手紙を読み日本で亡くなったと思っていた沙良と賢也に雫ちゃんと尚人君と結花さん、それに妻の母親が異世界で生きている事を知る。
俺は嬉しさより、ティーナの体に沙良の意識がある事が気になり仕方なかった。
妻は、約60年振りの親子の再会を果たし涙ぐんでいる。
しかし樹の妻である結花さんは雫ちゃんと同い年になり、2人は別人の姿になっていた。
樹が見たらどう思うか……。
案外、若くなった妻を歓迎するだろうか?
かなり年齢差がある夫婦になりそうだ。
いや、それよりティーナの姿をしている沙良に驚くだろう。
先程の手紙では、リーシャ・ハンフリーとなっていた。
ティーナが生きていたのなら、ティーナ・エスカレードの筈だ。
しかも公爵家の家に生まれた事になっている。
ハイエルフの子供を養子にしたのか?
どうもまだ知らない事がありそうだ。
俺がティーナと沙良の事を考えていると、母親から言われた妻が若返っている事を知る。
自分の姿は見えないので気付かなかったのか……。
沙良が俺達2人の前に姿見を置く。
美佐子は78歳から40代の姿に変わった容姿を見ると、嬉しそうにしていた。
俺は、既に一度経験済みなので驚かない。
前回は別人だった180歳から30歳に戻ったので、今回の方が全然ましである。
その後、沙良から手紙を渡された。
読んでみると、賢也が召喚された時と同じような内容だった。
ある一文を除いて……。
『なお既に覚えた能力はそのままとさせて頂きます。』
この文面が示すのは、カルドサリ国王時代に習得した能力の事だろう。
日本では魔法が全く使用出来ない状態だったが……。
俺は直ぐにステータスを確認した。
【椎名 響 42歳】
レベル 125
HP 1,890
MP 1,890
剣術 Lv50
槍術 Lv50
魔法 特殊魔法(換金・交易・鑑定)
魔法 火魔法(ファイアーボールLv10)
魔法 水魔法(ウォーターボールLv10)
魔法 土魔法(アースボールLv10)
魔法 風魔法(ウィンドボールLv10)
Lvは125のまま魔法がグレー表示から黒へ変わり、沙良から召喚された事で3つの新しい能力が追加されている。
この特殊魔法ってのは、一体何なんだ?
魔法は魔術書で覚えるものじゃないのか……。
やはり、教会は胡散臭い。
【特殊魔法】
●換金 異世界の通貨を日本円に交換可能です。逆は出来ません。
●交易 ホーム内にある物を異世界の通貨と交換可能です。逆は出来ません。
●鑑定 物に対して、名称・素材・価値を知る事が出来ます。
与えられた換金の能力は、異世界の通貨を日本円に換金する事が出来るものらしい。
何故、日本円?
「おじさん。ちょっといま金貨を1枚、日本円に換金してくれないかな?」
「ああ、いいぞ」
尚人君に頼まれ了承すると、金貨を1枚渡される。
「換金」
と唱えると、手に乗せた金貨が100万円札の束になった。
これは一体、どんな魔法なんだ?
それに、日本円に換金しても異世界じゃ使用出来ないだろう……。
尚人君は車が購入出来ると跳び上がらんばかりに喜んでいるが、意味が分からない。
不思議に思っていると、妻が沙良へ質問する。
「沙良、手紙の通りならここは異世界なのよね? どうみても自分の家にしか見えないんだけど?」
「あぁ、それはここが私の能力であるホーム内だからだよ。ホーム内は日本と同じなの。人はいないけど……。実家をホームに設定したから、家が新築になっていると思うよ? 家の中にある物は、全て新品の状態になっているしね!」
何だと!?
色々衝撃があり過ぎ、今自分達がいる場所が自宅だという事をすっかり忘れていた。
娘のホームの能力が規格外過ぎる!
それなら、日本と同様の生活を送れるという事じゃないか?
話を聞いた美佐子が早速ピアノの方へ向かった。
俺は新品の状態になっていると聞き、真っ先に秘蔵の酒を確認する。
定年退職の祝いに頂いた高い酒は飲んでしまったが、ボトルを記念に取ってある。
その他にも少しずつ飲んでいた酒の中身を確認すると、全てが未開封の状態になっていた。
おぉ、これは凄い!
室内を見渡すと、家も家具も新しくなっているようだ。
そこに妻と母親が抱き合い感動している姿を見る。
我に返り慌てて自己紹介をした。
そういえば、妻と結婚したのは母親が亡くなってからだ。
その後、全員で沙良とお義母さんが作った料理を食べる事になった。
妻の料理と同じ味がしたので、やはり親子なのだなぁと思う。
沢山料理を作ったのか、中には鰻まである。
俺の目の前に置いてある量だけが少し多い気もしたが、好きなので沢山食べておいた。
料理を食べ終わる頃、沙良から爆弾発言が飛び出す。
「お父さん、お母さん。驚かないで欲しいんだけど、お兄ちゃんと旭が結婚しました!」
その余りにも信じがたい内容に、俺は飲んでいたビールを全て口から出してしまった。
賢也と尚人君が結婚しただと!?
2人にそんな素振りはなかったよな?
異世界で8年を過ごし、染まってしまったんだろうか……。
俺は動揺しつつ、口から零してしまったビールを拭く。
既に結婚済みなら仕方ない。
心を落ち着かせようとビールを飲んだ時、
「それでね、2人の子供は私が産んであげる事にしたから、孫の事は心配しなくても大丈夫!」
沙良から発された次の言葉を聞いて、再度ビールを全て口から出す事になる。
あ~それは、非常に不味い!
理由は分からんが、今の体はティーナで間違いない。
となると尚人君とは母親違いの兄妹になるから駄目だ。
「さっ、沙良。それは……尚人君との子供を産むという事かい?」
「別人の姿になっているけど、お兄ちゃんとの子は産めないから当然でしょう?」
「いや……それは理解出来るんだが……。尚人君とは……ちょっと待ってほしい」
俺にはそう言うだけで、精一杯だった。
この件は母親の樹に丸投げしよう。
沙良のLvを早く上げ、樹を召喚してもらわないと……。
沙良から爆弾発言の後、賢也から別室で事情を聞きほっとする。
どうやら沙良の勘違いから結婚式を挙げただけのようだ。
娘の思い込みと勘違いは筋金入りだから、訂正するのは至難の業だ。
本当じゃないから安心してほしいと言われ、害はなさそうだったので了解した。
下手に言い訳すると、沙良が今度は何をするか分からない。
賢也は、この世界の女性と結婚する気がないそうだ。
言い寄られると困るので、このままの状態の方が都合がいいらしい。
まぁ沙良のホームの能力を知られる訳にはいかないだろう。
その夜――。
賢也に若返った反動があるからと渡された、卵型のお世話になった。
42歳の時、俺はこんなに元気だっただろうか?
30歳に若返った時は、溜まっていたから理解出来るんだが……。
こうして沙良に召喚された日は、自宅で眠るという異世界感が全く感じられないものだった。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!