沙良のLv上げに関し、賢也から了解を得たので俺の話を切り出す。
「Lv上げの件は以上だ。次は石化治療の話を聞きたい」
「沙良が全身を石化された状態の人間を6人発見したら、ダンクさんのご両親のパーティーだったんだ。部分的な石化の治療は経験があったから、多分大丈夫だろうと思い駄目元で治療したら息を吹き返したのが経緯だ。石化状態で20年経っていたが、状態が悪くなかったのも運が良かったんだと思う」
「厄介だな……」
賢也から話を聞き、小さく呟いた。
この件は、絶対に教会へ知られる訳にはいかない。
俺の悪い予想が当たったか……。
もしやと思っていたが、全身石化状態の人間を生き返らせるのは非常に拙い。
それは教会の枢機卿クラスが扱う、ハイヒールの魔法と同等の効果だ。
治療には、かなり高額な対価が必要になるだろう。
「その事を知っている人間は、どれくらいいるんだ?」
「ダンクさん達の両親のパーティーには内緒にしてもらう約束をしているから、知っているのは7人だけど……。石化状態で見付かった時にいた、アマンダさんのパーティーは分かっていると思う」
賢也に代わり、沙良が答える。
クランリーダーを務める彼女のパーティーなら大丈夫だろう。
見た感じ、彼女は迷宮都市があるリザルト公爵の血縁だ。
俺の知っている公爵の奥方に似た所がある。
『バーベキュー』をした時、火魔法を使用していたから貴族出身に間違いない。
上位貴族の娘が何故、冒険者をしているんだろう?
「そうか……。分かっているとは思うが、教会には気を付けるんだ。大きな組織だからな」
「宗教絡みがヤバイのは知っている。気を付けるよ」
慎重な賢也に不安はない。
問題は尚人君の方だ。
何も言わず隣で頷いているが、大丈夫だろうか?
樹が召喚されるまでは俺が保護者の立場になる。
あぁ、何事も起こってくれるなよ。
「あと最後に報告なんだけど……。私をアシュカナ帝国の王が9番目の妻にしたいらしく、狙われているみたい?」
Lv上げの誤魔化しが上手くいった沙良が、突然爆弾を落とした。
それは、まだ相手が決まっていない案件なのに!
「……なんだと? 沙良、それをお前はいつ知ったんだ」
当然、話を聞いた賢也の表情ががらりと変わり、低い声で娘を問い詰める。
「……土曜日です」
沙良の声が、か細く小さなものに変化した。
「何故、すぐに言わない!」
あぁこれは賢也が、かなり怒っているな。
「ええっと、知らない人に見張られているとシルバーが気付いて分かったの。ちょうど『ポチ』と『タマ』が飛んできて、ガーグ老と息子さんが助けてくれたんだよ。理由を聞き出してもらったら、そんな理由だったみたい」
「誰が状況を説明しろと言った。2日報告が遅れた件を聞いているんだぞ!」
「ごめんなさい。攻略開始の準備に忙しくて忘れました。お父さんは知ってるから……」
そこで俺の名前を出すのか沙良よ。
「父さん。重要な報告は俺にもしてくれ。アシュカナ帝国の王に狙われているなんて、大問題じゃないか!」
「すっ、すまん。沙良は移転で逃げられるし、誘拐するのは無理だろう。ガーグ老に通信の魔道具を貰ったから、いつでも連絡が取れるしな」
おっと賢也の怒りが飛び火し、俺にお鉢が回ってきた。
「沙良と一緒に行動するんじゃ意味がない。通信の魔道具は俺が持つ。もしかしてダンジョンに呪具を設置したのも、お前が理由なのか?」
Lv上げを一緒にするから、通信の魔道具を賢也へ渡す事になってしまった。
もうひとつ、ガーグ老に繋がる魔道具があって良かったな。
「それは違うみたいだよ。多分、戦力を確かめるためだと思うけど……」
「いずれにせよ、お前は暫く独りで異世界にいくな」
「……はい」
「あ~、賢也。そっちの心配は多分問題ない。沙良は、かげ……形だけ結婚している事にすればいい。既婚者は幾ら何でも娶ろうとはしまい」
良い機会だから偽装結婚の話を進めよう。
「えっ!? 私、誰かと結婚するの?」
「形だけな」
驚く娘に、俺は安心させるよう偽装だと強調しておく。
それを聞いた尚人君が、勢いよく片手を挙げた。
どうやら娘を諦めていないようだ。
相手役に立候補している心算なんだろう。
「いや尚人君は、うちの賢也と結婚しているから駄目だ。偽装結婚がバレる」
俺は即座に却下した。
悪いが尚人君は賢也と一生を共に過ごしてくれ。
【エルフの秘伝薬】で子供は出来るから大丈夫だ!
