ガーグ老に見張られ外出するのを諦めた俺は、家の中へ戻り響達が戻るのを待つ。
まだ1時間以上は掛かるだろうと、換金せずにおいた魔石を取り出し魔法を付与していく。
付与魔石は使用回数が限られているため消耗品と同じだ。
数は沢山あった方がいい。
そういえば、鑑定をしたセイさんにLvが20あるのがバレたんだよなぁ。
Lv50にならないと魔法Lv20まで開放されないから、絶対怪しまれてる筈。
あれから彼は何も聞いてこないけど、響に相談するのを忘れてたわ。
魔石に魔法を付与し終わる頃、ポチが戻ってきた。
足輪に収納したポーションを受け取り、どうやって飲ませようか頭を悩ます。
Lv5の魅惑魔法を掛けたら、問答無用で押し倒される気がしてならない。
ポーションを飲ませる余裕はあるだろうか?
そんな不毛な事を考えていると、響達が戻ってきた。
俺を見て親指を立てているから首尾よく肖像画を盗めたのだろう。
ゼンから娘達が王宮に拘束され、待ち合わせ時間に遅れると伝えられた。
王族の肖像画が消えれば、当然犯人を捜索するため王宮の出入りは制限される。
だが伯爵の義父が一緒なら、それ程待たなくて済みそうだ。
ゼンがガーグ老へ何かを耳打ちした途端、目に見えて爺の顔色が悪くなった。
王宮で何かあったんだろうか?
冒険者ギルドへ移動し娘達を待っている間、付与魔石の魔法Lvの件を響に相談しよう。
「お前、それは完全にバレてるぞ。鑑定してもらったのを、どうしてもっと早く言わないんだ。今更、何と言って聖に誤魔化す心算でいる」
「いや、色々ありすぎたから忘れてたんだよ。やっぱ、拙いよな~」
「付与した魔法Lvが20なのは、どう考えてもおかしいだろ」
「ええっと、どうしよう?」
「聖が黙っているなら、変に言い訳しない方がいい。このまま有耶無耶にしておけ」
「それで大丈夫かな?」
「現時点では、それが一番問題ない。もし聞かれた時は正直に話そう」
「分かった」
魔法Lvに関し、聞かれるまで何も言わずにおこうと決める。
1時間後、義父達が冒険者ギルドに入ってきた。
「せっかく肖像画を見にきたのに、盗まれて確認出来なかったの。せめて第二王妃が住んでいた森を見てみたい!」
娘が肖像画を見れず残念そうな顔をして俺達に報告する。
しかし、後に続く言葉を聞き響と顔を見合わせた。
「そっ、それは残念だったな。犯人が捕まるといいが……。森の中には入れないだろ? 見に行く必要はないと思うぞ?」
動揺した響が余計な情報を言ってしまう。
世界樹の精霊王が張った結界を、俺達が知っているわけない。
「あっ、それと王宮で宮廷魔術師の綺麗な女性達に会ったんだよ。また、ヒルダさんに間違えられちゃった。でも私をティーナ様って呼んでたなぁ。きっとエルフの人ね! ガーグ老とも知り合いみたい」
「えっ!? 沙良ちゃんをティーナと呼んだの? そっ、その女性はどんな人だった?」
俺が産んで直ぐに世界樹の精霊王が隠してしまったから、娘の名前を知っているのは女官達と護衛騎士だけだ。
「え~っと、宮廷魔術師というより騎士みたいな感じの人だよ。年齢は50代くらいかな? 10人いた女性達もヒルダさんを知っているように見えた」
10人!? なら女官達は、まだ生きているのか?
先程、ガーグ老の顔色が悪くなった理由は……。
「もしかして……にょ……。女人達はエルフかも知れないね!」
50代に見えたなら、護衛騎士達ではなく女官達だろう。
ティーナの生存を信じ、カルドサリ王国に残っていたのかも知れない。
それにしても、どれだけLvを上げたんだ?
王女付きの女官達は、護衛も兼ねているから武の出身者ばかりだが……。
女官長達に再び会えるとは思わなかった。
男の姿で会うのか……。
彼女達を思い出している間に、娘はさっさと移転してしまった。
あっ! 森の中に入れたら娘が不審がる。
俺と響は慌てて、先を歩く娘の後を追いかけた。
「沙良、それ以上は先へ行くな!」
響が牽制の声を上げたが、娘は立ち止まらず森へ進んでいく。
森との境目でシルバーが立ち止まった。
精霊王の許可がない従魔は、結界に阻まれて中へ入れないんだろう。
そこで娘も立ち止まるかと思いきや、中に手を突っ込んでいる。
彼女の手は、何の障害もなく結界の中に入った。
森の家にある母子手帳を見られる訳にはいかない!
俺は必死で走り、一歩森へと踏み出した娘の手を掴み抱き寄せた。
「沙良ちゃん、勝手に森へ近付いちゃ駄目だ。結界は、他者を排除する役目もある。下手をしたら、命の危険もあるんだ」
俺は、いつになく真剣な表情で娘に危険性を訴える。
「多分、私は入れると思うんだけど……」
「いや、危険な行為はしない方がいい。もし仮にお前が入れたとして、何かあったらどうするんだ? 俺達は助けにいけないんだぞ?」
追い付いた響が、娘を諭していた。
「分かった。ここから見るだけにする」
俺達2人から森に入らない方がいいと言われた事で、娘は大人しくなる。
そのまま、じっと森を凝視していた。
「マッピングじゃ見えないみたい」
ぽつりと呟いた言葉を聞き、俺と響は同時にほっと安堵の溜息を吐いた。
俺が住んでいた森は、精霊の森と同じ結界が張られていたのか……。
侵入者を拒むだけじゃなく、遠見魔法も阻害する効果があったらしい。
森の中を見られずに済んで助かった。
まだティーナであると知るのは、時期尚早だからな。
その後ホームへ戻り、響と夕食後に会う約束をして別れた。
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