞がらなかった。
この爺は説明を省き過ぎじゃ!
遠出と言っても、普通は当日帰れる距離だと思うではないか。
マジックバッグにはテントや食料品もある程度入っておるが、どう考えても戻るのに1週間は掛かりそうだ。
しかも鉱山の場所が、大型ダンジョン内とは聞いておらぬ。
鉱山になっている階層へ行くには、少なくとも20階層以上を攻略する必要があるだろう。
「師匠。次回からは行き先を、ちゃんと教えてくれぬか? 儂は、そこまで食料を準備してないぞ」
「鉱物の採掘はレガントの大型ダンジョンと決まっているから、伝えるのを失念した。食料ならレガントの都市で買えば問題ない」
「……分かった」
これからの先行きに不安を覚えるのは、取り越し苦労だと思いたいの。
思った以上に目的地が離れていると知り、儂は竜馬を鼓舞するように声を掛け首を叩いた。
「疾く駆けよ!」
すると竜馬が「ヒヒーン!!」と一鳴きし、ぐんぐんスピードを上げる。
こりゃ凄い! 眼下の景色が見る間に過ぎていくではないか。
このように儂自身が自由に空を飛べるなら、小夜を探すのも楽であろうな。
そんな事を思っていると、師匠が慌てたように笛を断続的に吹き鳴らす。
ピーピーと煩いのぅ。
「どうなっているんだ? いくら何でも速すぎるだろう!」
竜馬の速度に合わせ指示するために、忙しなく笛を吹いているようだ。
仕方ない、到着するまで我慢しよう。
ガンツ師匠の笛の音は、その後もひっきりなしに続き少々耳が痛くなったところで突然音が止み、竜馬は降下を始め地面に降り立った。
目の前には、どこかの都市に入る門が見える。
「ありえん! 1時間でレガントの都市に着いたぞ!?」
ほぉ、3日は掛かると言っておったが予想以上に早く到着したのか。
この竜馬が頑張ってくれたようじゃ。
そのまま門を潜り騎乗屋に竜馬を預けたあと、必要な食材を買い足してダンジョンへ向かう。
ダンジョン入口で、鍛冶師ギルドカードを見せるように言われ首を傾げる。
冒険者ギルドカードではないのか?
師匠へ視線を送ると、レガントの大型ダンジョンは鍛冶師A級以上の資格がないと入れないと言われる。
このクソ爺! どうして必要な説明をせんのだ!
昨日、鍛冶魔法を習得したばかりの儂が知る訳ないだろう。
入場料の銀貨3枚を支払い地下1階への階段を下りると、見慣れた迷路状の階層ではなく大きな山が見えた。
儂が潜ったダンジョンは、地下10階まで迷路状であったのに……。
ダンジョンによって、ここまで違うのか?
鍛冶師しか入れないダンジョンなら、あの山は鉱山になってそうだな。
「師匠、鉱山と言うのは……」
「うむ、今見えておる山がそうだ。道中に出てくる魔物は強いぞ? 心して掛かれ!」
頭が痛くなってきた……。
何の事前説明もせず、このような大型ダンジョンを潜らせるとは。
いや、いかん、そんな事に気を取られている場合ではない。
ここはもう魔物が出現する危険地帯で、一瞬の迷いが死を招く場所だ。
気を引き締めて長槍を手にし、周囲を見渡す。
最初に発見した魔物が、一つ目のサイプロクスである時点で嫌な予感がする。
マクサルトの大型ダンジョンでは、地下49階に出現した記憶があった。
「師匠。念のため聞くが、このダンジョンの等級は?」
「S級ダンジョンだ」
「たわけっ! C級冒険者の儂を連れてくる場所じゃないわい」
「シュウゲンはC級冒険者だったのか?」
「何故、最初に確認をせん!!」
「A級鍛冶師であるなら、スキップ制度を受けているかと思っていた」
考えもしなかったと言うように、肩を竦めた師匠を見て溜息が出た。
こやつは指導者に向いておらんな。
「もうよい、魔物は儂が倒すから見ておれ」
接近してきたサイクロプスを前に、長槍を地面へ突き刺して足を蹴り飛び上がると首に両足を巻き付けひと捻りする。
大きな巨体を持つサイプロクスは、首の骨が折れて地面に倒れ込んだ。
この魔物肉は食用にならんから血抜きの必要はない。
さっさとマジックバッグに入れ、遠くに見える山を目指し走り出す。
鉱山へ入るまで次々に襲ってきた魔物は、全て儂独りで倒す羽目になった。
バールが魔物を相手にせんのはいつもの事だが、師匠も武器を取らぬとは……。
魔物を片付けるのは、弟子の仕事だろうと言わんばかりだ。
漸く鉱山に辿り着いた時、流石に疲れて休憩したいと願うも安全地帯はないと言われ愕然とする。
地下1階から、とんだ災難じゃ。
鉱山の入口には縦横5m程の穴が開いており、中へ入ると洞窟のようになっていた。
奥に進む間も魔物が出現し、採掘作業は容易でないと分かる。
100mくらい歩いたら、師匠が止まれと合図を出す。
「この辺りで採掘を始めよう。まずは、鉱物の声を聴くところからだ」
鉱物の声だと? そりゃ比喩か何かか?
「無心になれば、鉱物の声が聴こえてくるだろう」
無茶振りをするでない!
無機物の声など聴こえる訳がなかろう!
ここで瞑想しようものなら、魔物の餌食になるだけじゃ。
それともドワーフという種族には、そういった特殊能力があるのか?
いやいや馬鹿らしい。
このクソボケ爺の言う事を聞いておったら死にそうだ。
「ほれ、ツルハシとハンマーを渡しておこう。鉱物の声が聴こえた場所に、ツルハシを打ち込めばよい」
渡された採掘道具を手にし、暫し茫然となる。
どうやら儂は、師匠に恵まれておらんようだ。
一から十まで説明せよとは言わんが、感覚でものを言う相手とは話にならん。
「バール、鉱物の声なんぞ聴こえるか?」
ここで頼りになりそうなバールへ小声で尋ねてみると、
「私は火属性なので……、土属性の者であれば容易いと思います」
申し訳なさそうに返答される。
まぁ普通はそうであろう。
ふむ、どうしたものか……。
やはり、ここは勘かの?
そう思い洞窟内の壁へ視線を向け、ここだと思った場所に大きくツルハシを振り上げ打ち付けた。
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