「セイさんが扱う大槍は、普通あれほど簡単に振るえない。私じゃ相手にもならないよ」
茜はそう言い、肩を竦めてみせた。
小柄なセイさんが、あの突撃槍のような武器を軽々と扱う姿には驚いたけど……。
「セイさんが一番強いのかぁ~」
「武術に関してはね。総合的に見れば、ベヒモスを瞬殺出来る姉さんが最強じゃないか?」
あら? 能力的には私が一番なのか。
「マッピングとアイテムBOXが使えるからね!」
「従魔の数も多いし、魔物相手なら負けないと思う。厄介なのは人の方だよ。今の姿は目立ち過ぎる。帝国の王に狙われているのが、その証拠だろう? 他にも知られたら手に入れたいと思う能力を持っているし、充分気を付けた方がいい」
「お兄ちゃんにも、単独行動は控えるよう言われてるから大丈夫! 絶対、1人じゃ行動しないから」
妹が心配性を発揮しそうなので、ここは強く問題ないとアピールしておこう。
「……本当に、そうしてくれると助かる」
何故か茜は溜息を吐いて遠くを見遣る。
私は信用されてないらしい。
1人で行動しないよう注意してるんだけどなぁ。
ここは、話題を変えよう。
「早崎さんを召喚したら、冒険者になってくれるかな?」
「仕事もなくなるし、引退する年でもないから一緒のパーティーに入るだろう。あいつは武術に長けているから冒険者に向いてる」
「へぇ~、茜が言うなら心配なさそうだね」
「むしろ刑事より楽だと思うだろうな。なんせ給料が桁違いだ。年収が1日で稼げると知ったら、天職だと言い出しそうな気がするよ」
冒険者で得られる収入は、その危険に比例して高額だ。
普通に仕事をして働く何十倍もの稼ぎがある。
私の場合、ダンジョンで採れる果物や薬草だけで派遣の年収を軽く超えていた。
「明日は早崎さんのLv上げをして、冒険者登録とスキップ申請に行こう」
「あぁ、それなら月曜からダンジョン攻略が出来る。旭の家族と行動してもらおう」
魔法を使う魔物は生きたままアイテムBOXに収納してあるから、直ぐ習得可能となっている。
騎獣は茜のテイムしたキングレパードでいいだろう。
2人で明日の予定を立て、父達をガーグ老の工房へ迎えに行った。
工房へ到着するなり、父に話があると言われる。
「沙良。ガーグ老達に移転先の護衛を頼んだ。お前のアイテムBOXは、妖精から聞き知っていたらしい。発見した魔法陣は、秘密にしてもらうから心配するな」
えぇぇ~! 家具職人のガーグ老達に護衛を依頼したの!?
王族を護衛していた近衛騎士だし、今でも充分現役で通じるけど……。
それにアイテムBOXの能力を知られていたのか。
以前、妖精さん達が簀巻きにした犯人を収納しちゃったからなぁ。
会話の出来る妖精さんが、庭の主であるガーグ老に話したんだろう。
それでも知らない振りをしてくれていたなら安心出来る。
魔法陣の秘密も、王族を護衛中にエルフの王宮で見聞きした事があるのかも?
「えっと、工房の仕事は大丈夫かな?」
「今は休んでいるそうだ。護衛してもらうのは、毎週土曜日。料金は、お前の料理でいいと言ってくれてる」
武術稽古とは違い、護衛を頼むなら正式な護衛料を払った方がいいんじゃ?
「ガーグ老、護衛料を教えて下さい。私の料理では値しません」
「サラ……ちゃん。儂らは別大陸へ物見遊山するだけの事よ。遠慮するでない。能力や魔法陣に関しても、口外はせぬから安心してよいぞ!」
「ですけど……」
そうは言っても相場で考えたら引退した近衛騎士の護衛料は、かなり高額と予想出来る。
「姫様の食べたがっていた料理を作ってくれればよい。まだ、他にも沢山ありそうだしの」
姫様に似ている私を心配してるのかしら?
以前から親切にしてくれるガーグ老達は、彼女を大切に想っていたんだろう。
「分かりました。それでは、よろしくお願いします」
「セイ殿もいた方がよいと思うで、連れてくるがいい」
どうしてセイさんを?
「聞いてみますね」
一応、土曜日は休日にしているからセイさんへ確認する必要がある。
父の相談は、移転先での護衛を頼む事だったみたい。
ガーグ老達が依頼を受けてくれ、私達は工房を後にした。
16時に待ち合わせているシュウゲンさんを迎えに行き、皆でホームの実家に戻り、17時まで母と何品か料理を作った。
全員が揃ったところで茜の旦那さんを召喚する。
「召喚! 早崎 順一!」
言葉と共に室内が光で溢れる。
目が慣れた頃、床で横たわる早崎さんの姿が見えた。
今回は、寝ているタイミングだったらしい。
茜より2歳年上の彼は、私が召喚したので20歳に若返っている。
妹は30歳を過ぎて結婚したから、こんなに若い早崎さんを見るのは初めてだ。
「旦那さん、寝てるみたいだね」
刑事の仕事は不規則だから徹夜明けかもしれない。
起こすのを躊躇っていると、茜が彼に近付き声を掛ける。
「早崎! 現場に行くぞ!」
茜の言葉を聞き、早崎さんは飛び起きた。
どんな起こし方なの!?
「えっと……茜さん?」
寝起きでまだ状況を理解出来ない彼は、若い妹の姿を見て固まっている。
「相棒、久し振りだな」
ニヤリと笑う茜は、少し意地悪そうな顔をしていた。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!