安全地帯には、羊皮紙に書かれた通り12人の犯人が簀巻き&猿轡状態で、姿変えの魔道具を解除されのか帝国人と分かる容姿に戻っていた。
周囲をハーフエルフのギルド職員が囲み、逃げられないよう睨みを利かせている。
ここで24人の犯人を追加したら、移動が大変だろうと沙良ちゃんは冒険者ギルド前に放置するらしい。
俺達は地上に帰還し、捕まえた24人の犯人を冒険者ギルド前へ置き去りにした。
娘がマジックテントを回収していたので、もう摩天楼のダンジョンには戻らないと思っていたら突然声を上げる。
「お兄ちゃん! 今日が宝箱の出現日だよ!」
「おおっ、そうか! じゃあ回収しにいこう!」
うん? 宝箱って何だ?
俺1人分かってない様子だったからか、響が摩天楼のダンジョン30階で30日間攻略すると見付かる物だと教えてくれた。
まじかっ! そりゃ楽しみだなぁ~。
聞いた賢也君と尚人も笑顔だ。
30階まで沙良ちゃんの移転で移動し、テント内に入る。
俺達が探すより、マッピング能力のある娘が見付ける方が早いんだろう。
でも自分で発見した方がワクワク出来るよなぁ。
少し待つと、娘が発見した宝箱をアイテムBOXから出してくれた。
銀色に輝く小さな箱に見える。
箱の色から判断すると結構いい物が入っていそうだ。
しかし娘は嬉しそうにしておらず、何故だか微妙な表情に見える。
「お兄ちゃん、開けていいよ~」
「いいのか? じゃあ、俺が開けるぞ!」
宝箱を開けるのは賢也君に譲っていた。
彼は期待に満ちた目で宝箱を開け、数秒後に無言で閉じた。
中身を取り出したりもしないので、それを不思議に思った息子が尋ねる。
「何だったの?」
「……自分で確かめてみろ」
不機嫌そうな賢也君の態度に首を傾げ、尚人が宝箱を開けた。
中身を確認すると顔を真っ赤にしている。
恥ずかしい物でも入っていたのか?
次に沙良ちゃんが宝箱を開け、響が隣で覗き込み中身を伝えた。
「踊り子の衣装は状態異常が無効になり鬼のパンツはHPが2倍になるが、それ以外を着ると効果はなくなるらしい……。指輪は従魔用アイテムで力が2倍になる物だ」
踊り子の衣装と鬼のパンツって……。
息子が顔を赤くしたのは、踊り子の衣装を見たからのようだ。
沙良ちゃんが着た姿でも想像したのか?
きっと結花が着ていたスケスケのネグリジェの方が刺激的だぞ?
しかし30日も待って、宝箱の中身がコレだとがっかり感が半端ない。
そう思って娘を見遣ると何やら不敵に笑い、賢也君とアイコンタクトを交わしていた。
俺は嫌な予感がして直ぐに娘の手を掴む。
案の定、次の瞬間には景色が変わっていた。
響も同じ事を考え、しっかりと娘の反対の手を握っていたらしい。
きっと宝箱の中身が不満で、ダンジョンマスターへ文句を言いに行こうとしてるんだろう。
これはマッピングで移転出来る娘ならではの行動だ。
次々に階層を移転するので、目が回りそうなんだが……。
数えきれないほど移転を繰り返していたその時、一瞬体が浮遊する感覚を味わう。
慌てて周囲を確認すると一面が海に見える階層が現れた。
咄嗟に飛翔魔法を唱え、娘が落ちないようカバーする。
しかし、海の階層なんて普通の冒険者は攻略出来ないだろう。
何故、こんな難易度の高いダンジョンになっているんだ?
その後も娘は移転を繰り返し、とうとう最終階層まで辿り着く。
ここがダンジョンマスターの部屋? それにしては随分狭いな……。
20畳くらいしかないんじゃないか?
