工房を出ると、沙良ちゃんの作ったカルボナーラがテーブルの上に置いてあった。
ガーグ老達が初めて食べるパスタを、もの凄い勢いで食べ始める。
皿に1.5人前は盛られた量が、見る見るうちになくなった。
うんうん、娘の料理は美味しいよなぁ~。
妻が妖精に準備したのはホットケーキなので、今日は木から落ちずに済んだようだ。
娘達が工房を後にして直ぐ俺達も行動を開始する。
義祖父達へ出掛ける事を伝え、ガーグ老と工房から出た。
ポチを変態させるには広い場所が必要となる。
ガルムに乗り迷宮都市から離れた場所へ移動して、ポチを風竜に変態させた。
影衆達の『迷彩』は、自分が触れている物も見えなくなる便利な魔法だ。
ガーグ老の体に接触している間、風竜の姿も消える。
体長20mもある竜の姿が人目に付くと騒ぎになるので、『迷彩』が掛かった状態で空を飛ぶ。
ガーグ老と同Lvになったポチの移動速度は、かなり速い!
このままだと風圧で吹き飛ばされそうだから、俺は慌てて風魔法を使用し相殺する。
僅か10分で王都へ着く頃には、目まぐるしく変わる景色で眩暈がしていた。
地上に降りた後も、ふらふらする。
「姫様。大丈夫かの?」
「ええ、少し驚きました」
ガーグ老が心配し言葉を掛けてくれたのは、俺が青い顔をしていたからだと思う。
響は平然としているようだ。
この速度の竜に乗った経験があるらしい。
ヒルダは王族だったので、あまり無茶な飛行はさせなかったんだろう。
男性姿の俺なら問題ないと思ったのか?
隠れ家まで案内する響の後を付いていく。
その家は貴族街ではなく王都の閑静な住宅街にあった。
4m程ある塀で囲まれているため、少し周囲から浮いていたが……。
門の扉は使用者登録の魔石があり、血液の登録が必要になる。
親指をナイフで切り魔石に血を垂らし、習得したヒールで直ぐに治療した。
中に入ると100坪くらいの敷地面積があり2階建ての家が見える。
150年経過しても劣化したように見えないのは、トレント資材を使用し建てたからみたいだ。
第二王妃の予算は思った以上にあったらしい。
渡された小遣いは、ほんの極一部だったのか……。
女はドレスや装飾品に金が掛かるからなぁ。
俺は王都の飲み屋で、酌婦の胸元に金を入れるくらいしか使わなかった。
ガーグ老は良い顔をしなかったが、それくらい楽しみがあってもいいよな?
いや妻にバレたら拙いから、異世界の出来事は封印しておこう。
家の中に入ろうとしたら、響にもう一度魔石に登録する必要があると言われる。
おいっ、最初に言えよ!
2度も痛い思いをする羽目になったじゃないか!
俺は誰かさんのお陰で、痛いのが嫌いなんだ!
渋々もう一度、親指を切り速攻でヒールを掛けた。
ガーグ老は以前、隠れ家に来た事があるのか魔石に登録する様子がない。
俺より先に知っているのは少し釈然としないな。
響が地図を持ってくると言うから、1階のリビングにある大きなテーブル席でガーグ老と待つ。
普通の家に見えるが、どこから王宮へ行けるんだろう? 地下に続く隠し扉でもあるのか?
5分後、地図を片手に響が戻ってきた。
王宮の見取り図をテーブルの上に広げ、第二王妃の肖像画が飾られている場所を示す。
見覚えがなく、何の建物か聞いたら貴族がサロンに使用している所らしい。
王宮内に住んでいたが、俺は殆ど第二王妃の宮を出る機会がなかったからなぁ。
知らない場所の方が多いかも……。
「問題がひとつ。家から通じる道は王の書斎だ。そこから出るには扉を開ける必要があるんだが、当然使用者登録の魔石があり、更に扉の前には近衛が待機しているだろう。中に現国王がいた場合、扉を開けるのは難しい。不在の時を狙う必要がある。中からは魔石へ登録出来ないから、俺も一緒に付いていこう。扉を開ける前に、待機している近衛をドレイン魔法で昏倒させた方がいいんだが……。姿が見えない人物に魔法を掛けるのは無理だろうな。なるべく騒ぎにならないよう、迅速に処理したい」
「そこは儂の出番だな。意識を失わせるくらい訳もないわ」
「……そうか。では任せよう」
それから詳細な道順を伝え、王宮警備を担当している騎士達の巡回経路を話していく。
基本的に響は書斎で待機し、ガーグ老達が肖像画を盗み出し戻るまで動かないみたいだ。
「私は何もする必要がないのですか?」
「姫様は、我らの帰りを家で待って下され。少ない人数で動いた方が良いのでな」
何だか蚊帳の外に置かれたような気分になる。
「王が書斎にいるか、どうやって確かめるの?」
「まぁ余程上手く気配を隠していなければ、儂が気付けるであろう。念のため、風の精霊に見てくれるよう頼めばよい」
あぁ、実体を伴わない精霊なら可能か。
「これから、王宮に続く道へ行ってみよう。俺も通った事がないから、利用出来るか確認した方がいい」
響の言葉にワクワクする。
秘密の抜け道なんて楽しそうだ。
彼が部屋の隠し扉を開けると、地下に続く階段が見えた。
中は真っ暗で光がないと歩くのは困難だろう。
ライトボールで光源を作り出し付いていこうとしたら、入り口で待てと言われた。
「お前が実際行く必要はない。俺達だけで充分だ」
「姫様。誰も入った事がない道は危険かも知れぬ。ここは大人しく待って下され」
ええぇ~! 俺だけ、お預けにされるのか!?
思いっきり不満を顔に出しても響は頷かない。
ガーグ老に至っては、ポチに見張るよう頼んでいる。
はいはい、1人で待てばいいんだろ?
従魔を見張りに置くなんて、俺はどれだけ信用がないんだ……。
ちぇっ、俺も一緒に行きたかったな~。
ここから王の書斎がある場所までは、かなりの距離がある。
時間を潰そうと、母親の王妃に通じる念話の魔道具を取り出した。
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