【4巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です。
如月 雪名
如月 雪名

第848話 シュウゲン 29 ヒルダちゃんの正体&スーパー銭湯

公開日時: 2025年4月10日(木) 19:08
更新日時: 2025年4月17日(木) 09:02
文字数:2,820

 あの棋譜きふを打つ者の心当たりを探って、ひびき君いや正確には彼の父親のブライアンを思い出す。

 響君に将棋を教えたのはブライアンだろう。

 美佐子みさこが結婚して親戚になった彼とは、良い将棋仲間になったのだ。

 イギリス人の彼は、日本人の妻にぞっこんで日本語や日本の文化に堪能であった。

 特に将棋はチェスより駒の動きが複雑で興味を持ったらしく、趣味の範囲を超える腕をしておった。

 そんな彼の棋譜を異世界で見る事になろうとは……。


 もしやヒルダちゃんはブライアンが転生した姿なのか?

 儂が日本で生きていた頃、彼はまだ健在だったが……。

 あの後で亡くなり同じ異世界に転生したのだろうか?

 一度そう思うと気になって仕方がない。

 前世の記憶を持ったブライアン相手に、少々恥ずかしいお願い事をしてしまったのかとあせる。

 ここは、はっきりさせておくべきだと響君にブライアンの消息を聞いてみる事にした。


「響君。ブライアンは、まだ生きておるかの?」


「はい、父はまだ亡くなっておりませんよ」


 それを聞いて、儂は大きく息を吐いた。

 ヒルダちゃんがブライアンでなく安心した。

 再会した時に、お互い気まずい思いをせんで済むようじゃ。

 しかしそれなら、ガーグ老達に将棋を教えたのは誰だ?

 目の前にいる響君ではないし……。

 う~む、なんというかヒルダちゃんの謎が増えた気がするわい。

 

 数時間後、沙良達が新しい従魔を連れ戻ってきた。

 また兎か……。

 結花ゆかさんは、騎獣に何を求めておるのかのう。

 自分の騎獣も兎だと知ったいつき君が、ショックを受け固まっておる。

 抗議しようとして妻に黙らされたようじゃ。

 自分ではテイム出来ぬから仕方ないわな。

 帰りは沙良が王都の店まで送ってくれた。

 次回家族と会えるのは、また来週か……。

 小夜にも会いたいが、家庭を持っているとそれも難しいだろう。


 家族と会えるのを待つ間、孫の賢也にお願いされた槍を作製しようと久し振りに鍛冶魔法を使った。

 数百年振りに武器を作製すると言ったら、バールにどこか体の具合が悪いのかと心配されてしまったが……。 

「これからは武器の注文を受ける」と返事をすると、どこかほっとしていたようだ。

 ずっと何もせず、ぼ~っと生きていたのでボケ老人になるのを心配していたのかもしれん。

 素材は賢也の希望通りアダマンタイトを使用したので、少々高くついたが数十年分の誕生日プレゼントだと思えば問題ない。

 ドワーフ王の称号を持つ儂が鍛えた槍だから自慢するといいぞ。


 1週間後、沙良が息子のかなでと店にやって来た。


「注文した武器を受け取りに来ました」


「おぉ、槍は出来ておる。数百年振りに鍛えたわ!」


「ありがとうございます。お幾らですか?」


「孫から金を取る事はせんよ」


 代金を支払おうとする沙良を止め、金はいらんと手を振る。


「あっ、じゃあこれから夕食を実家で一緒に食べませんか? 今日はサヨさんも一緒ですよ」 


「小夜もおるのか、嬉しいのぅ。それは行かねばならん。バール、儂は出掛けてくるからな」 


 こんなに早く小夜と会えるとは思わず、儂の胸が期待で高まる。

 バールに外出すると伝えて足早に店を出た。


 ホーム内に転移して早々、前回は小夜に会えるとは思わず、だらしない恰好をしていたと後悔したのを思い出す。

 今回は、もう少しまともな状態で会いたいので、沙良に風呂屋へ行きたいと申し出た。

 すると今はスーパー銭湯なるものがあるらしい。

 なんじゃそれは……、風呂屋の豪華バージョンかの?

