工房から出て皆の所に戻り、
「あ~、俺を姫様と勘違いしたそうだ。違うと分かってもらったから大丈夫!」
少々オーバーに胸を叩いた。
勘違いした理由は話さず、そう言い切っておく。
沙良ちゃんが不思議そうな表情をしているけど、ここは無言で乗り切ろう。
「ガーグ老、2人を紹介しますね」
娘が俺を結花の夫だと紹介する。
「夫の樹です。これからよろしく!」
これで今直ぐ元の姿に戻れないと、都合よく思ってもらえるだろう。
「女子が好きであったのか……」
ガーグ老は前世の夫である響に視線を向け、なんとも言えない顔をする。
夫婦だった俺達が、お互い再婚していると知り複雑なのか……。
まぁ、王女の俺が女性と結婚した方に驚いているのかもな。
次に娘が義祖父を紹介すると、ガーグ老が態度を豹変させた。
「シュウゲン! ここで会ったが300年目! エロ爺が! 儂が成敗してくれる!」
あ~武器を注文した時、隠形していたから特別な約束をした件も見られてたわ。
ガーグ老には義祖父が、大切な王女に破廉恥な真似をさせるエロ爺だと思われても仕方ない。
義祖父は、初対面のガーグ老から怒りを剥き出しにされ怪訝そうにしている。
「何を言っておるのか分からんが……。孫の結婚相手なら、お相手しよう!」
その喧嘩を買ったようだ。
「ふん、ドワーフ相手には本気を出さねばならんな。姫様の槍を持ってまいれ!」
ガーグ老も引かず、これから仕合が始まるらしい。
前影衆当主のガーグ老は『修羅』と渾名された強者だ。
数百年、影衆当主の座を譲らず誰も勝てなかった相手に稽古を付けてもらった俺は、その実力を嫌という程知っている。
今更、確認する必要もない。
部下の1人が槍を持ってきた。
「お主! それは儂がヒルダちゃんに鍛えた槍ではないか!? 何故、持っておる! ヒルダちゃんは、どこだ!」
忘れてくれたら良かったのに、しっかりとヒルダを覚えているのか……。
「エロ爺に会わせる訳がなかろう。槍を構えなされい!」
そして2人が唐突に仕合を始める。
「エロ爺相手に秘技を見せるのは癪に障るが、負ける訳にはいかん!」
素人相手に本気を出すなよ? 娘の祖父だから手加減してくれ。
まぁ、ティーナの前で血を流すような真似はしないだろう。
爺が、その実力を発揮すれば一瞬で片は付く。
前影衆当主の名は伊達じゃない。
「ガーグ老は、まだまだ現役だなぁ。頼もしい限りだ」
2人の仕合を見ながら、腕が鈍っていないと安心した。
心配するような事態も起こらず、相手に合わせ手加減もしてくれているみたいだし。
「あっ、私の結婚相手はガーグ老ですよ~」
感心しながら頷いていると、娘から偽装結婚の相手だと聞かされる。
「えっ!? 結婚相手は爺なの!? 年齢差どれだけあると思ってるんだ……」
てっきり、相手は息子の方だと思っていたのに……。
実力を確かめる気でいたが不要になったな。
しかし、何を考えてガーグ老が婿役になったんだ?
その後30分経っても勝敗は着かず、俺はポチとタマに仲裁を頼んだ。
従魔の権限を譲渡しても、2匹は俺の言葉を理解し2人の間に割って入る。
「ぬう、シュウゲン。今回は引き分けだ!」
「お主、意外とやりおるな。本当に人間か? まぁ、孫の相手には不足ないじゃろう」
王族を護衛する影衆と遣り合うとは、義祖父も相当強いらしい。
「樹おじさんは、ガーグ老と仕合するんじゃないの?」
「本職には勝てね~よ。化け物みたいに強いんだぞ? やるだけ無駄だ」
娘に聞かれ負ける姿を見せたくない俺は、そう言って仕合を回避した。
やっぱり親として格好良い姿を見せたいじゃないか。
これは、どちらかというと父親の心境だけどな。
「それにしても相手がガーグ老なんてなぁ。俺は、またとんでもない相手と結婚式を挙げるのか……」
一度目は親友の響で、二度目はガーグ老とは……。
異世界での相手が悪すぎる。
例え偽装結婚だとしても綺麗な女性が良かったよ。
そんな風に思っていると、
「ひ……イツキ殿。この槍を受け取って下され」
ガーグ老が持っていた槍を差し出してきた。
あぁ、これは注文した俺専用の武器!
