『では、新たなシュウゲン王より挨拶をして頂きましょう』
なぬっ!?
突然、火竜から挨拶を促され何も考えておらんかった儂はテンパった。
「あ~、本日はお日柄も良く……」
いかん、つい結婚式の挨拶分を思い浮かべてしまった。
「儂はシュウゲンじゃ。皆、これからもよく励み精進致せ!」
頭が真っ白になり、上から目線の言葉が出てしまう。
この場にいるのは国を代表する名匠達だというのに、失礼極まりないな……。
就任の挨拶など、これっぽっちも考えてなかったのが悔やまれる。
言葉を聞いた名匠達は、不機嫌になるより苦笑している者の方が多い。
年若い儂が緊張し、思わぬ事を口走ったと考えてくれたのだろう。
やれやれ、とんだ失敗をしてしまった。
奉納の儀が無事終わり、神殿から集まった者が次々と出て行くのを見てガンツ師匠を探す。
実はナラクという名の前王だった事を問い詰めるため、周囲を見渡したが師匠の姿は消えていた。
あのクソ爺め、言い訳もせん心算か! 儂も神殿を直ぐに出たが……。
その後、ガンツ師匠は行方をくらまし消息不明となった。
まんまと逃げられ、唯一事情を知っていそうな鍛冶師ギルドマスターへ会いに行くも雲隠れしたのか、こちらも捕まらず歯噛みする。
これ以上は時間の無駄だと探すのを諦め、各地に薙刀が順繰りに奉られるのを待つ。
もし同じ国に小夜が生まれ変わっていたら、必ず連絡がある筈だ。
最年少でドワーフ王の称号を受けた儂の事は、かなり話題になっている。
名前も出身地も大きく噂されているから、連絡を取ろうと思えば容易いに違いない。
実家へ帰り両親にドワーフ王となった事を伝えると、母親は飛び上がらんばかりに喜び、町の人々に息子の偉業を吹聴しまくった。
かなり恥ずかしいが、親が嬉しく思う気持ちもよく分かるだけに止めてほしいとは言えず我慢する。
それに儂が有名になるのは悪い事ばかりではない。
弟妹達も、すくすく元気に育っているようで安心した。
心なしか引退した父親がやつれているように見えるのは、子育てが大変だからかの……。
また母親のお腹が大きくなっておるしな。
新しいドワーフ王の話が国中に浸透し、儂が作製した薙刀が各地を一巡するまで10年。
待ってみたが残念ながら小夜から連絡はなく、同じ国には居ないと判断し、拠点を他国へ移す事にする。
まずは同じ大陸で鍛冶屋を営み、あれから再び作製した薙刀を陳列した。
小夜の目に留まる可能性に一縷の望みを掛け、転々と国の移動を続ける。
北大陸にある全ての国を回っても小夜を見付ける事は叶わず、それならばと別大陸へ行こうと決意し、マクサルとのダンジョンから獣人の国へ移転した。
前回、訪れた時は武闘大会を開催していたので、結果が気になり尋ねてみると獅子族の王が勝ったらしい。
白頭鷲の族長から、お礼を貰い損ねていたのを思い出し会いに行く。
儂らが顔を出すと族長は10年前の事を覚えており、息子2人を呼び歓待してくれた。
しかし、バニーちゃん達は住んでいる国が違うため会えずに終わる。
あの時いた女子達を探し出すのは難しかろうと、涙を呑んだのは内緒じゃ。
ドワーフの武器屋は、どの国でも歓迎され売り上げは好調だったが肝心な情報は得られず、気付けばこの世界で200年が過ぎておった。
小夜が人間なら、もう寿命が尽きているだろう……。
それでも、長命な種族の可能性がある限り諦められん。
更に別大陸を探そうと、西大陸にあるカルドサリ王国へ向かった。
ここで70年以上店を営業したが薙刀を知っている客は現れず、鍛冶屋をバールに任せ儂は完全に隠居する。
バールとの見た目が逆転するほど一緒の時間を過ごした今は、大分口調も変化し気安く話すようになっていた。
儂を親父と呼ぶ日が来るとは、非常に感慨深いの。
暇を持て余した儂が、王都で遊ぼうと思い店を抜け出すと何故か黒曜に、いつも邪魔される。
進路を塞がれ構って欲しい態度を見せるので、仕方なく黒曜の背に乗り空の散歩に付き合った。
こう毎回、計ったようなタイミングで来られるのは拙いと感じ、番を探そうと騎獣屋へ行き、雄の竜馬に引き合わせてみた。
しかし黒曜は理想が高いらしく、20回も見合いさせたが気に入る雄はいないようじゃ。
そんな時、カルドサリ国王が、お忍びで第二王妃を店に連れて来たとバールから聞いた。
噂では、第二王妃はエルフの王女だったな。
儂はエルフを見た事がなかったので、次に来たら教えてくれるようバールに伝える。
それ程、待つ事もなく再び第二王妃が1人で店に来た。
初めて会ったエルフの王女は、若くて非常に美しく、その気品溢れる姿に目を奪われる。
特徴的な紫眼はキラキラと輝き、まるで宝石のようだ。
その彼女は、王族らしからぬ気軽な態度で挨拶をしてきた。
「こんにちは。ヒルダと申します。親友の剣を注文したいのですが……」
ニコニコと可愛らしく笑いながら、背の高い儂を上目遣いで見てくる。
「うむ、儂はシュウゲンじゃ。しかし、既に隠居しておる身だからのぅ。今は、武器を作っておらんのだ」
「えっ、そうなんですか? でも、バールさんより腕がいいのですよね? そこを何とか、お願い出来ませんか?」
瞳をうるうるさせ両手を組んでお願いをポーズをする姿は、態となのか胸が強調され、つい鼻の下が伸びた。
「いや、しかし……」
躊躇う素振りを見せると、彼女は身を乗り出し儂の耳元で囁いた。
おおっ、柔らかな胸が腕に当たっておる!
「作って下さったお礼は、勿論しますよ」
そう言って離れたあと、恥ずかしそうに胸を両手で何度か挟む仕草をする。
これはもしや、男のロマンを代表するあれかの!?
夫のいる妻が提案するには、ちと問題がありそうなお礼だが??
本当に良いのか! いいや、男たるもの機会を逃してはいかん。
ここは節を曲げ、注文を受けて進ぜよう!!
「あい分かった。儂が親友の武器を作ってやろう。して、その彼の体格はどれくらいかの?」
「ありがとうございます! 以前バールさんに注文した事があるそうなので、聞けば分かると思いますよ」
「ふむ、ではあとで確認しよう。完成したら連絡するので、必ずヒルダちゃんが受け取りに来るのだぞ」
「は~い。楽しみに待ってますね!」
注文を受けてもらえたのが嬉しいのか、最後はウインク付きで帰っていく。
儂も俄然、やる気になった。
素晴らしいお礼を受け取るため、最高傑作を鍛えようではないか!
バールに相手を尋ねると、カルドサリ国王だと聞かされ首を傾げる。
夫を親友とは、不思議な事を言うものだ。
まぁ、国王夫妻が仲が良いのは国としても安泰だろう。
第一王妃が嫉妬せぬか心配だが、その辺りは儂の関知するところではないからの。
まずは、材料を採掘しに行かねばな。
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