私は旭に不審に思われないように、なるべく普段通り声を掛ける。
最初に会ったのが旭の方で助かった。
嘘を付くのは得意じゃないんだよね。
兄だとバレないか心配で緊張するし……。
「旭。迷宮ウナギは、もう全滅させちゃった?」
「あれ? 沙良ちゃん、今日は随分早いね。迷宮ウナギは、まだ上流の方に行ってないからいると思うよ」
「じゃあ私、今から上流の方に行くね。偶にはサンダーボールのLv上げもしたいから」
「了解。俺はこの辺りの薬草採取をしてるよ」
幸いにも鈍感な旭には、私が普段と違う行動をしても疑問に思われる事はなかった。
旭から離れ、言葉通り川の上流に行き迷宮ウナギを5匹狩る。
周囲の警戒を2匹にお願いして、私は先程の冒険者がどうなったかトレントの森をマッピングで見る事にした。
あぁ……。
全員がキングビーの毒針に刺され、満身創痍の状態になっているわ。
キングビー16匹は、地面に落ちているので討伐出来たらしい。
彼らはどういう心算で、キングビー16匹を引き連れトレントの森に逃げてきたのだろう?
私に直接手を出さず、助けを借りようとした所で全員が逃げ出す算段でもつけていたのか……。
でも魔物の習性を考えれば、一度交戦した相手が逃げ出した所で追ってくるだけなんだけど。
何か魔物から狙われないような方法があって、計画通りなら安全に私1人に害を及ぼす事が可能だったんだろうか?
それにしては6人全員が毒針で刺されている状態をみると、杜撰な計画だったと言わざるを得ない。
その怪我はエリクサー(金貨1枚)でしか治らないらしいけど、これから一体どうするのかな。
毒が回れば刺された場所は壊死するので、冒険者としては致命的だ。
今後ダンジョンを攻略する事は出来ないだろう。
裏稼業をするくらいだから、貴族しか買えないエリクサー(金貨1枚)も持参してるかな?
まさか厚顔無恥にも、安全地帯の私達のテント前で治療を待っていたりはしないだろう。
いやいたら私が治療をさせないよ!
流石に自分を殺そうとしてきた相手の治療をさせる程、馬鹿じゃない。
依頼者のオリーさんから、冒険者活動が出来なくなった慰謝料をたっぷり請求して、さっさと退場願います。
そのまま様子を見ていると、どうやら彼らはエリクサー(金貨1枚)を持っておらず治療出来ないみたいだった。
6人全員で話し合いをして安全地帯に戻る事に決めたらしい。
はぁ~。
計画が失敗に終わったから、私を狙った事はバレていないと思っているんだろう。
なんて図々しい人達なの!
兄はまだ果物の収穫から戻ってこないので、6人を治療するのは旭になる。
普通なら6人の治療を1人で出来る筈ないんだけど、以前地下10階で大勢に治療をした事があるから無理を言ってきそうだ。
旭は理由を知らないので普通に治療をしようとするだろう。
それは私が我慢ならない。
どうやって彼らの治療を回避しよう。
ない知恵を必死に絞って出した答えは、体調不良による攻略中止だった。
医者の2人を体調不良で誤魔化すのは難しいけど、唯一バレない事がある。
女性特有のアノ日だ。
お腹が凄く痛いから、自宅に帰って寝たいと言えば男性は信じるしかない。
ヒールじゃ治らないしね。
心配症の兄は、私を置いてダンジョンを攻略しようとは思わないだろう。
旭も1人でダンジョンにいるのは、過去を思い出して嫌がるだろうし。
そうと決めたら直ぐ行動に移そう。
まずは勿体ないので、マンゴー30個を兄に代わって収穫する。
キウイフルーツも残り2本だけだったので、200個をアイテムBOXに収納。
視界に映れば触らなくても対象が収納出来るので、生っている実も可能か試したら出来てしまった!
今までウィンドボールで枝から切り離していたけど、そんな必要はなかったらしい。
そして視界と言えばマッピング。
私は場所を移動する事なく半径35km以内は全てが見える。
結果、マッピングで見た物も収納出来た。
アイテムBOXが有能すぎる!
森のダンジョンは直径5km程度の広さしかないので、私は全く移動する事なく果物を収穫出来るようだ。
じゃあ魔法も使用出来るかと思い、マッピングで探した迷宮タイガーにドレインを使用と念じたら昏倒しましたよ!
まじかっ!?
そのまま脳を石化させて2匹をアイテムBOXに収納した。
今まで知らずにいたけど、マッピングとアイテムBOXの組み合わせってヤバイ能力なんじゃない?
どちらかひとつでも、かなりチートな能力なのに……。
これは知られたら大変だ。
マッピングの能力はホームLvで有効範囲が変わるけど、現在35kmを移動出来るなら充分だろう。
何度も繰り返せば他国にだって行けるし、何故か消費MPは0なので使い放題だ。
私が方向音痴で、行った事がない場所には無事に辿り着ける自信がないのが問題だけど……。
ミリオネとリースナーの子供達に会いに行けるんだから大丈夫。
地図を購入すれば兄が先導してくれるだろう。
旭も車の免許を持っていたけど、運転するのはいつも兄だった。
運転技術を信用していなかったのかしら?
それとも恋人を気遣い自分が運転してあげてたのかなぁ。
兄は優しい所があるから、どちらか分からないわ。
私は兄に助手席で大人しくしているようにと言われたので、車を運転する事は一生なさそうだ。
それにしても……。
私ってマッピングを使用すれば、完全犯罪が出来るんじゃないかしら?
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