【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第435話 迷宮都市 地下10階 南大陸の情報とアシュカナ帝国の思惑

公開日時: 2023年5月29日(月) 12:05
更新日時: 2023年9月16日(土) 23:14
文字数:3,150

 頼もしいアマンダさんの姿を見送って、私は再び薬師ギルドに戻り兄達がいる部屋に帰る。

 部屋に入ると、ゼリアさんが兄達にハイエーテルを渡し飲ませている所だった。


「もう少し数が必要だからね。魔力酔いは大丈夫かい?」


 聞かれて兄と旭が顔を見合わせる。

 現在兄の魔力量は1,500で旭の魔力量は1,350。


 Lv2の浄化に必要なMPは20だ。

 1人が50本浄化したと計算すると、使用した魔力は1,000で残りの魔力はそれぞれ500と350だろう。


 ハイエーテルでどれだけ回復したのか不明だけど、兄達に魔力酔いのような症状は見られなかった。

 2人とも軽くうなずき、兄が答えを返す。


「大丈夫です。あとどれくらい必要ですか?」


「そうさな、50本は余裕があった方がいい。……1人5本もあれば問題なかろう?」


 兄達の体調に変化がない事を確認して、ゼリアさんは追加のポーションを50本出した。

 2人は浄化の魔法を次々と掛けていく。

 

 こんな時に思うのは不謹慎かも知れないけど、浄化を掛けられたポーション瓶が淡くキラキラと光る様子はとても綺麗だった。


 全てのポーションから光が消えた後、ゼリアさんがその内の1本を手に取りじっと見つめる。

 鑑定をしているんだろう。


 数秒後、完成した『毒消しポーション』をマジックバッグに入れてゼリアさんが席を立つ。


「私はちょっと席を外すよ。……そんなに独り言ばかり言っては、頭がおかしいと思われるではないか。……付いておいで」 


 ??

 謎の言葉を残して、ゼリアさんは部屋から出ていってしまった。


「あのぉ、オリビアさん。ゼリアさんとは面識があるんですよね?」


「ええ、彼女も長い間迷宮都市にいるから、何度もお会いした事があるわ」


「先程、独り言を言っていましたけど……。いつもの事なんでしょうか?」


 どうしても気になり、薬師ギルドマスターの事を知っていそうなオリビアさんに聞いてみた。

 長命なハーフエルフの彼女なら、同じギルドマスターとして付き合いも長いだろうと思って。


「ええっと、そうね……。彼女は、時々亡くなったお爺さんに話しかける癖があるのよ。本当に、気にしなくても大丈夫だから!」


 あれは癖だったのか……?

 お爺さんとは、旦那さんの事かも知れない。

 きっと寂しい思いをしているんだろう。


 突然、部屋にいない人に話し出したから気でも触れたのかと思ったよ。

 今度また独り言を言い出したら、聞かなかったフリをしてあげるのが優しさだよね。


 うん、そうしてあげよう。


「それよりサラさん、国へはいつお戻りになるの?」


 へっ?

 日本には、もう帰れませんが?


 それに、どうしてカルドサリ王国の人間じゃないと分かったのだろう……。


「ダンジョンを攻略するまで、ずっとこの国にいる予定ですけど?」


「それは止めた方がいいわ。今回の件、裏で手を引いているのは間違いなく南大陸にあるアシュカナ帝国よ。他国の諜報員ちょうほういんが死亡している事は知っているでしょう? 持っていた魔道具から出身地を割り出したら、アシュカナ帝国の物だったの。あの国の王はかなりの野心家だから、いずれカルドサリ王国がある中央大陸にも攻め込んでくるはず。ええ、きっと数年の内に必ず戦争が起きる」


 オリビアさんは呪具の犯人に見当が付いていたらしく、ダンクさんから聞いた他国の諜報員の事を教えてくれた。

 

 私は初めて聞く南大陸の事を全然知らなかった。

 そして異世界では戦争が起こる事も予想してはいたけれど……。

 実際、話を聞くと恐怖が募る。


 でもまだ、カルドサリ王国を離れる訳にはいかない。

 この国には雫ちゃんと香織ちゃんがいるかも知れないのだ。

 早く見付けてあげないと!


