そんな時、樹おじさんがテントに入ってくる。
「響、攻略もせず何してるんだ?」
両肩に止まっているポチとタマから聞いたのか、父を探しに来たらしい。
そして父が持っている指輪に目を留めた。
「美佐子さんへのプレゼントか?」
「いや、沙良が巫女を助けたお礼にアマンダ嬢から貰った物だ」
「へぇ~、娘に指輪を渡したのか……。ちょっと貸してくれ」
そう言って、ひょいっと父から指輪を取り上げ、樹おじさんは躊躇いもせず指輪を右手の小指に嵌める。
アマンダさんが私の指に合うと言っていたのは、サイズが自動に調整される魔道具になっていたからのようだ。
「「「あっ!」」」
突然の行動に私達が呆気に取られている間、おじさんは一度嵌めた指輪を外そうとしている。
中々抜けないのか、かなり力を込めて指輪を引っ張っているみたい。
「……指輪が外れない」
困った表情で私達を見る樹おじさんに父が大きく溜息を吐き、がっくりと肩を落とした。
「お前は、どうしてそんなに考えなしなんだ! その指輪は魔道具で、一度嵌めたら外れないようになってるんだぞ!」
えっ! 初耳なんですけど!? そんな効果があるなんて知らなかった。
父が指輪を嵌めるなと言っていた理由は、これだったのか……。
「まじか!?」
「それに、その指輪は……。あぁ、全く厄介な。指輪を外せるのは加護を授けた青龍だけだ」
おっと、指輪には青龍の加護もあったらしい。
もしかして素材は鱗なのかも?
「えっと、じゃあ青龍に会うまで指輪は、ずっとこのまま?」
「そう言っただろ」
「それは困る! 今から青龍の所に行こう!」
今頃、事態の深刻さに気付いた樹おじさんが焦って父の両手を掴む。
「エンハルト王国へ、どうやって行く心算なんだ」
前回はアマンダさんの同行で王宮にある移転陣を利用したけど、本来王族しか使用出来ない。
マッピングの移動距離が増えたから、カマラさんに貰った詳細な地図を見れば、同じ大陸内だし行けない事もないだろう。
ただ、ダンジョン攻略中なので今直ぐには無理だ。
父に方法を聞かれ固まっている樹おじさんの肩を叩き、土曜日なら連れて行けると伝えたら、ほっとしたのかテーブルの上にあった飴を口に入れる。
「樹、それは俺の飴だ! 吐き出せ!」
父が飴ひとつに大人げない事を言う。
「もう口に入れたから無理!」
樹おじさんはニヤリと笑い、盗られないよう口を手で塞いだ。
もし樹おじさんが飴を吐き出したら、抵抗なく舐められるの?
そんなに飴が欲しかったのか……。
「お父さん、こっちをあげるよ」
見ていられず、飴にした他のポーション瓶を渡すと速攻で腕輪に収納していた。
仲が良いのか悪いのか、そんな2人の遣り取りに茜は呆れているようだ。
指輪の件は、土曜日に解決すればいいだろう。
それから樹おじさんと父はテントから出て攻略に行った。
やれやれ、ひと騒動したあとは静かにポーションを飴にする作業を進めて2回の攻略を終える。
ホームへ帰る途中、樹おじさんの指に嵌った指輪を見て雫ちゃんのお母さんが追及していた。
おじさんは奥さんへプレゼントする予定だった指輪を試しにつけたら、外れなくなったと言い訳していたけど、青龍に外してもらったら指輪をどうするのか……。
隣で聞いていた父が、樹おじさんを小突いている。
これは、何か別の指輪を本当に用意しないと駄目だろうな。
雫ちゃんのお母さんは、もの凄く嬉しそうだった。
その後、3日間の攻略を済ませ冒険者ギルドで換金する。
指輪を渡されてから、アマンダさんの視線が手に集中していたような……。
樹おじさんが一緒にいなくて良かったかも?
