2人が果物採取をする間、襲ってくる迷宮モンキーを息子と一緒に倒す。
しかし、この果物が生る森には迷宮モンキーしかいないのか?
そもそも、ダンジョン内に森がある事が驚きだ。
上を見上げると空が見えるし……。
一体ダンジョンの構造は、どうなってるんだろうな?
流石に太陽はないが、光源もないのに昼間みたいに明るい。
アイテムBOX持ちの息子が倒した魔物を次々と収納している。
息子が騎乗しているのは、沙良ちゃんがテイムした山吹だった。
俺もシルバーウルフが良かったよ。
マリーに騎乗しながら槍で倒すのは無理だろう?
魔法なら問題ないが、飛び跳ねるウサギに振り落とされないよう槍を振るうのは至難の業だ。
3時間後、休憩するために安全地帯へ戻る。
ホーム内で昼食を食べるらしい。
響の家に行くと、美佐子さんが料理を作ってくれていた。
おおっ! ダンジョン攻略の月~金曜日の昼食は、妻の料理を食べなくて済むのか!
美味しい料理を食べていると、沙良ちゃんから土曜日の午後は時間を空けてほしいと言われる。
「なんだ? どこか一緒に行くのか?」
これは、娘からデートのお誘いかと思い嬉しくなった。
すると彼女は俺にマジックバッグの作製を依頼したいと続ける。
うん? デートじゃないのか……。
そういや、俺の新しい能力に空間魔法ってのがあったな。
妻と息子がアイテムBOXを使用出来るなら、マジックバッグは必要ないと思っていた。
「マジックバッグは、幾らぐらいするんだ?」
ヒルダだった王族時代、俺は自分で物を購入した事がなく値段を知らない。
「今、私達が持っている30㎥の物でも金貨410枚(4億1千万円)しますよ」
「4億円!? 俺は、マジックバッグを売れば左団扇で暮らせそうだなぁ」
1個4億円もすると聞き、つい皮算用を始める。
攻撃魔法がなく残念だと思っていたが、新しい能力は予想外に役立ちそうだ。
「樹。空間魔法持ちは、国に保護され秘匿される人間だ。下手に販売なんかすれば、速攻で捕まるぞ?」
そんな俺に響が釘を指す。
せっかく念願の冒険者をしてるのに、国に保護されるなんて冗談じゃない。
「えっ! そうなの? なら金儲け出来ないのか……。結花や尚人のアイテムBOXの方が便利な気がする」
「それでも、私達が使う分には購入しなくて済むから助かるよ! 樹おじさんは、マジックバッグを持ってないでしょ?」
「あぁ、そうだ。今は持ってないんだった……。試しに1個作ってみるか」
森の家にあると思うけど、まだ取りに行けないよな。
食事を終えた後、渡された鞄へ空間魔法を掛ける。
響が鑑定し、マジックバッグになっていると教えてくれた。
ステータスを確認するとMPが700減っている。
Lv×1㎥のマジックバッグを作製出来るなら、きっとこのMP消費量はLvに比例すると思う。
「1個作製するのに、Lvの10倍MPが必要みたいだ」
俺は予想した内容を伝える。
Lv70の俺の魔力は8,520あるから、単純計算すれば12個作製が可能だ。
午後から、息子は沙良ちゃん達と摩天楼のダンジョンへ攻略に行くらしい。
そのダンジョンは、確か響がガーグ老達とLv上げをした場所だったような……。
俺は妻と雫の3人で地下15階のダンジョンへ戻る。
パーティーって、全員一緒に行動するもんじゃないのか?
娘と一緒じゃないと知り、少しがっかりした。
果物採取が済んだので、午後からは魔物討伐に励む。
といってもLv70の俺は、迷宮都市のダンジョンに出現する魔物じゃ経験値が足りない。
女性化する日までに、なんとか矛盾しないようLv70にしておきたいが……。
妻と雫は、魔法Lvを上げるため武器を使用せず従魔に騎乗したまま倒していた。
攻略速度を合わせる必要があり、俺もマリーに騎乗し魔法を使う。
個人的には武器を振り回す方が好きだけどな。
川を発見すると、妻が水面に向けサンダーボールを撃つ。
川に生息していた迷宮ナマズが感電しぷかぷかと浮き上がってきた所、雫がアースボールで息の根を止めた。
へぇ、随分効率よく魔物を倒すんだなと感心する。
ちなみに魔魚を見るのは初めてだ。
体長は3mくらいあるだろうか? 日本でナマズは高級魚として知られている。
白身の淡泊な味だが、天麩羅にして食べると旨そう。
1匹換金せず、食べてみたいな。
妻……ではなく、響の奥さんか沙良ちゃんに料理してもらうか?
