「茜殿は良い従魔を持っておるな」
ガーグ老が、ダイアンとアーサー達を感心したように見ると頷いている。
黒豹達は、摩天楼のダンジョン55階に出現する魔物だ。
迷宮都市ダンジョン地下10階にいたシルバー達や、地下14階にいたフォレスト達より当然高Lvだろう。
シルバーだけはゴールデンウルフに進化しているから、どれくらい強くなっているか分からないけど……。
ガルちゃん達はダンジョンでテイムした訳じゃないからなぁ。
出現する階層で魔物のLvを判断しているので、こちらも不明だった。
「私は、姉と違い種族の違う魔物はテイム出来ませんが……。ましてやあんな方法で……、いや凄いのは姉の方でしょう」
茜はそう言って苦笑する。
冒険者登録をした後で迷宮都市ダンジョンの魔物から魅了魔法を覚え、テイムをしようと地下15階に出現する迷宮イーグルに試した妹は、魔物をテイム出来なかったんだよね。
テイム魔法を先に覚えてしまうと、魅了ではテイム不可能らしい。
種族の異なる魔物を私以外が魅了出来るかは、試してないため何とも言えない。
母はシルバーウルフ、雫ちゃんのお母さんはフォレストウサギしかテイムしていないからだ。
主人のLvが上がると従魔達のMP消費が多くなるから、2人はこれ以上従魔を増やさない方がよいだろう。
既にパーティーメンバー全員の騎獣が揃った状態だし。
茜の紹介後は、ガーグ老の一声で稽古が始まる。
妹は樹おじさんとセイさんと一緒に私の稽古相手をするそうだ。
シュウゲンさんと奏伯父さんは、ガーグ老とゼンさん相手に仕合を申し込んでいる。
私の稽古相手が3人になり、旭の事を笑えなくなった。
もう絶対勝てないじゃん!
悔しいから従魔達に牽制をお願いすると、茜がダイアン達を投入。
うっ、数が負けてる。
ここはガルちゃん達にも応援してもらおう。
更に10匹の従魔を増やすと、稽古場は従魔達で溢れ練習する場所がなくなってしまった。
「姉さん。大人しく槍の練習をした方がいい」
呆れた茜にそう言われ、呼び出した従魔達を戻す。
「稽古相手は1人でいいよ。樹おじさんとセイさんは、2人で仕合でもして下さい」
一番高Lvの茜1人がいれば充分だ。
「そんな! ただでさえ一緒の時間が少ないのに……」
樹おじさんは私の提案に反対なのか、涙目になっている。
私じゃなく雫ちゃんとの時間を増やしてあげてよ!
セイさんは素直に受け取り樹おじさんを連れ、その場を離れていった。
やれやれ、これで一対一の稽古が出来る。
茜と相対稽古を始めると、ガーグ老としていた時のような安定感があった。
私がどんな攻撃をしても怪我をする事はないだろう。
槍術Lv12の私は、Lv150ある茜には勝てない。
ここは胸を貸りる心算で、思いっきりやらせてもらおう。
かなり手加減していると分かるけど、茜も私のLvに合わせ相手をしてくれた。
実際の所、誰が一番強いんだろうなぁ。
ガーグ老・セイさん・シュウゲンさん・茜・奏伯父さん。
私の予想では、こんな感じで順位付けしている。
その後に父・樹おじさん・サヨさん・雫ちゃんだろうか?
多分、雫ちゃんのお母さんと私は同Lvだ。
ダンジョン攻略を中止している母が一番低いかも?
ガーグ老から稽古終了の合図が掛かった。
旭の方を見ると虫の息をしている。
今日も沢山扱かれたようだ。
さて、私は皆の昼食準備を始めよう。
妖精さんの分は『チーズバーガーセット』を20食準備してある。
作っている間、父と奏伯父さんが食べたそうにしていたから同じメニューにしよう。
今回は『ナン』ではなく『バンズ』を手作りしていた。
ガーグ老達と妖精さんが食べる分には問題ない。
中に入れる『ハンバーグ』を雫ちゃんと一緒に作り、『ナゲット』と『フライドポテト』を揚げる。
『ナゲット』には、袋に入っていたバーベキューソースとマスタードソースを小皿に移し付けてもらおう。
完成した料理を三男のキースさんが運び、相変わらず、お嫁さん達は動かない。
用意した料理を、雫ちゃんのお母さんと木の下へお供えに行く。
その際、摩天楼のダンジョンで犯人を捕まえてくれたお礼を伝えると、木の枝を揺らし返事をしてくれた。
「お待たせしました。皆さん、今日もありがとうございます。お昼のメニューは、『チーズバーガー』・『ナゲット』・『フライドポテト』です。それでは頂きましょう」
「頂きます!」
「おおっ! これが姫様の食べたがっておった『ハンバーガー』とやらだな」
そう言って、ガーグ老が真っ先に『チーズバーガー』にかぶり付く。
「姫様! 美味しいですぞ! 付け合わせの『フライドポテト』にも良く合いますな。『ナゲット』も、このソースに付けて食べると旨い!」
ここにはいない姫様へ想いを伝えているのだろうか……。
「ガーグ老、『チーズバーガー』も旨いが『テリヤキバーガー』も捨てがたい! 今度、娘に作ってもらおう」
ガーグ老の隣にいる樹おじさんが、父を見た後でそう返事をしている。
「そうですか! サラ……ちゃん、作ってくれるかの?」
「ええ、いいですよ」
しかし、どうして樹おじさんは私をやたら娘と連呼するんだろう。
そしてガーグ老は、おじさんが娘だと言ったのに雫ちゃんではなく迷わず私にお願いしてくる。
料理を作っているのは確かに私だけど……何か腑に落ちない。
父が一緒にいるから、娘と呼ばれても問題はないと思うよ?
だけど、名前を呼んでほしいなぁ。
知らない人が聞いたら、私が樹おじさんの娘に間違われちゃう。
そんな事を思いながら、私も『チーズバーガー』を完食する。
大量に揚げた『ナゲット』と『フライドポテト』は、健啖家のご老人達が黙々と食べていた。
食後に木の下へ行くと、2通の手紙が残されている。
雫ちゃんのお母さんは先週リクエストされた『ホットケーキ』を持参したようで、来週もまた食べたいと書かれているのを読みニコニコしていた。
私の方は、『チーズバーガー』が絶品だったと感激した内容になっている。
20食分は多いかも知れないと心配していたけど、そこは問題なかったようだ。
シュウゲンさんと奏伯父さん、父と樹おじさんを残し私達は一度ホームに帰る。
兄と旭は、これから病院で勉強会をするらしい。
セイさんと茜は休日だから、ゆっくりしてもらおう。
私はサヨさんと一緒に劇の衣装作りをする予定。
サヨさんを迎えに行こうとした所、雫ちゃんのお母さんから袖を掴まれた。
「沙良ちゃん、相談があるんだけど……。ええっと、雫を襲った冒険者達を出すの忘れていたわ」
非常に困ったような表情で言われ、私は唖然となる。
あああぁ~! 金曜日、冒険者ギルドに引き渡してなかったよ!
今日は日曜日だ。
襲ってきた犯人を2日間も、どうしていたのか理由を考えないと……。
アイテムBOXに入っている犯人達には記憶がないのが救いか。
私は急遽予定を変更し、簀巻きにされた犯人達を冒険者ギルドへ引き渡す方法を考え始めた。
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