全員揃った所でまずは、アマンダさんパーティーの『うさぎと亀』の上演開始。
亀役はアマンダさん他4人。
うさぎ役はケンさんだ。
教会の庭の隅に着替え用のテントを2つ設置したので、男女に分かれて衣装に着替えてもらう。
アマンダさんは最後まで亀の着ぐるみパジャマを着る事を渋っていたけど、主人公の衣装なのでと言って強引に着せた。
うっ、似合わない!
笑いそうになるのを必死で堪え、本日のサプライズであるタートル4匹を見えないように設置した。
タートルの後ろには、亀役の4人がスタンバイしている。
今回披露するのは、私達がよく知っている内容のものではない方の『うさぎと亀』だ。
亀の着ぐるみパジャマを着たアマンダさんが出ていくと、普段のギャップからか冒険者全員が呆気に取られて見ている。
アマンダさんは開き直ったのか、堂々とした態度でうさぎ役のケンさんに明日かけっこの勝負をしようと持ち掛ける。
但しうさぎが走る道ではなく、その隣の藪の中を走ると言う。
うさぎは足の遅い亀に負ける訳はないと勝負を受けた。
翌日。
スタート地点では亀が待っている。
その亀に今回は、本物の魔物である体長3mのタートルを設置したので子供達は大興奮だ。
実はこの亀は勝負を持ちかけた亀ではなく、亀の家族だった。
勝負を持ちかけた亀役のアマンダさんは既にゴール地点に居て待機している。
うさぎに勝つために、家族にお願いして要所要所に隠れてもらっているのだ。
そして、うさぎに声を掛けられたら返事をしておくように指示を出す。
見分けがつかないうさぎは、スタート地点にいる亀が昨日勝負を持ちかけてきた亀だと思っていた。
スタートと同時にうさぎが走りだす。
亀は藪の中を走る設定なので、マジックバッグにしまってもらった。
暫く走ると、うさぎが亀に声をかける。
「亀さん、どんな具合だ?」
「汗水垂らして走っているよ」
亀役の男性が答える。
再びうさぎは走り出し、また亀に声をかける。
「亀さん、どんな具合だ?」
「汗水垂らして走っているよ」
そんな事が2度3度と続き最初は先行していると喜んでいたうさぎだったが、どれだけ走っても亀を引き離せない事にいら立つ。
そしてついにゴール!
うさぎが勝ったと思ったら、そこには既に亀役のアマンダさんが待ち構えて待っていた。
「勝負は私の勝ちだね!」
計略を用いて、うさぎを騙すという話だ。
子供達は最初から亀役が複数居る事が分かっているので、うさぎが亀に質問する度に笑っていた。
うさぎがへとへとになってゴールする場面では、腕を組んで仁王立ちしている亀に拍手が湧く。
普段足の遅さを散々馬鹿にされていた亀の、痛快な逆転劇だった。
日本では今回披露した内容の『うさぎと亀』より、うさぎがかけっこの最中油断して寝てしまいその間に亀が追い抜かしてゴールする方が有名だろう。
まさに油断大敵といった教訓が含まれている。
どちらも為になるお話だけど、子供向けには日本で有名な方が良いかも知れない。
ただ今回はアマンダさんが亀役だった事もあり、話の予想が付かなかったので最初からゴールで待機しているだけの動きが少ない方を採用させてもらった。
もし日本バージョンだったら、最初からうさぎをぶっちぎっていそうだ……。
教訓も何もあったものじゃない。
追い抜かされたケンさんがストーリーに無い展開を、どう収拾しようか涙目になっている姿が目に浮かびそう!
その後、先輩冒険者として剣術と槍術の基礎となる剣舞と槍舞をアマンダさんのパーティーメンバーが披露。
サヨさんと作成した御揃いの衣装を着て、華麗に舞う剣舞や素早い動作の槍舞にこれから冒険者になる子供達は目が釘付けだ。
流石に冒険者歴が長いB級だ。
その洗練された動作には、目を見張るものがある。
同じパーティーだけあって、息もぴったり合い動きも揃っている。
そして袖無しの衣装から出た腕に、私は視線を奪われた。
いや~眼福だわ。
今日は兄から目隠しをされる事も無いので、たっぷり堪能させて頂きます!
隣で見ていた旭は、空手の型に通じる物があるのか動きを真似している。
体術として教えてあげたらいいんじゃないかしら?
いまいち旭は冒険者から強いと思われていないみたいなので、名誉挽回にも丁度良い。
アマンダさんなんか、旭は優秀な治癒術師としてしか見てなかったし。
童顔で異世界では背が低い旭は男性冒険者に人気だ。
またテントに連れ込まれないように、強さをアピールしておいた方が良いだろう。
舞の披露が終わるとパーティーメンバーは、観客全員から拍手喝采を浴びた。
今回は原作に忠実な劇だったし、本物の亀も使用したので子供達も楽しかっただろう。
最後は、剣舞と槍舞のおまけ付きで剣術や槍術の勉強にもなった筈だ。
アマンダさんは魔法士なので演舞に参加しなかったけど、メンバー達を真剣な表情で見ていた。
その動きが生死を分ける事になるからだ。
パーティーリーダーの責任は重い。
ダンジョンから全員を帰還させる事に注意を払う必要がある。
ましてやクランリーダーで、100人以上のメンバーを抱えていれば視線が鋭くなるのも仕方ない。
さて、ついに《お好みで》の貸しを旭に返してもらう時が来たようね!
そもそも今回リリーさんと一緒に披露する事になった扇舞だって、旭の不用意な一言が原因だ。
偶には突然窮地に立たされる気分を味わってほしい。
実は旭が剣舞も出来る事を知っているので、是非皆の前で披露してもらいましょ!
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