麒麟が王宮へ氷の塊を落とし始めて3分後、結界は耐えきれず消滅した。
阻むものがなくなり、そのまま地面に落下する。
地上では突然奇襲を掛けられ、対応に追われる帝国人の姿が見えた。
上空から降り注ぐ氷の塊は、かなりの衝撃を伴い王宮内の建物を直撃し穴を開ける。
運悪く当たった者は命がないだろう。
敵襲に気付いた騎士達が迎え撃つ態勢を整える前に、ケスラーの民達が次々と降下し地面へ降り立つ。
相手がまだ混乱の最中、ケスラーの民達は剣を片手に切り込んでいく。
激しい剣戟の音が響き渡り、帝国人は3合と持たず倒れ伏す。
流石、戦闘民族!
その技量は帝国人を遥かに凌いでいた。
これなら簡単に王宮を制圧出来そうだ。
後は結界が解けたと同時に潜入した影衆達から、人質発見の報告を待てばいい。
そう思っていたところ、王宮の外から数百の帝国人がなだれ込んできた。
まぁ、これだけ派手に動けば援軍も駆け付けるよな。
傍観している間に、どんどん人数が増える。
そろそろ手を出そうか迷っていると、セイが大槍を掲げ呪文を唱えた。
「ホーリーランス!」
その瞬間、大槍から光の槍が数百に枝分かれし帝国兵に突き刺さる。
俺は初めて見る魔法に度肝を抜かれた。
ホーリーって確か、HPを回復したり浄化をする魔法だよな?
「セイ。その魔法は、どんな効果があるの?」
「HPを0にして息の根を止めます」
うわ~、一瞬で容赦なく命を奪う魔法か……。
生き物はHPが0になれば死亡するから、魔法攻撃でダメージを与えるより確実だ。
外傷も付かず血が流れない点では、遺体回収時に役立つかも?
駆け付けた数百の援軍が命を刈り取られる様を見て、漸く勝ち目がないと悟った帝国人が後退を始める。
行き先は王のいる場所だろう。
逃げ出さず、最後まで王を守ろうとする騎士達の後を追い王宮に入った途端、周囲が闇に包まれた。
これは……、闇の精霊の仕業か!?
暗闇で襲われるのは不利になる。
急いで習得したばかりのライトボールを発動し、辺りを照らす。
案の定、闇に紛れ行動を起こそうとしていた帝国人の姿が何人も見付かった。
すかさず近くにいたケスラーの民が排除する。
ただ俺のライトボールのLvが低く、全体を見渡せない。
響も使用したが、MP値が低く効果は薄いようだ。
光の精霊の加護があれば、守護精霊を呼び出せたんだが……。
仕方ない、火の精霊を召喚するか。
俺は守護を与えてくれたサラマンダーの名前を呼ぶ。
「タロー!」
叫んだ瞬間、可愛らしい火蜥蜴が出現した。
『姫様~! 久し振り~! なになに、俺の出番?』
『闇の精霊が周囲を覆ってるの。暗くて見えないから、ちょっと火を吐いてくれない?』
『はぁ~。姫様は馬鹿なの? そこに赤竜の御方と、イフリートの守護した民がいるじゃん!』
あっ……、そうだった。
「あ~、忘れてたわ。セキ、人の姿でもブレスを吐ける?」
「婆ちゃん、そりゃ無理だ。灯りが欲しいなら、セイに頼んだ方が早いぞ?」
聖竜の能力は分からないけどセキが言うなら、そういった魔法も使えるんだろう。
「セイお願い」
「了解しました、ヒルダ様。ライトニング」
また知らない魔法名だ。
ライトボールとは違い、こちらは広範囲を照らし出せる魔法らしい。
頭上を光の帯が走り抜けた後、煌々と光り続けている。
召喚したタローが拗ねてしまった。
『姫様~。呼び出す時は、もうちょっと考えて!』
『大丈夫よ。これからまだ活躍の場があるわ』
『赤竜の御方がいるのに?』
ジト目で見られ、つい視線を外す。
『え~っと、多分?』
『実家に帰らせて頂きます!』
喧嘩した嫁のような台詞を残し、タローは姿を消した。
おうっ、次回呼び出す時は慎重にしよう。
それまで黙ったままの響から、何があったか聞かれる。
俺が呼び出したサラマンダーの姿は見えないし、会話の内容も言葉が分からないから気になるよな。
火の精霊の加護を受けたケスラーの民達には遣り取りが分かっている。
少し間抜けな俺の行動は、スルーしてくれたみたいだ。
「私の守護精霊のサラマンダーを呼び出して、挨拶しただけよ」
「守護精霊なんているのか?」
「エルフは精霊信仰してるの。気に入ったら、精霊達は加護を与えてくれるのよ」
人間だった響には、伝えた事がなかったな。
別に隠していた訳じゃないが、一応エルフの秘密に当たるので軽々しく口に出来ない。
結婚していた時は話す機会がなかっただけだ。
取り敢えず、先が見通せる程に明るくなったから王がいる場所まで進もう。
「ガーグ老。まだ連絡はありませんか?」
唯一の懸念事項を確認すると、
「うむ、まだ発見の報告はないの。この場所と同じような闇になっておるなら、時間が掛かりそうだわ」
夜間行動も訓練している影衆達だが、昼間と同様に動くのは難しい。
人質の無事を願うばかりだ。
先に進み、立ち塞がる敵を倒しながら王の間へ辿り着く。
重厚な扉を開けると、室内では何故か帝国人が折り重なり既に死亡していた。
王の姿を探し玉座に座る人物を見て、顎が外れそうになる。
「お母様!?」
そこにいたのは、嫣然と微笑むエルフの王妃だった。
周囲には女性騎士達の姿もある。
ってか、俺の近衛達じゃん!
アシュカナ帝国の王は何処にいるんだ?
「まぁまぁ、ヒルダ遅かったのね~。待ちくたびれたわ。近くにきて、よく顔を見せて頂戴」
「姫様!? 本当に生きていらしたのですね!」
王を倒そうと意気込んでいたケスラーの民達が唖然とする中、玉座から降りた王妃が近付き俺を抱き締める。
行方不明だった王妃は、アシュカナ帝国にいたのか……。
「あの……、お母様? これは一体どのような事態なんでしょう?」
「久し振りの再会に水を差すなんて無粋な子ね。もっと嬉しそうにしてくれてもいいじゃない」
母親からしてみれば、亡くなった娘の生存を聞かされてはいたが300年振りの再会に感動する場面だろう。
だが俺は、感動の再会どころじゃない。
女性騎士達は泣き出すし、肝心な王の姿が見当たらないのだ。
「王なら逃げたわよ。探せば、まだ王宮内にいるかも知れないわ。ガーグ老!」
「王妃様、ここに」
隠形していたガーグ老が姿を現し膝を突く。
「王の首を取ってきて」
「はっ、承知しました!」
あっ、それは拙い。
王からは聞き出したい事がある。
「爺、生け捕りにしてね」
俺の言葉に軽く頷いた後、ガーグ老は再び姿を消した。
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