 沙良に奇妙な形状の剃刀かみそりを渡されたあと、奏に使い方を聞けばいいと言われて大きな建物の前で置き去りにされた。

 1時間後に迎えに来るそうなので、さっさと風呂に入ろう。


 しかし本当に、この大きな建物が風呂屋なのか?

 半信半疑で建物の中に入ると、入り口には鍵の掛かる下駄箱が沢山ある。

 靴を脱いで室内に上がれば、想像以上に大きな空間が広がっていた。

 これほどの人数を一気に収容できる風呂なら相当広いのだろう。

 奏が受付で何かの機械を押すと、鍵の付いたベルトと大小2枚のタオルがカンターの上に突如とつじょ出現する。

 先程までは何もなかったというに……。

 どんな絡繰からくりか正体を見極めるため奏が触っていた機械をにらんでおると、息子が苦笑して腕を引っ張ってきた。

 

「まだ調べておらん! 手を離せ!」


「父さん。不思議なのは分かるけど、早く風呂に入ろう」


 ぐっ、それもそうか……。

 疑問に思ったことは、あとで聞けば済む話じゃ。

 階段を上がり、男湯と書かれた暖簾のれんを潜ると脱衣所がある。

 鍵付きのベルトは、この脱衣所に設置されたロッカーへ着替えを入れるためのようだ。

 ふむ、荷物を盗まれぬよう対策しているのだな。

 番台に座る者の代わりか……。

 確かに脱衣所が、これほど広いと人の目で監視するのは難しいだろう。

 施設を見て、いちいち感心しておる儂の服を奏が脱がせてきおった。


「父さん、時間がないから早く!」


「ええいっ、分かっておるわ!」


 儂の知る風呂屋とあまりにも違うし仕方ないじゃろ。

 日本は、儂が死んでから随分変わったようだわ。

 急いで全裸になり沙良から貰った剃刀を片手に、いよいよ風呂がある場所の扉を開ける。

 そこは、幾つもの大きな浴槽が並んだ別世界だった。

 呆気あっけに取られていると、再び奏から腕をつかまれ椅子の上に座らせられる。

 風呂の前に髪と体を洗いたいが石鹸を持ってくるのを忘れた。

 

「奏、石鹸を持っているか?」


「ボトルにボディーソープが入っているから、ポンプを押せば出てくるよ」


 ボディーソープとな?

 聞いた事がない言葉に首をかしげていると、奏が小さいタオルを手にして使い方を教えてくれる。

 おおっ、石鹸が液体になっておるのか!

 他にも3つ並んだボトルには、シャンプーとリンスが入っておるそうじゃ。

 シャンプーは髪を洗う時に、リンスは髪を洗ったあとに使用すると聞き、面倒くさいと思ったのは内緒にしておこう。

 そんなもの全て石鹸で良いではないか……。

 儂は最初にボディーソープを泡立て口の回りに付け、沙良から貰った剃刀でひげを剃る。

 おやっ、奇妙な形状をしておったが中々使いやすいではないか。

 剃り心地も良いし、肌も切れていないようだ。

 次にシャンプーで髪を洗いリンスは省略した。

 最期に小さいタオルにボディーソープを付けて体を洗う。


 浴槽が沢山あるので、どの風呂に入るか悩んでいると奏はジェットバスがお勧めだと言う。

 あの泡が出ている風呂か……。

 それなら一度ジェットバスに入ってみよう。

 これはいい、腰や足の裏に強い水流が当たり疲れが取れる気がするの。

 20分くらい浸かり、大急ぎで服を着て脱衣所を出た。

 奏がガラス瓶ではなく透明な容器に入った飲み物を買ってくれたが……。

 何の素材で出来ておるのか、とても軽い。

 色からしてコーヒー牛乳だと思って飲んだのに、何故か味が薄かった。

 鍵付きのベルトを返却し、スーパー銭湯を出ると沙良が待っておる。

 儂達の方が遅かったようじゃ。


「待たせてしまったか、悪いな」


「大丈夫ですよ。じゃあ実家に行きましょう」

 

 そう沙良が言った瞬間、美佐子の家の前に着いた。

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