【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第755話 旭 樹 再召喚 47 偽装結婚 2

公開日時: 2024年4月13日(土) 12:05
更新日時: 2024年8月5日(月) 15:06
文字数:2,349

 義祖父から掛けられた言葉に返事が出来ず、この場では沈黙を貫いた。

 これはもう覚悟を決めて、約束のお礼をするしかないか……。

 取りえず、腹を満たそうとテーブルに並べられた料理へ手を付ける。

 今は美味しい料理を食べよう。


 花嫁衣裳に着替えた俺を、尚人なおとがじっと見つめてくる。

 少々、視線が痛い。

 複雑な気分なのは分かるが、そんなに凝視しないでくれよ。

 あれから一言も話さなかったセイさんは、「良くお似合いです」と感想を口にする。

 娘は俺と入れ替わりで衣装を着替えに行ったらしい。

 女官長達と同じエルフの正装をするみたいだが、きっと王族仕様だろう。


 披露宴の料理がなくなる頃、周囲の空気が張り詰めたものへと変わり冒険者達は皆、武器の手入れを始め出す。

 アマンダ嬢のクランメンバーを見ると、全員が同じ得物えものを手にしていた。

 対人専用の剣か?

 案の定、王族の正装に着替えさせられた娘がベールを被り俺達の席へ歩いてくる。

 女官達が着ている衣装とは刺繍ししゅうの数が違い、ものすごく目立っていた。

 娘の姿を見た賢也けんや君が、額に手を当て溜息を吐く。


「沙良……。花嫁の代役を立てた意味がないくらい豪華な衣装だな?」


「私もそう思うんだけど……。女官達が、これ以外は駄目だって言うの」


 娘の身分を知っている女官長達は譲らないだろうなぁ。


「……顔を見せなければ大丈夫か?」


 響は理由が分かっているため、うなっている。

 俺は、ちゃんと額飾りがあるか確かめたい。


「少し、顔を見せてほしいな。まだ、大丈夫だろう?」


 ベールを持ち上げた娘の額には、王族の証である額飾りが見えた。

 これで、何かあれば守護石が娘の身を守ってくれるだろう。


「あぁ、ちゃんと付いて・・・いるね」


 俺は満足して微笑み、背後に立つ女官長へ視線を送る。

 娘の事は任せたぞ。


 挙式の時間になって俺達は庭へ場を移し、12時の鐘の音と同時にガーグ老と偽花嫁役の俺は前へ進み出た。

 その瞬間、ガルム達が大きくえる。

 早速さっそく、敵がやって来たようだ。

 結婚式を挙げさせない心算つもりか? 悪いな、こちらは準備万端だ。

 10mもある高い塀を乗り越え、四方から100人程の帝国人が庭に降り立つ。

 少し数が多いか……。

 武装し待ち構えている俺達に一瞬ひるんだ様子を見せながら、真っ先に目標である花嫁と花婿へ向かってきた。


「サンダーボルト!」


 人数を減らすため、高らかに声を上げ雷を落とす。

 あっ、ついしずくと同じ魔法名を言ってしまった。

 サンダーボールより格好いいよな!

 雷鳴が響き渡り、半数以上の敵が地面に倒れ伏す。

 俺は挑発するように人差し指を立て、かかってこいと仕草しぐさをする。

 敵が俺達2人に集中すれば、他の人間も動きやすい。


 向かってくる敵を双剣を構えたガーグ老達影衆が迎え撃ち、左右どちらからの敵にも対応出来るようにしていた。

 俺は彼らの仕事を邪魔しないために、大人しく守られていよう。

 敵の背後から冒険者達とうちのメンバーが襲い、次々と命を絶つ。

 今回は暗黙の了解で、敵は殺し遺体はマジックバッグに収納する事になっている。

 これは凄惨せいさんな現場を娘に見せないための処置だ。

 女官長達も理解しているのか、その身で隠し娘が見えないようにしている。


 100人程いた敵は最初に半数が魔法で倒れ、残りの大半は影衆達の手により亡くなった。

 圧倒的な人数差で敵を制圧するのに掛かった時間は極僅か。

 遺体を残らず収納する方が手間だった。

 10分後、敵の姿は消え庭は血痕が残っているだけの状態になる。

 だが安心するのは、まだ早い。

 敵の襲撃は、これだけじゃ済まないだろう。

 冒険者達も警戒を解かずピリピリしている。

 敵を見張っていたポチとタマが、上空を旋回し合図を送ってきた。


「姫様。グリフォンに騎乗した敵が100騎、向かって来ておる」


 2匹の念話を受け取ったガーグ老に情報を伝えられ、騎獣を100騎もそろえたと知り驚いた。

 帝国の王は、本気で娘を狙っているらしい。

 9番目の嫁に欲しいというだけで、これほど戦力をくだろうか?

 空を注視していると、ポチとタマの動きが変化した。

 なんだかあわてているような感じがする。


「あ~、姫様。どうやら敵は自滅したらしいわ。グリフォンから振り落とされ、落下したようだの」


「えっ? 騎獣から落ちたのですか?」


 何だそれ。

 かなりの高さを飛んでいるグリフォンから落ちたら、命はないな。

 よく分からないが、敵の襲撃はなくなったらしい。

 娘の方を見ると女官達に囲まれた隙間から顔を出し、ほっとした表情を浮かべている。

 原因は娘にありそうだ。

 そして遂に本命と見られる10騎が上空に現れた。

 近付いてくる騎獣の姿を確認し、みた事もない魔物に驚きの声を上げる。


「あれは何ですか!?」


「姫様、少々厄介やっかいな事態になりそうだの。あれは麒麟きりんという聖獣で、騎乗しているのは帝国人ではなかろう」 

 

 麒麟だと? そんな伝説上の生き物を使役出来るのか?

 彼らは攻撃する動きを見せず、静かに庭へ降り立った。

 大きな騎獣に乗った、この世界では珍しく肌の露出が多い民族衣装を着た1人の男性が地面に着地し、ガーグ老の方へ歩いてくる。

 その顔には複雑な刺青しせいが入っていた。


おきなよ。私怨しえんは一切ないが、花嫁を渡して頂こう」


「お主はケスラーの民であろう。何故なぜ、アシュカナ帝国側に付いておる」


 ケスラーの民か!

 噂でしか聞かない種族を目にし、まじまじと見つめてしまった。

 全身痩躯そうくではあるが、極限に鍛え上げられたと分かる筋肉の付き方をしている。

 赤銅しゃくどう色をした肌は張りがあり、刺青が入った顔からは把握出来ない若さを感じた。

 20代~30代といったところか……。

 堂々とした態度は、上に立つ者の風格がある。

 一族の中でも高い位にいるんだろう。


「妹をさらわれた。帝国の王が9番目の妻にしたい人物を連れてきたら、開放すると約束したのでな」


 あぁ、身内を人質に取られているのはまずいな。

 これは引きそうにない。

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