「う~ん、じゃあ雫ちゃんと結婚する」
続いて沙良が言った相手に焦る。
それも問題大ありだ!
「そっ、それはどうだろう? 相手は、もう少し考えなさい」
「異世界では同性結婚も出来るんだよ? 旭のお母さんは、結婚しているから無理でしょ?」
「出来れば男性の方がいい。探しておくから心配するな」
妹の結婚話を聞き、賢也が不機嫌になっていく。
「……結婚してなければ、俺が相手になれたんだが……」
ぽつりと漏らした息子の言葉に耳を疑った。
過保護もここに極まれり。
「流石に、お兄ちゃんと結婚は遠慮したいです……」
娘も嫌だったのか速攻で断る。
「出来ないのは分かってる。父さん、勘違いするような相手は止めてくれ。アシュカナ帝国の王がなりふり構わずという可能性もあるから、ある程度自分の身を守れる人物が望ましい。当てはあるのか?」
「あぁ、問題ない」
それに関しては既に手を打ってある。
最強の人物が夫役になる筈だから、狙ってきた相手は全て返り討ちにするだろう。
「結婚しているのを、相手へ伝わるようにしないといけないよね? 明日、アマンダさんに相談してみるよ」
偽装結婚に忌避感はないのか、沙良は先を考えているようだ。
これで、アシュカナ帝国の王対策は問題なさそうだな。
「2人共、テントに送るよ。もう準備はいい?」
話が終わった後、沙良が賢也と尚人君をテントに送ると言う。
折角ホーム内の自宅で眠れるのに、どうしてテントへ?
「沙良、賢也達を何処に送るんだ?」
「安全地帯のテントだよ。いつもお兄ちゃんはフォレストと、旭はシルバーと一緒に寝てるの。従魔の傍にいてテイム魔法を習得したいみたい。そんな方法で覚えられるのか分からないけどね~」
それを聞いて俺は少し考え込む。
マジックテントを幾つも設置していたのは、賢也と尚人君が従魔と一緒に寝るためだったのか……。
テイム魔法は是非とも習得したい。
沙良がテイムした迷宮タイガーは俺のお気に入りで、密かに権限を移譲してくれないかと思っていた。
そんな事が出来るとは言えないから、黙ったままでいるが……。
「じゃあ、俺も泰雅と一緒に寝てみよう」
「駄目! フォレストはお兄ちゃんに取られたから、泰雅とは私が一緒に寝る心算なの!」
「お前はもうテイム魔法を習得しているじゃないか。ここは親に譲りなさい」
沙良の思わぬ反撃に遭い、俺は親の権力を振りかざす。
「父さん。何も言わず家に帰らなかったら、母さんが心配する。異世界にきてまだ1週間だ。不安にさせるような事はしない方がいい」
大人気ない俺の態度を、息子に窘められてしまった。
「……そうだな。もう少し、この世界に慣れてからの方がいいか」
それ以上、強情を張るのは止め素直に従っておく。
でもいつか俺も泰雅と一緒に寝て、テイム魔法を絶対習得しようと心に誓った。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!