夫婦喧嘩に巻き込まれたくない雫ちゃんが、今夜は私の家に泊まらせてほしいと言う。
樹おじさんが帰ってきたので、旭も久し振りに自宅へ戻っていた。
2人のリクエストでオムライスセットを作り、コーンスープとサラダを付ける。
「頂きます!」
言葉と同時に旭がハンバーグを食べ出す。
チーズを入れ兄達が好きな味にしてあげた。
雫ちゃんは、エビフライにタルタルソースをたっぷり掛け幸せそうな表情で食べている。
私はオムライスを口一杯に頬張っているセイさんへ、話し掛けた。
「アシュカナ帝国までは、かなり距離があるのにどうやって行ったんですか?」
父達と行動を共にした彼に聞けば、ある程度の事情は分かるだろう。
「ええっと、ケスラーの民がその……秘密の方法で……」
あぁ、ダンジョンの魔法陣で移転したのか。
きっとケスラーの民も秘匿している情報なんだろう。
茜もピンときたのか頷いている。
「なになに? どんな方法なの?」
空気を読まない旭に興味津々で尋ねられ、セイさんが困っていた。
「秘密だからセイも言えないんだろう。あまり勘ぐるな」
「え~、知りたい!」
子供か! 兄に諫められても旭は聞きたそうな顔をしている。
「種族の秘密を断りなく知った場合、口封じに殺される可能性もあるよ」
茜の一言で、顔色を変え旭は口を噤んだ。
少し大袈裟だけど、そう言っておけばこれ以上追及はしないだろう。
「アシュカナ帝国の王には会えた? 人質にされていた妹さんは、どうなったの?」
「王には会えませんでした。族長の娘は助け出せましたよ」
うん、知ってる。
でも王には、やはり会えなかったようだ。
そう簡単に国の最高権力者と会えるわけがない。
父も樹おじさんも異世界に来て間もないから、身分制度をよく理解出来ないんだろう。
「それにしても、少人数で妹さんを救出するのは大変だったでしょ?」
父と樹おじさんとセイさんにガーグ老達、ケスラーの民を合わせても23人しかいない。
「最初に怪我をしたケスラーの民を治療したので、襲撃人数が増えました」
襲撃とは穏やかじゃない言い方だな。
もしかして、正面突入したのかしら?
3人はヒールを使えるけど、習得したばかりでLvが高くない。
兄と旭のようなエリクサー相当の治療は無理だろう。
人数が増えたと言っても、精々数十人程度じゃないかな?
「帝国人と戦闘にはならなかった?」
「ええ、皆が一騎当千の働きをしましたよ」
にっこりと笑顔で言うセイさんも相当強い。
ガーグ老達は言わずもがな。
ケスラーの民達も、ダンジョンにある隠し部屋の魔法陣を使用出来るなら高Lvか……。
まぁ、無事に帰ってきたから問題はなかったんだろう。
詳しい話は父からあると思い、それ以上は聞かずにおいた。
翌日、土曜日。
朝食後、実家に集まり父から事情説明を受ける。
樹おじさんの両頬には、うっすらと手形の痕が見えた。
昨日セイさんから聞いた話と変わらず、治療したケスラーの民と一緒に族長の娘さんを助け出したそうだ。
王には会えなかったと残念そうに言う。
いや逆に、どうやって会う心算だったのか聞きたい。
カルドサリ王国だって貴族じゃないと王宮へ入れないし、伯爵の奏伯父さんも王様と会うには事前に連絡を入れる必要がありそうだけど?
「全員無事に帰ってきたから、よかろう。次は儂も一緒に連れていけ」
シュウゲンさんが、そう言って話を終わらせた。
「今日の夕方、茜の旦那さんを召喚するね」
「まぁ、じゃあ早崎さんの好きな物を沢山作っておきましょ!」
母は娘婿に会えると知り、嬉しそうな顔をする。
私も会うのは8年振りだ。
17時に実家で召喚すると伝え家を出ようとした時、
「ヒルダちゃん、ちょっといいかの」
シュウゲンさんが樹おじさんを引き留めた。
今は女性化してヒルダさんそっくりになっているからか、名前を間違えてる。
「えっ? あっ、はい」
シュウゲンさんに腕を引かれ、樹おじさんは2階へ連れていかれた。
その後を、小さく溜息を吐いた父が付いていく。
何だろう?
少し気になったけど後を追う訳にもいかず、父と待ち合わせている喫茶店へ向かう。
今朝、会った時に重要な話があると言っておいたのだ。
茜と2人でモーニングを注文し、朝食を食べたあとなので卵とトーストはアイテムBOXに収納。
大好きな生クリーム多目のウインナーコーヒーを飲み終わる頃、父と樹おじさんが店に入ってきた。
樹おじさんの顔が赤いような? 父は少し不機嫌そうに見える。
シュウゲンさんと何があったんだろう?
「沙良、待たせたな。話を聞こう」
席に座るなり口を開いた父へ、私は前置きもなく話を切り出した。
「あのね、前にベヒモスを倒したでしょ? その時、隠し部屋を発見したの!」
「隠し部屋?」
私の言葉に不思議そうに聞き返す父の隣で、樹おじさんが興味津々の様子で尋ねてくる。
「へぇ~、ダンジョンにそんな物があるんだ。お宝が沢山あった?」
「お宝はないけど、魔法陣はあったよ。しかも、移転陣!」
「まさか、階層を移動出来るのか?」
移転陣と聞いた父が身を乗り出す。
「階層じゃなく、ダンジョンのある別大陸へ移動出来るんだよ~」
「ちょっと待て、お前はいつそれを知ったんだ?」
「ええっと、月曜日かな?」
「沙良! 勝手に行動するなと、あれほど注意しただろう!」
「お父さんも、内緒で家を空けたじゃない」
反論すると、身に覚えがある父は黙り込んだ。
「あ~、それでどの大陸に行ける魔法陣なんだ」
あれ? もっと驚くかと思ったのに……。
あぁケスラーの民とアシュカナ帝国へ行った時、父達はダンジョンにある魔法陣を使用したんだった。
「101~110階は北大陸の国で、111階は亀の聖獣がいる島。112~130階は中央大陸の国。131階は南大陸でケスラーの民がいる集落だよ。200階まで行ける魔法陣なの」
「もう、どこから突っ込んでいいか分からんな……」
「大陸を移動出来る魔法陣って……。ダンジョンには、凄い機能があったんだ」
「あ~、国家間を移動出来る魔法陣は秘匿されてるんだ。特級冒険者じゃないと知らないだろう」
シュウゲンさんから聞いていたのか、父が樹おじさんに説明する。
「摩天楼のダンジョンで発見されたのは初めてだな。冒険者ギルドへ報告の義務があるが、お前達はA級冒険者じゃないし発見した階層が99階じゃ……」
父は何やら考え込み、シュウゲンさんに頼むかと呟いた。
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