サラ様が本気で驚いているのか演技をしているのか判断出来ないまま、ゼリア様が『毒消しポーション』の効能を試すため呪具を取り出された。
その手に嵌めている黒い手袋は、呪いの品である呪具で昏倒しないための物だろう。
しかし、禁制品である呪具をどこから調達されたのか?
薬師ギルドは、ある意味伏魔殿となっているから何をしているか把握出来ていないのだ。
ポーションの作り方は完全に秘匿されている。
ここは特に教会と対立する組織でもあった。
治癒魔法と浄化魔法を使用出来る人材を多く確保している教会に対し、ポーションを販売し手軽に治療出来るようにと作られた組織だからだ。
当然、色々問題が起こったに違いない。
それまで人々は、怪我をすると教会にお布施を払うか治療院で治すかのどちらかしかなかったのだから……。
まぁ人族最大の勢力である教会が、ポーションの販売でどれだけ痛手を被ったかは不明だが。
目の前でゼリア様が黒色の呪具に『毒消しポーション』を少量掛けた。
するとほんの数秒で無色透明に変わり、解除が成功したようだ。
ゼリア様が持っていたのはハイポーションを浄化した物らしく、ポーションを使用した物をサラ様が提供される。
『毒消しポーション』は、ポーション類を浄化した物なのか……。
となるとエリクサーは……。
いや、ここは踏み込まない方がいい。
私はそれ以上、考察するのを中止した。
ポーションを浄化した物であっても同様の効果が現れたため、ゼリア様は治癒術師の御二方に大量のポーションを浄化するよう指示を出された。
浄化の魔法はMP消費量が治癒魔法より多いと聞くが、高名な治癒術師でおられる御二方には問題ないらしい。
実に100本のポーションを浄化されても、魔力欠乏の兆候が一切見受けられなかった。
初めてお会いした時見たステータス値も、相当誤魔化しておられるのだろう。
完成した『毒消しポーション』を、アマンダさんがダンジョンに運ぶ役を買って出る。
その際、サラ様の従魔であるシルバーに乗っていくみたいだ。
よく調教された従魔は、主人の言葉が理解出来るので他人を乗せて走る事が可能である。
時間が何より重要な今は、従魔を快く貸してくれたサラ様に感謝しないと。
アマンダさんがダンジョンへ向かった後、ゼリア様は更に50本のポーションを出し御二方に浄化を掛けてもらっていた。
魔力量を心配され事前にハイエーテルを飲むよう渡されていたが、多分必要ありませんよ?
再び完成した50本の『毒消しポーション』を鑑定された後、
「私はちょっと席を外すよ。……そんなに独り言ばかり言っては、頭がおかしいと思われるではないか。……付いておいで」
ゼリア様が、また妙な独り言を呟かれ部屋を出る。
残された私はどうしたらいいのか非常に焦ってしまった。
きっと影衆達へ『毒消しポーション』を渡しに行かれたのだと思うが……。
1人5本と言われていたので、この場には10人の影衆達がいたのだろう。
人数まで把握されているとは、彼女とは敵対したくないものだ。
白狼族の戦闘値はかなり高いとみた。
人の姿をしているエルフとは違い、獣人の体の作りは種族性に特化している。
狼ならば、狩猟が得意で嗅覚に優れている種族だ。
案外、影衆達が気付かれたのは匂いの所為かも知れない。
いくら『迷彩』で姿を隠していても、匂いまでは消せないから仕方ないだろう。
そう考えていると、サラ様に尋ねられた。
「あのぉ、オリビアさん。ゼリアさんとは面識があるんですよね?」
「ええ、彼女も長い間迷宮都市にいるから、何度もお会いした事があるわ」
「先程、独り言を言っていましたけど……。いつもの事なんでしょうか?」
これは……驚かれたのは演技ではない?
サラ様は、本当に不思議そうにされている。
護衛に就いている影衆の存在を、お知りではないらしい。
ゼリア様が不在の時に、なんとお答えしたら良いものか……。
「ええっと、そうね……。彼女は、時々亡くなったお爺さんに話しかける癖があるのよ。本当に、気にしなくても大丈夫だから!」
私は迷い、ゼリア様がボケている事にした。
それ意外に上手い言い訳が見付からない。
申し訳ありません、ゼリア様。
心の中で謝り話題を変える事にする。
「それよりサラさん、国へはいつお戻りになるの?」
今回の件は、ほぼアシュカナ帝国の仕業だと断言出来る。
数年後、この中央大陸に攻め込んでくるという情報がマケイラ家から上がっていた。
カルドサリ王国もその範囲に入っている。
ハイエルフの王族で『存在を秘匿された御方』であるサラ様には、安全な本国に戻ってほしい。
そう願い口にした言葉は、
「ダンジョンを攻略するまで、ずっとこの国にいる予定ですけど?」
サラ様の無情な返答で意味を失う。
現在地下14階を攻略されているサラ様が、地下30階あるダンジョンを攻略するまで掛かる年数を考えると間に合わない。
事情をご存じないのかもと思い、アシュカナ帝国について詳しく話す事にした。
「それは止めた方がいいわ。今回の件、裏で手を引いているのは間違いなく南大陸にあるアシュカナ帝国よ。他国の諜報員が死亡している事は知っているでしょう? 持っていた魔道具から出身地を割り出したら、アシュカナ帝国の物だったの。あの国の王はかなりの野心家だから、いずれカルドサリ王国がある中央大陸にも攻め込んでくる筈。ええ、きっと数年の内に必ず戦争が起きる」
話を聞いたサラ様と治癒術師の御二方は初耳だったらしく、特に兄と名乗られている方の表情が険しいものに変化した。
治癒術師といえども、護衛を兼ねているのなら当然の反応だ。
可愛らしい容姿をした少年姿のもう御一方は、顔面を蒼白にされているが大丈夫だろうか?
「ご忠告ありがとうございます。まだ少しやり残している事があるので、直ぐにとはいきませんが考えてみますね」
サラ様は真剣な表情をして、そう答えられた。
いやもうこんな事があったからには、とっとと帰国して下さい!
これ以上何かあれば、私の心臓が持ちませんよ!
王族を危険に晒したと、影衆達に粛清されたらどうするんですか!?
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