日曜日。
朝7時に全員でホームから異世界の家に移転する。
魔物を初めて見る事になる両親を怖がらせないようにと、私の従魔を見せていなかったけど母のテイムも無事済んだので、皆にシルバーとフォレストを紹介した。
ゴールデンウルフのシルバーと迷宮タイガーのフォレストを見た雫ちゃんが、目をキラキラさせている。
旭のお母さんにも今日魅了を習得後テイムしてもらう心算だと話すと、2人は早速何の魔物にするか相談しているようだ。
その際、母もシルバーウルフのボブを皆に紹介する。
名前を聞き、旭のお母さんが「何故ボブ……」と絶句している様子に笑ってしまう。
旭のお母さんは、自分のテイムした魔物にもう少し真面な名前を付けてくれるだろう。
父がシルバーを見て、母のテイムしたボブと毛色が違っている事に気付いた。
「沙良、お前のテイムしたシルバーウルフは黄金色をしているようだが……。特殊個体なのか?」
特殊個体!?
そんな魔物がいるんだろうか?
「違うよ。シルバーには、お願いしてゴールデンウルフに進化してもらったの! うちの子は凄く優秀なんだよ~」
「テイムした魔物が、ゴールデンウルフに進化しただと!?」
私に褒められ嬉しそうに尻尾をブンブン振っているシルバーを見て、父が絶叫する。
そしてシルバーをじっと見つめながら、
「テイム魔法に、そんな事が可能なのか……?」
ぽつりと零し、考え込んでしまったようだ。
まだ紹介していないハニーが、ハニービーからクインビーに進化中の事はもう少し後で話そう。
魔物が雄から雌に進化する事を知ったら、また絶叫しそうだよ……。
新居に『肉うどん店』の母親達がやってくると、追加メンバーの両親と旭の妹2人を紹介する。
母親達は、私が店の従業員にしてくれた事を本当に感謝していますと両親に頭を下げていた。
それを聞いた両親は、これからもよろしくお願いしますと言って挨拶を交わす。
雫ちゃんは『肉うどん店』の経営者が私だと知り、以前迷宮都市で『肉うどん』を食べた時に気付けば良かったと嘆いていた。
うん確かに、サリナの事は徹底的に避けてたからなぁ~。
雫ちゃんの方からアクションがなければ、私達は気付かなかっただろう。
8時30分。
大勢の子供達が集まる姿を見て、父の表情が変化する。
人数を聞かれたから、約150人程だと伝えると更に険しい表情に変わった。
国の福祉が機能していない異世界について、何か思う所があるんだろう。
こればかりは、個人で何とか出来る問題じゃないので国が動かないと無理だ。
そういえば、王領である王都には路上生活している人が1人もいなかった事を思い出す。
あの場所は王族がちゃんと支援をしているみたいだった。
福祉に関しては、領主の管轄なのかも知れないな。
「沙良、今はカルドサリ王国暦何年なんだ?」
「確かカーランド王朝863年だったと思うよ」
「300年か……」
うん?
父は若返ったのに耳が遠いのかしら?
863年だと言ったのに、最後の3しか合ってないよ!
私が訂正しようとした所、子供達がもう1匹増えたシルバーウルフを見て色が違うね~と集まってきた。
シルバーはゴールデンウルフだからね。
子供達にも両親と旭の妹2人を紹介すると、全員が頭を下げてきちんと挨拶をする。
皆、良い子に育っている事が嬉しい。
礼儀作法を教えた訳じゃないけど、感謝の言葉を口に出来るのは環境がそうさせたのだろう。
人は当たり前だと思っている事に関して、感謝の念を抱く事は難しい。
家がある事や毎日3食食べられる環境で育てば、それが普通だと感じるからだ。
路上生活をしていた子供達にとっては、それは当たり前の事ではなかった。
この子達は大変な苦労をしてきた分、自然に感謝の気持ちを伝える事が出来る大人になるだろう。
その後、母から従魔の名前が『ボブ』だと聞き不思議そうな顔をしていた。
まぁ異世界の子供達には、『ボブ』と言われても分からないかもね。
子供達に『ボブ?』と何度も言われたシルバーウルフは、ちょっとしょんぼりして見える。
母が付けた名前は、気に入ってないんだろうなぁ。
一度名付けた名前を変更する事は出来ないんだろうか?
子供達にスープとパンを配り、アプリコット入りの巾着を交換し最後に兄がみかんを渡して見送った後、7人でガーグ老の家具工房へ向かう。
工房の門を開くとガーグ老と職人さん、5人の息子達に初見のお嫁さん? 2人の姿があった。
四男のフランクさんと五男のジルさんの隣にいるのが、多分お嫁さんだと思うんだけど……。
見た目が更に老けてるし、どう見ても……男性のような?
ガーグ老の方を見ると、なんだか精彩を欠いているような気がする。
紹介されたお嫁さんが予想外すぎ、ショックを受けてしまったのかも知れない。
「こんにちは。今日から私の両親と旭の妹2人も、よろしくお願いします」
「サラ……ちゃん、ようきたな。儂もご両親殿にお会いしたかった。ガーグと呼んで下され」
父がガーグ老を見た瞬間、体をのけ反らせて「……家具職人は無理があるだろう」と小さく呟いた。
体格の良いご老人達を見て、そう思うのも仕方ない。
でも、迷宮都市では家具職人として有名なんだよ?
私の家にある立派な家具も、製作してくれたしね。
両親が挨拶をしようと前に出た際、2匹の白梟が上空から凄い勢いで飛んできた。
そして父の両肩に止まり、頬に顔を寄せて「ホーホー」と鳴く。
父は突然肩に2匹が止まっても驚いた様子を見せず、
「ぽ……っちゃりとした可愛い白梟だな」
と妙な感想を漏らした。
2匹の従魔が父に懐く姿を見たガーグ老が一瞬目を瞠り、部下に声を掛ける。
「姫様の剣を持って参れ!」
「はっ!」
ガーグ老の指示に、いつも料理の配膳を手伝ってくれる人が工房へと駆け出していく。
あの……、まだ全員の自己紹介が済んでませんが?
何故かこれから、父との手合わせが始まりそうだった。
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