食後のデザートにシャインマスカットを出し、皆で摘まみながら恋バナの話を振っていく。
「お店に来るお客さんの中に良い人はいた?」
母親達には私から出来れば再婚して幸せになってほしいと伝えているから、私の質問に疑問を感じる事はないだろう。
「オーナー、お店に来るお客様は殆ど冒険者の人達ですよ? 私達、もう夫に先立たれたくないので冒険者をしている人はちょっと……」
そう言われてみれば納得だ。
未亡人になり子連れで散々苦労してきたのに、また冒険者と再婚はしようと思わないか。
「う~ん、お客さん以外の出会いとなると、なかなか難しいね。誰かいいなと思っている人はいないの?」
私の質問に母親の1人が少し頬を染めて話し出す。
「オーナーに聞きたいんですけど、お兄さんって独身ですよね?」
まさかの兄狙いですかっ!?
いや~残念、兄にはもう相手がいるんだよね~。
四六時中一緒にいて長年連れ添った夫婦みたいな存在がすぐ隣に……。
「ごめんなさい。兄には恋人がいるのよ、あ~内緒の話だけど相手は旭なんだよね。いずれ結婚すると思うから諦めた方がいいかも……」
「旭くんか~小さくて可愛いですもんね。いつも一緒で仲良いですし……残念だなぁ。お兄さん、かっこいいから狙ってる女性が多そうですけど、男性が好きなら仕方ないか」
身長175cmの旭は、異世界の男性に比べると小さいと思われてしまうらしい。
そして恋愛に対して非常に寛大な異世界では、兄と旭が恋人同士だと知っても嫌悪感のようなものは無いみたいだ。
「他には誰か気になってる男性がいたりしない?」
「私バスクさんの事がちょっといいかな~と思ってます」
また違う母親が返事をしてくれたんだけど、バスクさんって『製麺店』の最年長だよね?
60歳以上の人を再婚相手に選ぶのは、母親目線で考えるとちょっとやめてほしい。
違う意味で直ぐに先立たれそうなんですけど……。
子供は母親が若ければ産む事は出来るだろうけどねぇ。
「もう少し若い人の方が良いんじゃない?」
「オーナー大丈夫ですよ! バスクさんはダンジョンの深層を攻略してた人だから、高Lvで寿命も長いです」
はっ!?
Lvが高いと寿命が延びるとか聞いたの初めてなんですけど!
もう少し詳しく聞きたいけど、これは後でサヨさんに確認しよう。
「ちなみにバスクさんって、冒険者時代に地下何階を拠点にしていたか知ってる?」
「私が聞いた話だと地下19階だったと思います。20年前に地下20階を攻略していたクランのNO.2だったって言ってましたから」
あぁジョンさんのクランに入っていたんだっけ。
NO.2という事は副リーダーを務めていたのか。
地下19階というと、ちょうど今ジョンさんのパーティーが攻略している最中だ。
まぁ本人が良いと言っているのなら問題ないか……。
バスクさんの方が年若い女性に気後れしそうだけどね。
「他の3人はどう?」
「あ~私は旭くんが良かったんですけど、お兄さんが恋人じゃ勝ち目がなさそうなんで諦めます」
おっ、旭を好きになってくれる母親もいたらしい。
兄も旭も見た目は悪くないし冒険者としての稼ぎも充分ある。
冒険者はちょっとと言う母親達にも、毎週帰還するパーティーだから生存確認しやすいしね。
普通は1ヶ月潜りっぱなしで深部になると半年は帰還しない。
母親達より年下だけど、兄は落ち着いて見えるし旭は……小動物のようで癒されるのかな?
「うちの2人を好きになってくれてありがとう。2人が恋人なのは、本人達がまだ隠しておきたいみたいだから内緒にしてあげてね」
「分かりました!」
今回は残念な結果だったけど母親達にも少し心の余裕が出来たと思えば、また人を好きになる事もあるだろう。
子供達がお腹一杯になり眠たそうにしているから、夕食会はお開きにする。
自宅に帰ると夜8時前。
リビングには2人が帰りを待っており、コーヒーを飲みながらTVを見ている所だった。
珍しく今日は飲んでいないらしい。
これはあれか、私の帰りが心配で飲まなかったんだろうか?
早く帰ってきて正解だった。
「ただいま~。夕食はもう済んだ?」
兄が私の帰宅に気が付くと、一瞬時計に目をやる。
時間に納得したのか特に注意はされなかった。
「あぁ、旭と中華料理店に行ってきた」
「沙良ちゃん、お帰り~。『肉うどん店』で一緒にご飯食べてきたの?」
「うん、母親達に鰻の蒲焼を食べさせたくてバーベキューしてきたよ」
「そっか。お母さん達に、ご馳走してあげたんだね」
旭がそう言ってにっこりと笑う。
確かに可愛らしい? 兄も好きそうな笑顔だ。
男性冒険者にも人気なのは、背が低い事とこの童顔に見える容姿の所為かしら?
S級冒険者のセイさんも、迷宮都市にいた時は男性冒険者に可愛がられてたと聞く。
日本人の男性は異世界ではモテるのかなぁ~。
旭はきっとモテても嬉しくはないだろうけどね!
うちの兄は超優良物件だから、手放さないように頑張って!
浮気も絶対しないし恋人には優しいから、旭は幸せだよ~。
「沙良が帰ってきたから俺達は部屋に戻ろう」
「了~解~」
そう言い、兄は旭と仲良く部屋を出ていった。
これから2人で家飲みでもするんだろう。
しかし私が帰宅するまで、ずっと部屋で待っている心算だったのか……。
兄がお父さんより厳しいんですけど……。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!