ガーグ老達と女官長達とは、ここで一旦別れた。
帰国した事を父達に報告しようと家の中へ入る。
1階では、子供達が母親達と楽器の練習をしているところだった。
メンバーの姿がないのは、邪魔をしないよう2階にいるからだろう。
母親達に炊き出しのお礼を伝え2階へ上がる。
扉が開いている部屋へ入ると、父達が椅子に座り寛いでいた。
「ただいま~」
「おかえり。思ったより早く帰ってこれたんだな。アマンダさんの依頼は問題なく熟せたか?」
父が私達に気付き何もなかったか聞いてくる。
アマンダさんが第二王子だという事や青龍の件は皆へ秘密にしているから、偽の婚約者のフリが上手くいったかどうか返事をする。
「うん、大丈夫。エンハルト王国で女王に会ってきたよ。樹おじさんを婚約者だと紹介したら、納得してもらえたみたい」
「そうか、詳しい話はあとで聞こう」
「沙良ちゃん、早くホームに連れてって~」
1日異世界で滞在しただけなのに、旭が涙目になっている。
そんなにホームが恋しかったのか……。
トイレを我慢してそうだったので、部屋からホームへ移転した。
案の定、旭はトイレに直行する。
見ていた雫ちゃんが笑っていた。
今日はガーグ老達も疲れているだろうから、武術稽古はお休みしよう。
実家にいる母に帰宅を告げて、お昼を作る。
イカ・海老・帆立が入った海鮮中華丼とワカメと卵のスープに唐揚げを出し、皆で頂きます。
エンハルト王国では、お米が食べられなかったからね。
3食パンは、どうしても飽きるのだ。
食後、昨日行けなかった薬師ギルドへ兄、旭、お母さんと向かう。
3人がポーションに浄化とヒールを掛けている間、私は受付嬢からエーテルとハイエーテルを大量に購入した。
これから飴を沢山作らないといけない。
毎週ハニー達が沢山薬草を採取してくれるおかげで、迷宮都市はポーション類が豊富にある。
多少、私が大人買いしても大丈夫!
ポーションより魔法士が使用するエーテルは需要も少ないだろう。
ゼリアさんに薬草を換金してもらいホームへ戻った。
旭には家族で過ごしてねと言い、本当の依頼内容を知っている父に事情説明をしに自宅へ帰る。
家で待っていた茜とセイさんを交え、結果報告をした。
青龍の巫女が攫われ、魔族と入れ替わっていた話を聞いた父は怪訝な表情をする。
「魔族?」
「なんかね、悪魔みたいな種族なんだって。契約者の魔力を対価に願い事を叶える存在らしいよ。異界から召喚陣で呼び出す方法を教えてもらったの」
「沙良……、まさかその魔族に何か願ったんじゃないよな?」
「それがね、弱すぎて役に立ちそうもないから強くしようとしているところ!」
「意味が分からん。賢也、説明してくれ」
私から話を聞くのは時間の無駄だと考えた父が、兄へ視線を投げる。
失礼な! ちゃんと話してるじゃん!
