王女様の傍に居る御二方が浄化されたリッチのマントを、1枚金貨11枚(1千1百万円)で200枚買い取る事に致しました。
リッチのマントは教会の枢機卿が浄化を施すので、市場には滅多に出回らない商品でございます。
枢機卿は大きな都市にある教会にしか居ませんので、カルドサリ王国では5人程だと聞いた覚えがあります。
浄化を行うのは教会の専売特許。
それを一般の冒険者が数を熟したとなると、教会が黙ってはいないでしょう。
仕入れ先は絶対に知られてはなりません。
高名な治癒術師の御二方に、ご迷惑が掛かってしまいます。
後程、魔道具で浄化の判定をした者達にきつく言い聞かせておく必要があるでしょう。
マントの品質としては最高級の生地で、1枚1枚色が違うため需要もかなりあるのです。
呪いの品でなければ、常設依頼で冒険者が換金するでしょうが……。
ただ200枚となると、商業ギルドの販売網を駆使しても容易に捌ける量ではないですね。
王女様から、またリッチのマントを買い取りしてほしいとお願いされましたが、ご期待に沿えず申し訳ないばかりです。
今回買取した200枚は、早急に私の伝手を総動員して売り切ってみせましょう!
他国に居る諜報員とも連絡を取らなくてはいけません。
連絡を取る方法として宿泊先を尋ねましたが、やはり迷宮都市には住んでおられないようでした。
移転の魔法が使えるのならば、拠点にしている家は別の場所にあるのでしょう。
もしかすると、王宮深くにあると言われる精霊殿にお住まいなのかも知れません。
その後、王女様から家を購入したいと申し出がございました。
なんと、迷宮都市に拠点を移されるのでしょうか?
金額は幾ら掛かっても良いとの事でしたが、子供達160人を収容出来る庭がある物件は現在商業ギルドにはありません。
新築でも問題ないと言われてほっと致しましたが、王女様のお住まいです。
これは気合を入れて探さなくてはいけませんね。
とにかく敷地面積が広い土地を確保しなければ……。
場合に依っては、立ち退き料を払ってでも更地にする必要がございます。
次回お見えになるのは1ヶ月後と仰っていましたので、それまでになんとかお眼鏡に適う場所の確保が急務になりました。
これから1ヶ月間はマントの販売と、場所の選定で忙しくなりそうでございます。
それから3週間後。
予定より1週間早いですが、再び王女様がお見えになりました。
場所の選定は済んでおりましたので、商業ギルド所有の地図ではなくエルフの諜報員が調べた詳細な地図をお出ししてご覧頂く事にします。
すると王女様は、視線を空に数分間止めた後で場所をお選びになったのでございます。
移転系の魔法を使用して、上空から周囲を確認していたのでしょう。
王女様のお選びになったA地区は治安も良く、冒険者活動で親しくされているリーダーやガーグ老が住んでいる場所でもあります。
この地区なら問題ありません。
事前に立ち退き料を払い、魔法士に更地にしてもらった甲斐がございましたね。
契約の前に、狩ったトレントを家の資材として使用してほしいとお願いされました。
トレントは高級資材ですから、その品質は厳格に定められております。
家に使用するとなると、一番傷の少ないA級品でなくてはなりません。
王女様のお住まいに使われる物ですので、たとえご本人が狩られてきた物であっても全てを良いとは言えないのです。
私では鑑定が出来ませんので、申し訳ありませんが資材倉庫に足を運んで頂きました。
倉庫に到着して直ぐに資材担当の者に声を掛け鑑定を依頼すると、有名人である王女様に気付き、あろうことか『サラちゃん』と親し気に呼ぶではありませんか!
この男、殺してやろうかとつい袖に仕込んだ毒針を出そうとしてしまいましたよ!
いやいや、王女様は冒険者として活動をしていらっしゃるのでした。
私がどうこうする事ではありませんね。
ただ一瞬、空気が揺れたのは気の所為でしょうか?
影衆の皆様、少々殺気のようなものが漏れておりますよ?
まぁ大切にお守りしている王女様の事を『サラちゃん』等と、連呼されれば私も良い気分は致しませんので気持ちはとても理解出来ます。
鑑定をしている男から、トレントに傷がひとつも付いていないと言われ慌てました。
王女様の能力を知られてはならずと、私はオーバーに魔法士の有能さをアピールしたのでございます。
一体、どのような方法でトレントを倒されたのでしょう……。
鑑定結果はA級品であるとお墨付きを貰えたので、家の資材として使用する事が出来ます。
どれくらいあるのかお尋ねしますと、100本と言われ驚きました。
更には毎週、同じ量を狩ってこられるそうです。
A級品のトレント資材は、商業ギルドでも確保は難しい物。
沢山あるのならば、私の方で買い取りさせて頂きます。
王女様は、どうやら移転魔法だけではなくアイテムBOXの能力も持っておられるようですね。
これは益々、厳重にお守りしなければいけない御方でございます。
数百年に一度、先祖返りのように生まれる秘匿された王族。
本来なら王宮深くの精霊殿にて、影衆当主率いる50人の『万象』に厳重に守られる筈。
此度は何故か、人族の国で冒険者をされていますけれど……。
どのような理由からか、私では知る機会もないでしょう。
部屋に戻り契約を進めましたが、なんとまぁ奇抜な家を建てられるのでしょうか。
1階は1部屋で、トイレを外に10個設置してほしいそうでございます。
そんな間取りは聞いた事がありません。
土地と建物の契約を無事に済ませた後で、王女様から椅子を作りたいのでトレントの加工が出来る職人を紹介してほしいと言われました。
ご自分で椅子をお作りになりたいとは……。
王族の方が趣味にするには、些か品がございませんけれど……。
でもこれは、考え様によっては絶好の機会です。
ガーグ老は、直接王女様と話したいに違いありません。
私はガーグ老宛ての紹介状を書き、王女様にお渡し致しました。
あぁ、ついに御子とお会いするチャンスに恵まれましたよ!
ガーグ老、どうか王女様と楽しい一時をお過ごし下さい。
私は王女様がガーグ老に会いに行かれる事を知らせるため、『タマ』の脚に括り付けられた丸筒へ小さな羊皮紙を入れ飛ばします。
くれぐれも泣き出したりしないで王女様を驚かせる事のないよう、私は祈ったのでございました。
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