二度目の人生をドワーフとして生きる事になった儂は、情報を整理しようと記憶を手繰る。
ドワーフという種族は、かなり長命のようだ。
この世界は、人間以外にも色々な種族がいるらしい。
シュウゲンの知識には、エルフ、獣人、竜族がいる。
儂はファンタジー小説に疎く、それらの種族がどのような外見をしているか思いつかない。
ドワーフというのも、知っているのは鍛冶が得意な種族であるくらいだった。
母親の容姿を見る限り、種族として特徴的なものはなく人間と遜色ない。
記憶にある住人達も、鍛冶職に就いている者は体格が良い程度か?
生前の自分と、あまり変わらないようで安心する。
現在は12歳の子供なので背が低いが、成長すれば問題ないであろう。
黙ったまま考察を続けていると、母親は父親を呼んでくると言い部屋を出ていく。
先程の話では頭をぶつけ意識を失ったみたいなので、父親も息子が目覚めるのを待っていたようだな。
室内を見渡し、この世界の文明レベルを推測する。
儂が寝ていたのはベッドで、机や椅子等の家具があった。
着ている服はミシンを使用した縫製品ではなく、手縫いのようで縫い目が荒い。
一応、綿花は採れるのか麻ではないようだ。
染色技術も発展しているのか、シャツは緑色でズボンは青色をしていた。
壁は石で出来ており、窓にはガラスが嵌っている。
外の景色を見ようとベッドから降りたところで、父親が勢いよく部屋に飛び込んできた。
「目が覚めたか、シュウゲン! ポーションを飲ませても起きないから、治療院に連れて行こうと思ってたんだぞ? とにかく、明日の儀式に間に合ってよかった」
そう言い安心したように笑みを浮かべる父親に、心配を掛けたみたいなので頭を下げる。
「もう大丈夫だ。痛みもないし、儀式も問題なかろう」
「はっ?」
驚いた様子の父親を見て、また子供のフリを忘れ普段の口調で話してしまったと気付く。
いや今更、話し方を変えるのは難しい。
もうこのまま通そう。
「あなた、息子の喋り方が変でしょ?」
「シュウゲンも儀式を受ければ、仕事に就ける。子供っぽく話すのが、恥ずかしくなったのかも知れない」
「そうは言っても、まだ12歳よ?」
「男の子は色々あるんだ。そっとしておこう」
急に態度が変化した息子を微笑ましく見つめた父親は、母親の背中を押し部屋から出ていった。
明日の儀式とやらは、初めて魔物を倒す事のようだ。
シュウゲンは、とても楽しみにしていた記憶がある。
居住区に魔物は現れないが、森やダンジョン等の決まった場所に出現する生き物らしい。
外はまだ明るいから、夕食までの自由時間に体を動かしてみよう。
日課である体術の型稽古は、この小さな体でも行えた。
少々動きが鈍いが、毎日続ければ慣れるに違いない。
夕食が出来たと呼ばれ、食べた料理は塩の味しかせず絶句する。
米ではなく主食が硬いパンなのも、出来れば遠慮したい。
あぁ、この世界で生きる最大の難関は食事みたいだ。
昨日、食べられる筈だった好物のカレイの煮付け……。
せめて一口食べた後に死にたかったのぅ。
翌日、父親に連れられ儀式を受ける森へと向かうと、今年12歳になった子供達が20人ほど集まっていた。
少女はスライムを、男子は角ウサギを倒すようだ。
少女達は手にした剣で簡単に透明な雫型のスライムを倒し、親からステータスを見るよう言われている。
魔物を倒すとLvが上がるらしい。
この儀式を受けるまで子供はステータスの存在を知らず、初めて自分の能力を知る事になる。
「シュウゲン。俺が角ウサギを倒すから、よく見ておくんだぞ」
角ウサギを探し森の中を進んだあとで、父親が槍を持ち魔物に接近し首を突く。
角ウサギは、30cmくらいでの大きさで頭に1本の角が生えていた。
魔物というから、大きくて狂暴な生き物だと思っていたが……。
これなら素手でも倒せそうだな。
しかし、父親が武器を使用したのを考えると真似した方がいいだろう。
案の定、持っていた槍を渡される。
子供用なのか短槍で扱い辛い。
2匹目の角ウサギを発見すると、
「次は、お前の番だ」
父親に促されて、目標へ近付いた。
儂に気付いた角ウサギが急に突進してきたため、接触寸前で横へ躱し振り向きざまに槍を回転させ脳天を槍のない方で打つと、魔物は絶命したようで動かなくなる。
食用の角ウサギは血抜き作業が必要らしく、解体ナイフで首筋を切った。
倒した魔物は父親がマジックバッグに収納し、手ぶらで森を出る。
次は冒険者ギルドへ行き冒険者登録をするそうだ。
道中、ステータスを確認するよう言われ、半透明の画面を表示させて能力の確認をした。
【シュウゲン 12歳】
★加護(火の精霊)
レベル 1
HP 124
MP 24
槍術 Lv0
魔法 特殊魔法(鑑定)
魔法 火魔法
「シュウゲン、ステータスの内容は家族以外に口外するなよ。ドワーフは種族補正でHPの値が高い。Lvがあがる毎に12ずつ増えると思えばいい。火の精霊から加護を受けてるか?」
こくりと頷きを返す。
「それなら、火魔法が使えるな。精霊と契約出来るかは運次第だが、もし契約を結べたら鍛冶師になれる。まぁ詳しい事は、おいおい教えていこう」
火の精霊の加護があると知り、父親は嬉しそうだった。
精霊とは何ぞや? 妖精とは違う生き物であるのかの……。
よく分からぬが、加護があれば鍛冶師の仕事が出来るのだろう。
日本では小夜の実家の道場で武術を教えていたが、今世は鍛冶職人を目指すのも面白そうだ。
住んでいる町、ソレイユの冒険者ギルドに入ると、登録を終えた子供達が鉄製のカードを手にし喜んでいる。
儂も冒険者手続きの順番を待ち、受付嬢の前に並んだ。
待っている間に羊皮紙を渡され空欄を埋める。
名前、年齢、使用魔法の三項目しかないので、直ぐに書き終わり提出した。
シュウゲンの記憶が戻り、読み書きが可能になって良かった。
これは大陸共通語で、どの国でも通じるらしい。
勿論ドワーフ語もあるが、現在は使用が限られており一般的ではなさそうだ。
名前を呼ばれて、カードに血液を垂らす。
そのカードを何かの機械に通したあと、父親が登録料の銀貨1枚を払いカードを受け取った。
受付嬢が儂を見ると、僅かに表情を変えたような気がして身構える。
もしや、生前の記憶がある事に気付かれたのか?
出来るだけ無表情を装い、父親から渡されたカードに視線を落とす。
鉄製のカードには、『F級 シュウゲン 12歳』と印刷されたような文字が書いてあった。
カードに血液を垂らしたのは、偽造防止になっていそうだな。
どう判断するのか不明だが、魔法があるファンタジー世界の技術は儂の理解が及ばない部分もありそうだ。
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