夕食は、2パーティーの冒険者と一緒にダンジョンの安全地帯で食べた。
冒険者達は『バーベキュー』をしている。
小皿に入れた液体が気になり聞いてみると、娘が『焼肉のタレ』を銀貨3枚(3万円)で売っているそうだ。
3万円って……、ぼったくりじゃね~か!
でもまぁ異世界にはない調味料だから、冒険者は貴重な品だと思い購入してくれるんだろう。
俺達のメニューは、『照り焼きチキンピザ』・『マルゲリータ』・『フライドポテト』・『唐揚げ』・『シチュー』とダンジョン内ではありえない料理だった。
一緒にいる冒険者が驚いた様子もなく普通にしているから、娘はダンジョンで色々作っているらしい。
あぁ、こりゃ護衛している『万象』達が娘の料理を食べたがる訳だ。
初めて目にする物を、毎日見せられれば味が気になるだろうし。
それでガーグ老の家族構成が、おかしな事になったのか……。
ダンジョン攻略中は、朝食だけ我慢すればよさそうで安心する。
夜は自宅に戻ってきた。
お風呂上りで、バスタオルを体に巻き付けただけの結花が迫ってくる。
俺は誘いに乗る振りをして抱き締め、眠りの呪文を唱えた。
風邪を引かないよう、パジャマを着せ前回文句を言われたパンツも穿かせる。
すやすやと寝息を立てている妻の隣で、俺は1人もんもんとした夜を過ごした。
翌日、火曜日。
テントからダンジョンの安全地帯へ出ると、タマが飛んできて左肩に止まる。
「お~、タマ。ダンジョンまで遊びにきたのか?」
きっと俺の護衛にガーグ老達が就いているな。
タマの頭を撫でてやる。
「おじさん。2匹はそっくりなのに、よくタマだって分かったね~」
「あ~、タマの方が顔に愛嬌があるだろう?」
娘からの思わぬ突っ込みに、普通はポチとタマの見分けが付かないのを失念していた。
2匹の白梟は見ただけじゃ、どちらか分からない。
不思議に思われても仕方ないだろう。
何とか無難な回答をしたが、娘は納得していないようにみえる。
俺に懐いている従魔を見て、冒険者達も不思議そうだ。
特にアマンダ嬢は訝し気な表情をし、俺の方をじっと見つめてくる。
その容姿に既視感があり、どこで見た顔だったか思い出した。
響と結婚し、この国の第二王妃になった俺は有力貴族と挨拶を交わした事がある。
一応、嫁ぎ先の貴族は覚える必要があったので公爵・侯爵までの位は勉強していたのだ。
彼女はその中の公爵夫人と似た所がある。
響に確認すると、迷宮都市のあるリザルト公爵令嬢だと返事が返ってきた。
公爵令嬢が冒険者をしているのか?
まぁ、同じメンバーには伯爵の義父もいるから不思議じゃないが……。
少し気になり、武器の手入れをする振りをし槍を手に持ってみた。
すると彼女のパーティーメンバーが一瞬、ほんの僅かに動きを見せる。
あぁ、これは……冒険者じゃないな。
王族を陰から護衛する影衆達を知る俺には、魔法士が呪文を発動させるため口を動かしたのと、他のメンバーが袖から暗器を取り出そうとする動きがはっきり視認出来た。
国王だった響には、近衛しかいないから気付けなかったのかも知れない。
娘はアマンダ嬢を信用しているようだが、俺は警戒を強めた。
冒険者をしている公爵令嬢に、王族の護衛と匹敵する者が就いているのはおかしい。
リザルト公爵夫人は、他国から嫁いできた第三王女だった筈。
何か目的を持って娘の傍にいるんだとしたら、理由を探る必要がありそうだ。
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