オリビアさんが席を立ったので、私達も後に続く事にする。
先程の受付嬢へ事情を簡単に説明して、これからダンジョンに潜る冒険者を足止めするようきつく指示を出していた。
少しでも被害を防ぎたいのだろう。
冒険者ギルドから走って5分後、薬師ギルドに到着する。
一瞬、上空に白梟を見かけた気がしたけど……。
空中を散歩? でもしていたのだろうか?
私達を見掛けて直ぐに、職人街の方へ凄い勢いで帰ってしまった。
オリビアさんが受付嬢にギルドマスターを呼んでほしい事を伝えている。
冒険者ギルドマスターであるオリビアさんからの面会希望を聞いた受付嬢は、対応するため席を外す。
アマンダさんは薬師ギルドにきたのが初めてなのか、この殺風景で誰もいない部屋を見て少し落ち着かない様子だ。
それとも事態の解決が可能かどうか、心配して不安になっているんだろうか?
アマンダさんのクランは、地下18階を拠点としていた最終攻略組だったのでメンバーの数が108人と多い。
アマンダさんがダンジョン攻略中の今、全メンバーがまだダンジョン内にいるのだ。
メンバーの命を背負ったクランリーダーの肩に掛かっている責任は、かなり大きい。
彼女は今、その重圧に必死に耐えているのか手を握ったり開いたりしていた。
そんなに待つ必要もなく、ゼリアさんがやってきた。
「オリビア、随分と久し振りだね。『毒消しポーション』販売の件かい?」
「ゼリア様、ご無沙汰しております。本日は、その『毒消しポーション』の効能について実証したく参りました」
「おや? キングビーの毒消しは、問題なく治療出来ると思うが……。何か違う用途に使いたいらしいね。ふむ、場所を移そうか」
オリビアさんの硬い表情を見てゼリアさんが何かを察したようで、応接室に付いてくるよう言われる。
部屋に入ると、早速オリビアさんが話を切り出した。
「ゼリア様、ダンジョン内でスタンピードを起こす呪具が複数見付かりました。犯人はまだ特定出来ていませんが、数もいつ設置されたのかも不明な状態です」
「なんとっ! あの禁制品を選りに選ってダンジョン内で設置するとは、誰がそんなたわけた事をしでかした! いや犯人の追及は後にしよう、時間がない。肝心な色はどうだった!?」
「発見されたのは、赤紫・赤緑・黒色でした。ですが、全てが黒の場合も有り得ます」
「黒はいかん、最悪だ。あれは魔物の出現率が10倍に増え、効果時間も1日中続く」
「そこで、本日販売した『毒消しポーション』を使用し、呪具を解除出来ないか相談にきたのです」
「呪具の対処には浄化が一番効くからね。サラちゃん、そこの娘さんは信用出来る人物かい?」
ゼリアさんに聞かれて、アマンダさんの事だと気付く。
きっと兄達の浄化魔法や魔力量がバレても、問題ないか確認してくれているんだろう。
「はい、彼女は大丈夫です」
私は、そうはっきりと答える。
迷宮都市では、彼女に相当お世話になっているのだ。
新しい階層を攻略する度に、本来ならクランメンバーじゃないと知らない魔物情報を教えてもらっている。
魔物情報は討伐する上で重要になるので、クランに入っていない私達は非常に助かっていた。
特に魔法を覚えたい私達には、事前に習得出来る魔法があると分かれば嬉しい。
知らなければ、攻撃される前に瞬殺してしまうので覚えられないし……。
「娘さん、今からここで見聞きする事は終生他言無用だよ。迷宮都市は独立しているが、同じリザルト公爵領だからね。父親の顔を潰す事はせぬ方がよい」
「はい、心得ております」
うん?
突然ゼリアさんが、アマンダさんの身分をぶっちゃけた気がするんだけど?
父親がリザルト公爵なら、本人はリーシャと同じ公爵令嬢じゃないのかしら?
言われなければ、絶対に分からなかったよ!