実家へシーリーを迎えに行き、シュウゲンさんのマントを口に咥えたまま眠っている子竜を起こさないよう抱き上げ自宅へ戻る。
兄達と夕食を食べて、シーリーに魔力を与えたら就寝。
土曜日。
兄と奏屋で果物を卸したら、旭とお母さんを連れ薬師ギルドへ向かう。
兄達がポーションに浄化とヒールを掛けている間、受付嬢からポーション類を大量に購入する。
応接室へ入るとゼリアさんが兄達に、お金を渡しているところだった。
相変わらず雫ちゃんのお母さんに対し敬うような態度を見せる。
彼女は毎回手渡される金貨の重みで、ゼリアさんの事は気にならないのか笑顔だ。
私もハニー達が採取した薬草を換金してもらい、薬師ギルドを出た。
3人をホームへ送り、父、樹おじさん、茜、セイさんと異世界の家に移転する。
ベヒモスを探しに他のダンジョンを攻略する予定だったけど、まずは樹おじさんの指輪を外すためエンハルト王国へ行こう。
父に地図を渡し、方角を指示してもらう。
マッピングの移動距離が増えてから、一度に長距離を移動するのは初めてだ。
地図を見ただけじゃ距離は分からないので、移動後どこにいるのか調べる必要がある。
父が示した方向へ、マッピングを使用しながら人がいない場所に移転して調査開始。
町へ入って直ぐ茜が若い女性に声を掛けたので、私達は動かず結果を待つだけでいい。
それほど時間は掛からず、茜が戻ってきた。
「姉さん。パラメイア王国みたいだ」
茜の言葉を聞いた父が地図と照らし合せて、次の方角を指し示す。
そんな遣り取りを何度か続け、エンハルト王国に無事到着した。
前回は直接王宮内に入ったから、エンハルト王国がどんな国かよく知らない。
時間があれば、ゆっくり観光したいけど午後から予定があるので直接青龍の下に行こう。
マッピング能力があれば結界も関係ないしね。
そう思い青龍の姿を確認して移転する。
唐突に現れた私達に気付き、青龍が大きな目を瞬かせ驚いた様子を見せた。
『小さな巫女姫、急なお越しでどうなさいました』
頭の中に青龍が念話で言葉を伝えてくる。
それには、樹おじさんが頭を下げてから用件を伝えた。
「突然、訪問して申し訳ありません。実は、この指輪を外してほしいのです」
おじさんが指に嵌ったままの指輪を青龍に見せる。
『おやおや、何故その指輪をしているのですか?』
「この国の第二王子から娘が受け取った物を、興味本位で私がつけてしまいました」
『それは、何とも……間抜けな』
念話でも分かるくらい微妙な声が返ってきたと思ったら、青龍の体が光り人の姿に変わった。
「その指輪は王族の伴侶である証も兼ねていますから、そのままだと拙いでしょう」
青龍は苦笑しながら樹おじさんの傍に行き、指輪をするりと外してくれる。
一度嵌めたら外せない指輪には青龍の加護の他に、そんな意味もあったのか……。
何も知らず嵌めたら、とんでもない事になっていたよ!
アマンダさんは意外と侮れない人物のようだ。
「あぁ、助かりました。ありがとうございます!!」
樹おじさんは心底、嬉しそうな笑顔でお礼を言う。
指輪が外れたのは良かったけれど奥さんに渡すと言った手前、似たような指輪が必要だよね。
そんな事を考えていると、父が青龍に向かい深く一礼し自己紹介を始める。
「初めまして竜族の御方。私は、この子の父親です。娘に親切にして下さり、感謝しています」
あぁ、父が青龍に会うのは初めてだったと忘れていたわ。
青龍の姿を見た割に動揺した感じもしないけど……。
ガーグ老に、体長50mもある大きな姿だと聞いていたからかしら?
人間の姿に変わるのも知っていたのかなぁ。
「小さな巫女姫の父上でしたか。挨拶が遅れて申し訳ありません。私はエンハルト王国を守護する青龍です。お会い出来、光栄です」
私を小さな巫女と呼ぶ青龍は、父に対しても丁寧な言葉を使用する。
2人が握手を交わす姿をぼんやり眺めつつ指輪の話を、どう切り出そうか迷っていた。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!