翌日、水曜日。
ダンジョンマスターから解放された茜に、冒険者活動は来週からにして今週は休んだら? と提案したものの、私達がこれからダンジョンへ行くと知ると心配だから一緒に攻略すると言い張った。
本人に休む気がないなら、大丈夫かと冒険者登録をする事に決める。
茜は、この世界の服を持っていないから兄の服を借りた。
武器は魔物が持っていた剣と槍があるから不要らしいけど、服と防具は購入する必要がありそうだ。
メンバーを連れ異世界の家に移転する。
私の家を見た茜が、高い塀に唖然としていた。
「姉さん。この世界は家に高い塀が必要なくらい物騒なのか?」
「そうじゃないけど、子供達が大勢遊びに来るから防音対策のためにね」
「それにしたって高すぎな気もするけど、外の景色が全然見えないし……」
塀を見上げ固まっている妹の手を引っ張り、さっさと門の魔石に血液を登録しヒールで治療する。
門を出て初めて見る異世界の景色に茜は興味がないのか、僅かに視線を動かしただけだった。
ここから茜と私はパーティーと別行動を開始し、古着ではなく新品の服を売っている店に寄る。
特に迷わず、茜は男性用から適当に5着選び渡してきた。
服装に関して女性物を着ないのは相変わらずのようだ。
次に武器屋へ行き、ワイバーン製の革鎧(金貨5枚・500万円)を購入。
最後は摩天楼のダンジョンにいる茜の従魔達を回収へ向かう。
55階層に移転し、茜の従魔達を紹介してもらった。
ダイアンは体長5mもある見事な体躯の黒豹で、体長4mのシルバーより更に大きい。
6匹のアーサー達はシルバーと同じくらいかな?
やはり群れを統率するリーダーになると、大きく変化するんだろうか?
ガルちゃん1号も1匹だけ大きくなったし……。
ダイアンの瞳はオパールのように輝き幻想的だった。
そして額に第三の目が付いている。
こちらは普段閉じられており、滅多に開く事はないんだそう。
対してアーサー達の瞳は黄色の猫目石のようだ。
シルバーと茜の従魔達が頭を下げ合いながら挨拶を交わしている。
いつも思うんだけど、他人の従魔と魔物達は会話出来るのかしら?
従魔達の微笑ましい姿を見て思い出す。
あぁ、忘れる所だった。
茜にダンジョンへ召喚した魔物を聞いておこう。
「ダンジョンマスターの能力で、何の魔物を召喚したの?」
「ドラゴンを召喚しようと思ったら却下されて、仕方なく99階にベヒモスを呼んだ。それで召喚枠の30が一気に消えたから、実質呼び出したのはベヒモス1体だけだよ。まだ倒せてないんだよなぁ。しかも99階に出現する魔物はベヒモス1体だけになってしまったから、ちょっと失敗だった」
また凶悪な魔物を……。
でもベヒモスを1体倒しただけで、Lvは相当上がりそうね。
98階の安全地帯からマッピングで索敵し、魔石を体内から抜けば私でも倒せるかしら?
そしてドラゴンは魔物ではないらしい。
「茜らしい魔物ね。これから王都へ冒険者登録と従魔登録に行く予定よ。ダンジョンへ入るには、C級冒険者の資格がいるからスキップ制度を受ける必要があるわ」
「そりゃ楽しみだ」
茜はダンジョンマスターだったから異世界に関しての知識がないので、私が色々教えてあげよう。
今回は従魔登録の必要もあり、最初から王都で申請する事にした。
カルドサリ王国内の、どこでも従魔として騎乗出来る方が良い。
王都へ移動し、冒険者ギルドの受付嬢に冒険者登録とスキップ制度・従魔登録をしたいと伝える。
ここでも何故か受付嬢が処理をせず、そのまま部屋へと案内された。
普通、冒険者登録は受付嬢がするのに……。
部屋で待っていると、ギルドマスターのランドルさんが入ってきた。
「サラちゃん、新しいメンバーの冒険者登録かの」
「ランドルさん、おはようございます。妹の冒険者登録と従魔登録をしに来ました」
「初めまして茜と申します」
「おぉ、護衛が1人増えなさったか……。良い事じゃな。スキップ制度を受けるのは、7匹も従魔をテイムした方に必要ありませんぞ。この場で合格を出しましょう」
護衛? 日本では、私のボディーガードのような役目をしていた妹だけど……。
ランドルさんの目にも、そう見えるのかな?
そしてスキップ制度は受けなくても良いらしい。
登録用紙と従魔用の首輪を渡され、用紙は私が記入する。
7匹の従魔はギルドの外で待機しているから、茜に2匹ずつ呼び出すようお願いし首輪を着けた。
従魔登録の用紙を見たランドルさんが苦笑している。
摩天楼のダンジョンは50階までしか攻略されていないため、クインレパードとキングレパードの情報がないのかも?
茜が倒した魔物の換金は、しない方が良さそうだ。
51階以降の魔物ばかりだからね。
冒険者カードを渡され血液を登録すると、その場にいたアーサー?号が茜へヒールを掛けていた。
従魔達が主人である茜を大切に思っているのが良く分かる。
冒険者登録の銀貨1枚(1万円)と従魔登録の金貨7枚(7百万円)をランドルさんへ支払い、お礼を伝え冒険者ギルドを後にした。
予定よりかなり早く終了したので、茜にどこか行きたい所はないか聞いてみる。
するとカルドサリ王国を上から見たいと言われた。
それならと人がいない場所へ移転し、飛翔魔法が使えるダイアンに2人乗りして空高く飛び立つ。
いつも兄達がいるので、私はそこまで高く飛んだ事がない。
茜が私達の周囲にウィンドウォールを展開し、風を防いでくれた。
中々便利な魔法のようだから、私も覚えたいなぁ。
下を見ると、いつもマッピングで俯瞰している景色が視界に広がる。
茜に私が知っている地理を教えてあげた。
と言っても、いった事のある町や都市は少ないんだけど……。
王都、迷宮都市、摩天楼都市、ハンフリー公爵領。
指を差して、それぞれの方角を伝える。
「姉さんを狙う王がいる、アシュカナ帝国は何処?」
「カルドサリ王国がある大陸とは別の南大陸にあるそうよ。私も別大陸へは行った事がないから、何処にあるかは知らないの」
「へぇ、別大陸があるんだ。姉さんの容姿は、この国でも目立ちそうだよね。他国の血を引いているのかな? 深窓の姫君みたいに見えるよ。誘拐はされなかった?」
「だっ、大丈夫よ! お兄ちゃんが守ってくれるし! これでも私、迷宮都市では一番の稼ぎを誇るパーティーリーダーなんだからね!」
「まぁ兄貴がいたなら心配ないか。旭も少しは役に立つだろうし……」
と少々、旭には失礼な事を言っている。
王都で誘拐された件は内緒にしておこう。
犯人は相応の罰を受けてる筈だしね。
30分程、空の旅を楽しみ地上へ降りた。
シルバーが心配しずっと後を追いかけてきていたから、私は安心させるように体を何度も撫でてあげたのだった。
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