父から階層の移動を反対され大人しく地下7階で槍のLv上げをし、3時間後に地下15階の安全地帯へ戻ってくる。
テントからホームの実家に移動して、母の作った昼食を食べた。
食事の最中、雫ちゃんがサンダーボールの魔石を使用した話を興奮気味に伝えてくれる。
「沙良お姉ちゃん、もう本当に凄かったの。ピカって光った後、空から雷が落ちてきたんだよ!」
どうやら地下15階にいる迷宮ナマズを倒すため、川へ撃ち込んだらしい。
いつも旭がサンダーボールで全滅させているので、真似をしたんだろう。
そんな効果は私達の魔法にないけどなぁと思っていたら、話を聞いた父が隣で溜息を吐いていた。
樹おじさんのサンダーボールのイメージは、雷そのものだったのか……。
それなら10回しか魔石が使用出来ないのも納得だ。
だけど、Lv1でそこまで威力があるのかしら?
「雫、回数が少ない魔法はあまり使用しない方がいい。少し、効果が高いかも知れないからな」
樹おじさんは、そう言いながら興奮している雫ちゃんを宥めていた。
「え~、私も皆と同じ魔法を使いたいよ!」
初めての魔法を使用した雫ちゃんは不満顔をする。
「魔物の損傷が激しいと、換金額が下がるぞ?」
「あら、それは駄目よ。雫、お父さんの言う事を聞いた方がいいわ」
家計を握っているお母さんが、すかさず賛成に回り雫ちゃんは不貞腐れてしまった。
今まで自分だけ覚えていない魔法が沢山あったから、使用してみたかったんだろう。
可哀想なので、雫ちゃんだけデザートのケーキを出してあげた。
摩天楼のダンジョンへ移動する前に、従魔達へ宝箱に入っていたアイテムの指輪を足首に着けてあげよう。
従魔達は力が2倍になる指輪を貰い嬉しそうにしている。
シルバーだけは両足に従魔用アイテムを装着する事になった。
樹おじさんに渡していたポシェットがもう完成したらしく、受け取ってダイアンとアーサー達の首に掛ける。
茜はマジックバッグの存在を知らず、40㎥入る袋だと言うとかなり驚いていた。
「姉さんが作っていたのは、ダイアン達の分だったのか? この刺繍のキャラクターは、少し可愛すぎるような……」
茜には可愛いキャラクター刺繍の良さが伝わらず不評らしい。
従魔達に意味は分からないから大丈夫だよ。
シュウゲンさんを連れ摩天楼ダンジョン31階へ移転し、私は茜とテント内に入る。
そして早速、午後の予定を切り出した。
「茜。お兄ちゃん達には内緒で、99階のベヒモスを倒しに行きましょう!」
妹にベヒモスを召喚したと聞いた時から、Lv上げのために討伐しようと思っていたのだ。
兄達は3時間後じゃないとテントには戻らない。
2人でテント内にいる今がチャンスなのよね。
「えっ! これから2人で行くのか?」
「そうよ! ちまちまLv上げをするのは性に合わないから、強い魔物を倒して効率よく上げたいわ」
「姉さん、ベヒモスはかなりの大物だよ。体長は20m以上あるし、私が何度挑戦しても無理だったんだ。2人だけで倒せるとは思えない」
私の話を聞いた茜が渋面を作り反対意見を述べる。
ベヒモスは体長20mもあるのか……。
でもきっとドラゴンよりは小さいだろう。
マッピングで体内の魔石を抜けば、普通に死ぬと思うから大丈夫。
出来れば投擲術も習得したい。
的となる面積が大きい程、槍が刺さる可能性が高くなる。
一度でも魔物に刺されば、投擲術を覚えられるかも知れないし。
「問題ないわ。無理そうなら移転で逃げましょ!」
賛成しかねるといった表情の茜を問答無用で99階へ連れて行く。
99階層は山岳地帯になっており少し気温が高く、25度くらいはありそうだ。
かなり広い階層で半径50kmはあるだろうか? 私達の周囲に魔物の姿はない。
ベヒモスしかいないらしいので、他の魔物を気にしなくて済むのは逆に討伐しやすいだろう。
マッピングでベヒモスの姿を探すと、平野の部分で横たわっていた。
うわ~、聞くと見るとでは違い本当に大きい!
槍を投擲する前に突進されたら、間違いなくぺしゃんこになりそう。
これは直接対決しない方がいいかも……。
あまりの大きさに慄き、あっさり戦略を変え、まずは安全地帯へ移動する。
一度ベヒモスを倒しLvを上げてから再挑戦しよう。
Lv55じゃ、ちょっと心許ない。
マッピングを使用して倒すと、茜には経験値が入らないけど……。
今回は安全を優先させよう。
そう思い、視界に収めたベヒモスの体内から魔石を抜き取った。
そのままアイテムBOXに収納する。
するとベヒモスの姿が消えた瞬間、沢山の魔物が出現した。
本来99階にいた魔物がベヒモスが倒された事で、現れたんだろうか?
うん? それなら、ベヒモスはもう出現しないんじゃ……。
「茜、ベヒモスを倒したら魔物が出てきたみたい」
「はっ? 99階層には、ベヒモスしかいなかった筈だけど?」
「ふっ、不思議ね~。今いる魔物を全滅させたら、またベヒモスだけになるのかしら?」
「姉さん。そうはならないと思う……」
だよね~。
そんな都合よく、出現する魔物は変わらないだろう。
茜が呼び出したベヒモスは、100階層のダンジョンに現れるような魔物じゃないから、召喚も1度が精一杯だったのかも……。
「ええっと、ちょっとベヒモスを出してみるね」
ここは話題を変えようと、アイテムBOXから魔石を抜かれたベヒモスを出した。
目の前には小山のような巨体の魔物が横たわっている。
マンモスをイメージしていたけど、姿はサイに近いだろうか?
口からは大きな牙が2本生えている。
体表は硬い毛で覆われ、茶褐色をしていた。
私は反則技を使用し倒したけど、この魔物を冒険者が倒すには1パーティーでは難しい。
少なくとも複数パーティーで挑まなければ、全員が返り討ちになりそうだ。
茜は、よく1人で挑戦する気になったな……。
「先に倒されてしまったか……」
妹は残念そうに言うと、ベヒモスを名残惜しそうに見つめていた。
ご、ごめんなさい。
魔物の召喚枠全てを使用し呼び出したベヒモスを私が倒してしまい、申し訳ないです。
せめて亡骸は茜にあげよう。
魔石は貰ってもいいよね?
ステータスを確認すると、Lvが一気に100になっていた!
よし! これでLv100の恩恵があるに違いない。
あれ? そう言えば、茜には何も恩恵がなかったんだろうか?
再召喚後のステータスは、特に変化が見られなかった。
気になって尋ねたら何もなかったと返事をされる。
父もセイさんも移転組だけど、恩恵はなかったようなんだよねぇ。
この違いは何だろう?
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