「攫われた巫女は、別の魔族がアシュカナ帝国へ連れ去ったらしい。沙良は巫女を取り戻すために、知り合った魔族の青年の爵位を上げて依頼する心算みたいだ。魔力を上げる飴を舐めれば俺達のステータス値は下がらないから、上手くいけば動かずに巫女を救えるかも知れない」
「あぁ、そういう事か。しかし、よくその魔族が承知したな」
「女性化した樹おじさんが好きみたいだよ」
「あの顔に惚れたのか……」
私そっくりなヒルダさんの姿になっているおじさんを思い出し、父は納得したようだ。
「青龍は、寝ていただけだった。目が覚めて水量が増えたから依頼達成だよ」
「本当にそれだけなのか? エンハルト王国へ迷惑を掛けてないだろうな」
「うん。特産品の碧水晶もお礼に貰えたし、女王は凄く感謝してくれた!」
胸を張って答えると、父は何故か溜息を吐いた。
「巫女をアシュカナ帝国へ行き、勝手に救出しようとしなかったのは賢明だ」
私だって敵国に少人数で乗り込んだりする程、無謀じゃない。
2人とは違いますからね。
「でも早く助けてあげたいから、お父さんも協力してほしい」
父にエーテルとハイエーテルを飴にした物を渡し旭家へ向かう。
3人にエンハルト王国で魔族と知り合った話をし、契約して爵位を上げさせたいとお願いした。
魔族を見た事のない3人は、危険がないならと快く了解してくれる。
実家へ寄り奏伯父さん、シュウゲンさん、早崎さんにも同じ話を伝え、お願いを聞いてもらった。
母は出産するまでホーム内にいてほしいから、今回のメンバーから外す。
子供達が楽器の練習を終えて帰るのを待ち、異世界の家へ移転。
ルシファーの父親から渡された召喚陣を見ながら、庭に魔法陣を描く。
女官長は特に魔法陣を描く時、触媒のような物を使用していなかったから間違いなく召喚出来る筈だ。
雫ちゃんが魔法陣を興味深そうに見て、召喚呪文を唱えたいと言う。
まぁ、あれは誰が唱えても問題なさそうなのでOKした。
「魔族召喚!」
雫ちゃんの声が響き渡ると同時に、召喚陣の上に着替えを済ませたルシファーが現れた。
「角がある!」
魔族を初めて見る雫ちゃんが興奮気味に声を上げ、近付こうとしたところを旭が引き留めている。
召喚されたルシファーは樹おじさんを見た瞬間、花が咲くように顔を綻ばせ嬉しそうだ。
魅惑魔法は、一体どれだけ効果が続くのだろう……。
「姫! 会いたかった!」
その場にいる人間には目もくれず、ルシファーが樹おじさん目掛け駆け出した様子に父から低い声が漏れた。
「樹、ちょっとこい」
父に片手で頭をがっしりと掴まれたおじさんは、ルシファーから遠ざかる方向へ連行されていった。
おや? 魅惑魔法に掛かっていると分かったのかしら?
あとを付いていこうとするルシファーは、セイさんが阻み睨みを利かせている。
一応、メンバーの紹介をしておこうかな。
家族関係がとても複雑なので、彼には冒険者のパーティーメンバーとだけ伝えた。
ここで樹おじさんに妻がいる事や、旭と雫ちゃんを義兄と義妹と言えば混乱するだろう。
私とおじさんが親子だと思っていれば充分だ。
今日の契約分を済ませようと、さっさと願い事を口にする。
「ルシファー、お手玉を10回するのが私の願いよ」
「お手玉とは何だ?」
アイテムBOXからお手玉を2個出し、見本を見せると頷いてみせる。
「それなら簡単だな。契約成立だ」
お手玉を渡し10回成功するのを待つ。
しかしルシファーは不器用なのか、10分経っても2回しか続けられない。
内容を変えた方がいいかしら?
私がさり気なくそう伝えれば、ムキになり契約内容は変えないと言い張る。
結局、10回連続して成功するのに30分も掛かった。
雫ちゃんのお母さんは姿を変えられると知り、エンハルト王国の女王になってと願う。
私達が王族に会ったので見たかったんだろう。
女王の姿になったルシファーをしげしげと観察し、体をあちこち触っていた。
「こら、変なところを触るな!」
「あら、ごめんなさい。ちゃんと女性の体になるのね。子供も産めるのかしら?」
「本体は異界にある。この世界の体は仮初に過ぎないから、女性になっても子供は産めない」
「へぇ~、変わった種族なのね」
そういえば、女性化した樹おじさんに子供は産めるんだろうか?
今は50日しか女性になれないけど、Lvが上がって1年以上女性の姿のままなら……。
そもそも生理はくるのかしら? ふと、そんな事が気になった。
まぁ妻がいるから他の男性と、どうこうなるとは思えないけどね。
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