【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第382話 カマラ・リビエント 2 王女様発見の報告

公開日時: 2023年5月2日(火) 20:05
更新日時: 2023年8月25日(金) 23:12
文字数:2,617

 私はヒルダ様そっくりな王女様を前に、緊張で声が震えてしまわないか心配で仕方ありませんでした。


「本日担当させて頂きます、カマラと申します」


 なんとか震えそうになる声を抑え自己紹介を済ませると、王女様は大変可愛らしい声で挨拶を返して下さいます。


「サラです。よろしくお願いします。飲食店を購入したいのですが、物件はありますか?」


 多分本当のお名前ではないでしょうが、ここではサラ様と名乗られているようでした。

 商業ギルドに来られた理由が、飲食店の購入とは……。


 王女様は何をされるお心算つもりなのでしょう?


 一応決まりとして商業ギルド会員の説明をしなくてはいけませんのでお伝えした所、王女様は会員登録をされるようです。


 記載して頂いた登録用紙の内容を見ると、年齢が18歳となっていました。

 王女様は姿変えの魔道具で幼い少女の姿になっておりますけれど、18歳とはまた……。


 実年齢の何百歳とは記入出来ませんから仕方ございませんね。

 それにしては人族の12歳くらいの身長しかないようですが……。

 お胸も少々盛っておられるような気が致します。


 一緒にお見えになられた御二方の少年達との関係も非常に気になりました。


 お一人は容姿からいくとハーフエルフの男性のようです。

 もうお一人は完全に人族に姿を変更されているので、私では分かりかねますが可愛らしい感じの少年ですね。


 商業ギルドカードに血液を登録する段階になって、初めて王族の体を傷つける事になると恐怖で身がすくみました。


 必要なのは、ほんの一滴で充分。

 ですがその一滴のために、皮膚を針で刺す必要があるのです。


 王女様から差し出された白魚のような手を私は慎重につかみ、人差し指を採取用の針に軽く押し付けたのでした。


 幸いな事に隣にいたハーフエルフの男性が、傷ついた指先を直ぐに治療しておられます。


 彼は治癒術師であったのか……。


 てっきり護衛の者だとばかり思っておりましたので、少々意外です。

 となると、もうお一方の少年は魔法士の可能性が高いでしょう。


 本国でも王女様の行方は判明していなかったはずですから、お傍付きの影衆も居ないに違いありません。


 これはガーグ老に早急に相談しなければいけない大問題です。


 王族の方に影衆が付いていないなど、身を危険にさらす事になってしまうではありませんか!


 それにヒルダ様の顔を覚えている人間等もういないかも知れませんが、まだ王城にはその肖像画が飾られたままだと聞きます。

 万が一ヒルダ様との血縁を疑われるような事があれば、また愚かな人族の下に連れて行かれる可能性があるかも知れません。


 登録用紙の内容と血液を登録した商業ギルドカードを手渡すと、王女様はカードの表面に書かれた文字を確認して仕舞われました。


 『サラ・18歳・第1号』とだけ書かれた、シンプルな文面です。

 この第1号はVIPである事を意味します。

 身分が貴族出身の者でなければ第1号とはなりません。


 王女様は王族ですが、人族の身分で言えば第1号に該当するので問題ないでしょう。


 その後、私は王女様の希望する飲食店を5軒紹介する事にしました。

 その内の1軒を気に入って下さり、王女様は飲食店の契約を済ませたのでございます。

 

 店内にあるテーブルや椅子は本来なら買い取ってもらう商品ですが、王女様にそんな事を言う訳には参りませんので、私の権限の範囲で付属品として処理することに致しました。


 王女様が商業ギルドを出られた後で、私は直ぐに一文をしたためる事にします。

 内容は簡潔に【ヒルダ様の御子発見! 至急迷宮都市に戻られたし】とだけ。


 窓を開け呼び笛を吹くと、直ぐにテイムされた白ふくろうが飛んで参りました。


 これはガーグ老が大切にしている従魔で『タマ』という名です。

 連絡用にと私に託された1匹でございます。


 もう一匹ガーグ老の下にはつがいの白梟が居ますが、こちらは『ポチ』という名でした。

 幼い頃のヒルダ様が名付け親となったそうで、少々変わった名前だと思ったのは私だけでしょうか?


 白梟の『タマ』の足に一文を入れた丸筒を付け送り出しました。


 現在ガーグ老が何処どこにお見えになるか存じないため、手紙を読んで迷宮都市に到着するのは何時いつになるか分かりませんが、出来るだけ早い事を願っております。


 そして当主であるガリア様に連絡をすべく、念話用の魔道具を右手に握り魔力を注ぎました。

 これは人族が使用する通信用の魔道具とは性能が違い、魔石で動かす物ではありません。


 自分の魔力を動源として、会話のように話す事が出来る魔道具です。

 会話をしている間どんどん魔力が減っていくため、私でも3分程度しか動かす事が出来ませんが……。


 豊富な魔力を持つエルフしか使用する事は難しい魔道具です。

 数秒待つと、ガリア様から返答がありました。


『定時連絡でない時間に何かあったのか?』


『はい、急ぎお耳に入れたい情報がございます』


『報告を聞こう』


『エルフの王女様が迷宮都市にいらっしゃいました』 

 

『何だと! それは本当なのか?』


『はい。商業ギルドに来られ、私が対応させて頂きましたので間違いございません』


『カーサのやつ、私に連絡しないとは……』


 いえいえガリア様も摩天楼まてんろうのダンジョンを攻略している、王族のセイ様の事を秘密にしていらっしゃるではありませんか?


『お付きの影衆はいそうか?』


『私では気配を感じる事は出来かねますので、カルドサリ王国内に居るガーグ老に連絡を取ってございます』


『前影衆当主の修羅と呼ばれている御仁だな、なら安心か……。むうっ、そうするとこちらに居るセイ様の事もそろそろ話しておく頃合いかも知れん』


 20年以上も黙っていた事をお知りになれば、カーサ様は怒り狂ってペガサスで飛んできそうですがねぇ。


 また大喧嘩なさらないで下さいよ?


『王族の方はまだ幼い少女の姿変えをしていらっしゃいますが、治癒術師のハーフエルフの男性と魔法士の人族に変化した少年と3人一緒に行動をしているようです』


『連絡ご苦労。引き続き、王女様の安全に気を配ってくれ』


『了解致しました。何か分かれば、また連絡を入れさせてもらいます』


『あぁ、よろしく頼む』


 そこで念話は終了しました。

 今回も短い時間でしたが、MPがごっそりと減っております。

 引き出しからハイエーテルを取り出し、一気飲み致しました。


 何があってもいいようにMPを回復させておくのを忘れてはいけません。

 諜報員というのは、いつでも自分を万全な状態に保つ事が肝心です。


 ガーグ老からの返信が届いたのは、1週間後の事でした――。

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