どうして冒険者なんてしてるんだろう……。
「序にちょっと独り言を言わせてもらおうか。爺ども、話は聞いたね。手出し無用だよ。うちの族長に喧嘩を売るのは止めた方がいい。それと出遅れた息子達に言って、人手が足りない分は対処しておくれ。あんた達の大切な姫様は、少し抜けているから心配だろうがね」
ゼリアさんの独り言を聞いて、全員がポカ~ンとなった。
この場にはどう見ても、お爺さんは存在しない。
兄と旭は若者だし、私とオリビアさんとアマンダさんは女性だ。
まるで該当人物がいない相手に向かい、独り言と称して言う必要はあったのか?
だけど、約一名オリビアさんだけが僅かに緊張してみえる。
う~ん、とても気になるけど今は『毒消しポーション』の効果を実証する事が優先だ。
「さて、呪具に『毒消しポーション』を掛けてみるとしよう」
先程の独り言は完全に無視して、ゼリアさんがマジックバッグから『毒消しポーション』と黒い手袋を取り出し両手に嵌めた。
次に真っ黒な丸い玉を出したので驚いてしまう。
これって禁制品なんですよね?
何故持っているかは、聞かない方がいいんだろうなぁ。
薬師ギルドは研究所のような機能もあるのか……。
黒い手袋は、どうやら昏倒するのを防ぐために付けたようだ。
そして私達の見ている前で、呪具に『毒消しポーション』を少量掛けた。
すると見る間に玉の色が変色し無色透明に変わる。
おおっ、これは成功だよね!
「今のはハイポーションを使用した物だ、残念ながらポーションを浄化した物は全て魔道具屋に卸してしまったからね。手持ちがないんだよ」
「あっ、私が出しますね」
まだ在庫として持っている『毒消しポーション』をゼリアさんに渡す。
もうひとつ呪具を取り出したゼリアさんが、ポーションを浄化した物を掛けると同じ変化が起きた。
解除はポーションでも大丈夫らしい。
「流石だの。結果は見ての通り成功しておる。これからは数が必要だ。相手が設置する呪具を片っ端から見付けて解除せんとスタンピードが起こりうる。先週、サラちゃんが大量に薬草を換金してくれたお陰でタイミングが良かったわ。今はポーションが薬師ギルドに山程あるのさ。お二方、ここからはポーションをどんどん浄化されよ」
テーブルの上に次々と置かれるポーションを、兄達は無言で浄化していく。
その数が100本を超えた所で、ゼリアさんがオリビアさんに声を掛けた。
「請求は後で冒険者ギルド宛てにしておこうかね。これだけあれば、呪具の解除に必要数は足りるだろう。念のためもう少し数を揃えておくが、早急に行動しなされ」
それを聞いたアマンダさんが、1歩前に出てお礼を述べた。
「ありがとうございます。では私が『毒消しポーション』をダンジョンまで運びましょう。サラちゃん、悪いんだけどシルバーを貸してくれないかい?」
アマンダさんは時間を無駄にしないよう、シルバーに乗っていきたいんだろう。
「はい、じゃあ外まで一緒に行きますね」
2人で部屋を出ると薬師ギルド前で待っているシルバーに、アマンダさんを乗せてくれるようお願いする。
「ウォン!」
私の言葉に、ちゃんと返事をしてくれたので問題なさそうだ。
シルバーは子供達も背に乗せて走っているから、アマンダさんを振り落としたりはしないと思う。
いざとなれば、魔法で魔物の対処も出来るしね。
シルバーはマッピングを使用出来ないので、ダンジョン内ではどうしても魔物と交戦になる。
階段までの道は一緒に氷の迷路で遊んでいるから、覚えていると思うけど……。
「シルバー、地下14階まで行ける?」
すると頭を上下に動かし頷いている。
「アマンダさん、各階層の安全地帯に寄って『毒消しポーション』を配る必要がありますよね?」
「あぁ、その方が早い」
「シルバー、1階層毎に安全地帯へ寄ってくれる?」
「ウォン!」
「じゃあ、アマンダさん。よろしくお願いします」
「『毒消しポーション』を配るのは、うちのクランだけにする。信用出来ない冒険者達が混ざっていそうだからね。これは呪具の解除が出来る、特別なポーションだと言って渡すから安心しな」
「はい、気を使って頂きありがとうございます。一刻も早く、呪具を見付け解除して下さいね」
「任せな! シルバー、頼むよ!」
そう力強く請け負うアマンダさんは、シルバーの背に飛び乗り颯爽と駆け出していったのだった。
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