翌日。
目を覚ますと、昨日サヨさんから聞いた話を思い出す。
テイム魔法はあるらしいので、シルバーとフォレストの従魔登録をしよう。
先週ダンクさんに、私達は既に有名人だと言われたのでもういいかと思い直したのだ。
いつもホームにお留守番させてるから、一緒にダンジョン攻略をしたい。
テイムしたばかりのフォレストとは触れ合う時間が少ないしね。
何かあっても、優秀な兄と旭がいるから自衛手段もバッチリあるし。
実はリースナーの町で私を守るために、兄がした事を知っているのだ。
非情になれない私に代わり、手を汚す覚悟をしたんだろう。
奴隷商が私を狙っている事に兄は気が付いていた。
先に気が付いたのは私だったんだけどね。
でもマッピング能力のある私に隠し事は出来ないんだよ?
いざとなれば私にだって人を害する事も出来る。
この世界では、お人好しなだけじゃ生きていけないんだから。
兄がした事に私は何も言う心算はない。
きっと隠しておきたい事だと思うから。
そこには医者として多くの葛藤があった事だろう。
大勢の人々の病気や怪我を治療してきた兄が、妹である私のために医者とは真逆の行為をする。
そう決断させたのは私に他ならない。
私が出来る事は怯えたりしないで、普通に振る舞う事だけだ。
本当は、自分が狙われている事がとても怖かった。
異世界は安全じゃないと思い知らされたからだ。
日本だって決して平和なだけじゃない国だったけれど、これほど頻繁に命や身の危険を感じる事はなく、治安の悪さを体験するのは辛い。
ダンジョン内で後を付けられた時は兄に気付かれないように撒いておいたし、冒険者ギルドから後を付けてくる厄介な黒尽くめの本職の人を躱すために、後で録画して見れば良い韓国ドラマを直見したいと言って早く家に帰るようにした。
出来る事なら、兄には人を傷付けてほしくなかった。
それが無理であれば私が回避する行動を取るしかない。
嫌な事をさせてしまってごめんなさい。
私は一生知らない振りをしておくよ。
いつも大切に守ってくれてありがとね。
だから旭と一緒に幸せになってほしい。
祖母と両親には、私が出来る限りのフォローをするから……。
朝食の準備をしていると、2人が部屋に入ってきた。
「おはよう! もう少し待っててね~、今作ってるところだから」
「おはよう沙良。この匂いは……今日は焼き魚か?」
「うん、塩鮭を焼いてるの。TVでも見てて」
「沙良ちゃんおはよう! 味噌汁の匂いがするって事は、今朝は和食だね~」
「旭おはよう。目玉焼きと卵焼きどっちにする?」
「う~ん、半熟の目玉焼きがいいな」
「お兄ちゃんは?」
「俺は、どちらでもいいよ。両方作るの面倒だろう? 旭に合わせてやれ」
まぁ、恋人の好みに合わせてあげるなんて優しいところがあるのね。
前から兄は旭によく合わせてあげていたっけ……。
「了解」
朝食は大根とワカメの味噌汁・半熟目玉焼き・焼き鮭・昨日の残りの肉じゃが。
朝から2人は大盛ご飯を完食だ。
善は急げとばかりに、私は結婚の事を切り出した。
何と言っても両親を召喚するまで3ケ月しかない。
「お兄ちゃん。私ね、結婚は早い方がいいと思うの!」
「突然なんだ? まだ早いだろう。そもそもお前は20歳前だぞ?」
「私じゃなくて、お兄ちゃん達だよ!」
「はぁ? 俺達だってまだ21歳だ。そんなに早く結婚する理由がないだろう」
「だって、次は両親を召喚する予定でいるんだよ? 反対される前に早くした方がいいと思う」
「……。沙良、聞きたいんだが、どうして反対されるなんて言葉が出てくるんだ?」
「えっ? それはそのぉ、日本じゃまだ好意的に受け止められていない事だし、いくら昔からよく知ってる相手だとしてもお父さんは反対するかな~と思って……」
「沙良、お前の中で俺は一体誰と結婚する事になってるんだ?」
「決まってるよ! 旭じゃん! もう隠さなくていいからね。私は大丈夫だから」
「あ~さ~ひ~!! だから1人で寝ろって言っただろ! どうしてくれるんだ!」
兄は関係がバレて激怒している。
そんなに知られたくなかったのかな?
「沙良ちゃん、誤解だって! 俺達そんな関係じゃないよ、ただの友達だから!」
旭が何か必死になって言い訳してるんですけど……。
後で兄からお説教されるみたいね~。
「ただの友達は、お兄ちゃんの腕枕で寝ません。そして一緒に寝たりしないでしょ?」
「ダンジョンで11年間1人ぼっちだったから、寂しかったんだよ。人肌が恋しいと言うか……」
「お前は、誤解を大量発生させるような事を言うんじゃない!」
うん??
それは体だけの関係って事?
「じゃあ愛してないの?」
「友情はあるけど愛情はこれっぽっちもありません」
「お兄ちゃんは?」
「あのなぁ、こいつと結婚なんて天地がひっくり返ってもあり得ない!」
ええ~!
愛してないのに親友とデキちゃうんだ!!
その方がビックリなんですけど!?
「何かまた斜め上の勘違いをされてる気がするんだが……」
「私にはよく理解出来ないけど……。2人が結婚する意志がない事だけは分かった。サヨさんには内緒にしておくね」
「いやいや内緒にする話じゃないよね? えっ? どういう事?」
「旭、諦めろ手遅れだ。お前の自業自得の所為だぞ? ったく俺まで巻き込みやがって迷惑かけんな! 沙良の思い込みは一生治らない。精々勘違いされるような行動は慎むんだな」
「そもそも、これ以上沙良ちゃんは何をどう勘違いしてるの?」
「お・ま・え・が、人肌が恋しいなんて言うから俺達〇フレにされたんだよ!!」
「うひゃ~! 賢也ごめんね~」
「ごめんで済むか! 妹に変な勘違いされたままでいる俺の身になれ!」
何か兄達が揉めてるようだけど、時間がないので私はさっさとテーブルの上を片付けて食器を洗う。
今日は教会の炊き出しに行く日だから朝が早いのだ。
喧嘩するなら、今夜2人きりになってからして下さい。
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