「ご忠告ありがとうございます。まだ少しやり残している事があるので、直ぐにとはいきませんが考えてみますね」


 オリビアさんに返事をしていると、ゼリアさんが戻ってきた。


「さて、オリビア。薬師ギルドで出来る事はこれで全てだよ。で、黒幕はどの国だい?」


 席に着いて早々、ゼリアさんが厳しい表情でオリビアさんを詰問する。


「はい。今回の件に関しては、南大陸のアシュカナ帝国の仕業だとみております」


「本格的な侵略に向けての様子見だろうね。しかし呪具をバラまくとはえげつないやり方をするな。あの国は教会と癒着ゆちゃくでもしておるのか?」


「そこまでは、情報が入ってきておりません。今回は事態の収拾に掛かる時間の把握と、戦力になりそうな冒険者の排除が目的だと思われます」


「私もあんたに同意見だ。次の狙いは王都のダンジョンかね? 冒険者ギルド統括本部に警告しておきな。私の方からは薬師ギルド総本部へ連絡を入れておくよ」


「承知しました。この度は、ご協力ありがとうございます」


 オリビアさんが席を立ち、ゼリアさんに深々と頭を下げる。


「お礼は浄化をした、お二方に言うんだね。うちには『毒消しポーション』150本分の金貨1,515枚(15億1千5百万円)きっちり払ってくれればいい」 


「直ぐに支払わせて頂きます。サラさん達、本当に助かりました。冒険者にまぎれた犯人の特定は、急ぎ父の部下達に調べさせますのでしばらくお待ち下さい」


 オリビアさんの父親は、先代の冒険者ギルドマスターだったのかな?

 ここは独立採算制の都市だから一族が経営しているのかもね。

 それなら、情報を収集する部署もありそうだ。


「迷宮都市の最高責任者はオリビアだ。気張って、他国の者に後れを取るんじゃないよ!」


「はい!」


 最後に今回の浄化代・金貨1,500枚(15億円)を兄達がゼリアさんから受け取り、薬師ギルドをオリビアさんと一緒に出ていった。


 私達もダンジョンへ戻る事にしよう。

 シルバーとフォレストは念話で会話が出来るから、合流するのは簡単だ。


「オリビアさん、私達はこれからダンジョンに向かいます」


「ええ、充分気を付けて下さいね」


「はい、行ってきます」


 フォレストの背に私が乗り、次は兄が最後は旭が順番に乗ったら出発だ。

 背の低い旭を最後にしたら前が見えないんじゃないかしら?


 大人3人は少し重いかもしれないと心配したけど、フォレストの足が鈍る事はなくむしろいつもより速い。


 従魔達は、本当に私に合わせて走ってくれていたのだと知りちょっとがっかりする。

 きっと兄1人を乗せている時は、かなりのスピードを出しているんだろうな。


 オリビアさんと別れてから、ダンジョンの地下10階までノンストップで駆け抜ける。

 ここを拠点にしている冒険者達は、子供達の家を支援してくれているから心配だった。


 安全地帯に到着すると、ケリーさんのパーティーメンバーの何人かが怪我をしている。

 兄と旭が素早く駆け寄って、怪我人の治療をし出す。


 幸い治療は間に合ったようで、3人の怪我人は助ける事が出来た。

 

「サラちゃん、助かった! お兄ちゃん達も、治療してくれてありがとう」


「ケリーさん、呪具の話は聞いてますか?」


「あぁ、もうダンジョン内にいる全ての冒険者に話は伝わっているよ。地下10階でも、先程発見されてアマンダさんのクランが解呪をしたばかりだ。俺達のパーティーは、増えた魔物の対処でメンバーが怪我をしたから安全地帯に戻ってきたのさ」


「あぁ、良かった。じゃあ地下10階の呪具はもう作動していないんですね?」


「他になければ大丈夫だろう。あんな高い物を、そう何個も設置出来るとは思えないからな」


「分かりました。念のため他に見付かった場合は、この解呪用ポーションを渡しておきますから呪具に掛けて下さい。1本で3個分を解呪出来ますから」


 私は『毒消しポーション』とは言わず、ケリーさんに1本手渡しておいた。

 考えてみたら、このポーションはアンデッドに対しての特効薬になりうる。


 それは、教会の人間に知られると利権絡みの厄介な問題になりそうだった。

 『毒消しポーション』の効果は、毒を治療する効果があるとだけ思ってもらった方がいい。

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