目の前で俺達に背を向け全裸で剣舞をしている人物の姿を捉えた。
「男性陣は後ろを向いて!」
その姿で女性と分かった沙良ちゃんから指示が飛び、俺達は言われたまま反対を向く。
ダンジョンマスターがいる事にも驚いたが、女性とは思わなかった。
「誰だっ!」
娘の声を聞き、人がいると気付いた相手から鋭く誰何される。
同時にヒュンと音がし、相手が持っていた剣を投げつけたみたいだ。
娘から悲鳴は上がらなかったので、アイテムBOXに収納したんだろう。
武器を手放した彼女に近付いていく足音が聞こえる。
「お兄ちゃん達、もう前を向いていいよ~」
相手が誰か分からず心配していた俺は、即座に振り返った。
そこで見た人物に唖然とし目を瞠る。
茜ちゃん……だよな?
全裸だった彼女は、沙良ちゃんからマントを着せられていた。
「……父さん? に樹おじさん、それに兄貴は異世界にいたのか……。そりゃ探しても見付からない訳だ。どうして全員が若返ってるんだ?」
俺達に気付いた茜ちゃんが驚いた様子で疑問を口にする。
「茜こそ、ダンジョンマスターに召喚されたのか!?」
賢也君は妹と知り大声を出す。
「俺が沙良に召喚される時には、まだ日本にいただろう?」
響は不思議そうに尋ねていた。
「沙良って……。姉さんは生きているのか!?」
響の言葉に反応した茜ちゃんが詰め寄る。
襟首を掴み、今にも締め上げそうな勢いだ。
彼女の姉に対するシスコンぶりは、今でもしっかり健在らしい。
マントから腕を出し、前が見えそうになっているのを娘が必死でかき合せている。
「はいは~い、姉の沙良よ~。茜、久し振りね!」
能天気な声が響いた。
今はティーナの姿だから分からないんじゃないか?
茜ちゃんは父親と兄が同意するよう大きく頷いたのを見て、姉へ慎重に近付く。
「沙良姉さん……。なんでまた、誘拐されそうな美人になってるんだ」
開口一番、言った台詞を聞き吹き出しそうになった。
子供の頃、姉が何度も誘拐されかけた件が、かなりトラウマになっているようだな。
「茜、再会したばかりで悪いんだけど詳しい話は後でいいかな? まだ攻略中だから家に送るね」
その場で事情説明する手間を省き、娘は茜ちゃんをアイテムBOXに入れてしまった。
そのままホームに移転し、実家で彼女を出す。
景色が変わり驚いた様子だったが、その場にいた母親を見付け抱き締める。
「母さん!」
「茜? あら、貴方は若くなってないのね。沙良が召喚したんじゃないの?」
3ヶ月振りの娘との再会に、美佐子さんの対応は普通だった。
結婚した茜ちゃんとは年に数回会う程度だから、そこまで懐かしいとは思わないんだろう。
逆に、ぎゅうぎゅう抱き締める妹を心配して娘が注意する。
「茜、お母さんは妊娠中だから程々にね~」
「ええええぇ~!」
78歳の母親が妊娠中だと聞かされた彼女は、今日一番の大声を上げた。
うん、それは当然の反応だな。
本人も50歳を過ぎてから兄妹が増えるとは、考えなかったに違いない。
結花は3人目を産みたいようだが、尚人と雫は弟や妹が今更欲しいんだろうか?
俺は1人産んだだけで文字通り精根尽き果てたから、もう一度子供を産みたいとは思わないけど……。
そこはやはり、女性と男性の違いかも知れない。
俺達は事情説明を美佐子さんに任せ、再び摩天楼のダンジョンへ戻る。
それから迷宮都市地下15階へ移動し、妻達に茜ちゃんが見付かった報告をした。
感激したのか、聞いた息子が涙目になっている。
夕食は茜ちゃんの歓迎会をするため、椎名家でご馳走になった。
異世界へは、ダンジョンマスターとして13年前に転移させられたと聞き考え込む。
尚人と時期が重なったのは偶然なのか? しかも同じダンジョンマスターとして……。
更にLvが200あると申告され、Lv70の俺はショックを受ける。
ダンジョンに住んでいるダンジョンマスターなら、Lv上げが捗りそうだな。
あぁ、俺も摩天楼のダンジョンを攻略したい!
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