「ありがとう。これでLv上げが捗るな!」
勿論、ありがたく頂こう。
「お主、儂の前でヒルダちゃんの槍を渡すとはいい度胸だな……」
あっ、俺がそのヒルダです。
言えないけど……。
「金は払っておる、文句を言うな。それよりドワーフの貴様がサラ……ちゃんの祖父とは、おかしいだろう」
「お主は知らぬ事情があるだけの事よ」
義祖父に前世の記憶があるとは、分からないだろうなぁ。
「ふむ……。まぁ詮索はせん」
「サラ……ちゃん。待たせて悪かったの。さぁ、稽古を始めよう!」
「ガーグ老。姫様の形見の槍を、渡してしまっても良かったんですか?」
娘が俺に槍を渡したのを見て疑問に思ったのか、ガーグ老へ尋ねていた。
「あぁ、本人も納得していなさるだろう」
爺はちらりと俺の方を見て、そう返事をする。
これは俺の武器だから貰っても問題ない。
ただ、娘は理由が分からず困惑しているみたいだった。
武術稽古が始まったので、俺は娘の相手をしよう。
雫は響が教えているようだから、1人で大丈夫だろう。
尚人の方は、何であんなに大人数なんだ?
母親として何も出来なかったから、せめてこの時間くらいは一緒にいたい。
ガーグ老と2人で、まだまだ技量の足りない娘の稽古を付ける。
真剣な表情で、「えいっ」と言いながら槍を突き出す仕草が微笑ましい。
あぁ、俺の娘が可愛いなぁ。
2時間後、稽古は終了。
娘が今から昼食を作ると聞き、現状を把握するため響と一緒にガーグ老と工房内へ入る。
「姫様。儂が御子を見付けたのが1年半程前。直ぐに【存在を秘匿された御方】だと気付き、『万象』達を呼びよせ護衛させておる。だが、御子達はダンジョンを攻略する冒険者をしておられるでの。従魔達に騎乗し、移動されると護衛するのが難しい。本国には騎獣の申請を出したが、まだ到着しておらんのだ。いやはや、こんなに大変な王族警護は初めてですぞ? 息子達には良い訓練になっていそうだがの」
「娘が冒険者をしているのは、私も驚きました。王が探し出し、再婚相手の奥様と育ててくれたと聞き感謝しています。ところでガーグ老、Lvは今幾つあるのかしら?」
1,000歳を超えて生きているのが、ずっと気になっていたから尋ねてみた。
「Lvは500ですぞ! 消えた御子を探すまで死ぬ訳にはいかんと、部下達と一緒に鍛えたでな」
返事を聞き吹き出しそうになる。
Lv500!? そりゃ寿命も相当延びる筈だ。
隣で響も絶句し、口が開きっぱなしになっている。
それなら従魔であるポチとタマも同じLvだよな?
ふむ、アシュカナ帝国に乗り込むには都合がいいか。
「それは凄いですね。ですが、娘を9番目の妻にしようとアシュカナ帝国の王が狙っていると聞き心を痛めております。そんなふざけた事を言う王には消えてもらいたいわ。ガーグ老、その時がきたら協力してくれるかしら?」
「姫様……。もしや、お一人で帝国へ乗り込むと言われるのか?」
「ええ、ちょっとお話をしに行こうと思ってます」
「それは少し危険が過ぎますぞ。本国におられる王や王妃も心配なされる。一度、兄君達に相談された方が良いと思うがの」
「お兄様達に? じゃあ、少し考えてみますね」
俺の生存は直ぐに家族へ報告がいくか……。
娘を溺愛していた父親が知れば反対されるだろう。
ここは、秘密裡に動く必要がありそうだ。
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