毒見役の女官が倒れたと報告を受け、今まで第一王妃の行動を静観していた事を悔やんだ。
毒見役というのは、あらゆる毒を少量ずつ体に馴染ませる必要があると聞く。
その彼女が倒れたというなら、事前に検知出来ない種類の毒だったのだろう。
俺は自分の女官を害され、かなり怒っていた。
今の女官は、自分が生まれてからずっと仕えている者達だ。
俺の所為で辛い思いをさせるとは……。
彼女を見舞おうとしたが、女官長に止められてしまい会う事も出来ない。
皮膚が爛れ激痛に喘いでいる状態らしく、本人が望まなかったらしい。
それを聞いては何もしない訳にはいかない。
女官長とガーグ老を呼び、必ず犯人を捕らえどんな手段を用いても、指示した人間を聞き出せと命令した。
俺が初めてする王族としての命令が、こんな内容だなんて皮肉にも程があるな。
王族から受けた命令は、必ず実行する必要があると知りながら今回は躊躇わなかった。
きっと犯人は、酷い拷問を受ける事になるだろう。
第一王妃が送り出した人物に到底耐えられるとは思えない。
まぁ、この世界にも自白剤のようなものがあるかも知れないが……。
毒の治療には浄化が必要だ。
光魔法のホーリーを使用出来る宮廷治癒術師を、急いで呼び寄せる必要がある。
俺は通信の魔石を手に握り締め、母親である王妃に連絡を取った。
今回の件に関しては、王より王妃の方が適任だと思ったからだ。
『お母様。ご無沙汰しております』
『あら、ヒルダ。本当に久し振りね。全然連絡がないから心配していたのよ?』
『すみません。ちょっと色々ありまして……。あっ、報告が遅れましたが子供が出来ました』
『聞いているわ。もしかして【秘伝薬】を使用したのじゃないわよね?』
『いえ、女官長に媚薬を盛られて……』
『あぁ、それは私が渡した物よ。体に害はないから安心なさい』
『そうですか……』
なんと、あの小瓶を準備したのは王妃か!
娘の行動をよく把握しているな……。
『で、急な連絡には何か理由があるのでしょう?』
『はい、毒見役の女官が倒れました。至急、宮廷治癒術師の派遣をお願いします』
『あら、そうなのね……分かりました。直ぐにでもカルドサリ王国行きを命じます』
『ありがとうございます。日数は、どれくらい掛かりそうですか?』
『ドラゴンで行くから、直ぐよ直ぐ!』
『……?』
『あぁ、準備に時間が必要だからもう切るわ』
そして、唐突に王妃との会話が終了した。
王族専用のドラゴンを貸してくれるという事だろうか?
毒見役が倒れたと聞いたにしては、反応が少なかった気がするが……。
なんにせよ、王妃が直ぐというからには数日で到着する事が決定した。
それまでに彼女の容体が悪化しない事を祈ろう。
2人に指示を出して1時間後。
もう既に犯人の目星は付けていたんだろう、毒を盛った人間が捕まり第一王妃から指示されたことを吐いたと報告を受けた。
それを聞き証拠を集め響に連絡を取る。
知らせを受けた響は、直ぐに俺の宮まで走りやってきた。
息も整わないうちに部屋に入ってくる。
そして俺を見るなり頭を下げて詫びた。
「お前に危険が及ぶ事になって済まない。毒見役の女官には、教会の司祭に浄化を依頼するから少しだけ待ってくれ。……子供は無事だったか?」
「幸い遅効性の毒じゃなかったみたいで、毒見役が倒れたから俺は口にせず済んだ。浄化が出来る者は、こちらで手配済みだから教会の人間は必要ない。響、お前はこの事態を予想していたんじゃないのか?」
「あぁ、第一王妃の父親は宮廷の中でも重鎮だ。かなり私腹を肥やしている人物でな。断罪するのに証拠が必要だった」
やはりな……。
いくら子供が出来て嬉しいとはいえ、あそこまであからさまに俺の宮を頻繁に訪れるのはおかしいと思ってたんだよ。
宮廷の膿を出すために、俺の妊娠を利用したのか……。
王である以上、謀略とは無縁でいられないのは分かる。
でもそのためにうちの女官が倒れたのでは、割に合わない。
「今回の件、どう処分する心算なんだ」
「実行犯は当然の事、指示を出した第一王妃も同様、そして親も連座で斬首刑だな」
「王妃なのにそんな事が可能なのか?」
王族の場合、普通は庶民落ちだろう。
よくて蟄居だと思っていた。
「今回は王の子を身籠った第二王妃を殺めようとした重罪だ。斬首で構わん」
響は、一片の同情もなく非情に言い切った。
これは今まで相当苦労させられていたんだろう。
「そうか、分かった。刑が確定したら教えてくれ」
「あぁ、今回の件は俺の落ち度だ。本当に済まなかった」
再び大きく頭を下げ響が謝罪したので、多少思う所はあったが受け入れた。
それから響の行動は素早く、騎士を大量に投入して第一王妃の実家を押さえ身柄を拘束。
既に第一王妃は牢に入れられているらしい。
彼女も、王妃である自分が斬首されるとは思ってもみないだろう。
可哀想なのは、まだ幼い王子だ。
母親が斬首刑に処されれば、当然その憎しみは成長する毎に大きくなる。
真実を知っても、母親を殺された思いを忘れる事は出来まい。
負の連鎖が続かなければいいが……。
翌日。
緑色のドラゴンが王宮に到着した。
その背に王妃を乗せて……。
「お母様!? 急にこられてどうしたんですか?」
「あら、娘の一大事に駆け付けてあげたのに、ご挨拶ね~」
いや普通は、王妃自らやってくるなんて思わないだろう。
それはそうと、肝心の治癒術師の姿が見えないんだが?
「私が頼んだ治癒術師の方は、何処にいるんですか?」
「目の前にいるじゃない」
そう言われて、漸く王妃が光の精霊王の加護を受けている事に気付く。
「そうでした。到着したばかりで疲れていると思いますが、侍女の治療をして頂けませんか?」
「娘を守ってくれたのだから当然よ。直ぐに治療するから安心し待っていなさい」
「よろしくお願いします」
女官長と一緒に、毒見役の女官の寝室へと歩く姿をみてほっとする。
これで彼女は助かるだろう。
国で一番の光魔法の使い手である王妃の治療が受けられるなら、解毒出来ない毒はない。
俺はその場に立ち会う事は許されていないが……。
王妃がきてくれて本当に嬉しかった。
あぁ、響に連絡しておかないと。
妻の母親に会うのは緊張するだろうなぁ。
俺は他人事のように考えながら、緑色のドラゴンである『風太』を労いその体を撫でた。
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