父が零したビールを無言で拭いている。
息子達の結婚報告に、かなり動揺しているらしい。
母親達は、お互い顔を見合わせて何故か握手をしているけど……。
これから親戚になるので、よろしくという事だろうか?
サヨさんは、遠い目をしていた……。
雫ちゃんは、事態を飲み込んだのか少しショックを受けているようだ。
旭の事を恨めし気な表情で見ている。
そうだ、肝心な事を言い忘れていたよ!
「それでね、2人の子供は私が産んであげる事にしたから、孫の事は心配しなくても大丈夫!」
少しでも落ち着こうとビールを飲んだ父が、再度口に含んだ全てを零してしまった。
「さっ、沙良。それは……尚人君との子供を産むという事かい?」
「別人の姿になっているけど、お兄ちゃんとの子は産めないから当然でしょう?」
「いや……それは理解出来るんだが……。尚人君とは……ちょっと待ってほしい」
??
父は、私が旭の子供を産む事に何か思う所があるようだ。
私も今すぐ産む事は無理なんだけどなぁ~。
「あ~、先に言われてしまったが……。実は先日、旭と結婚式を挙げた。その件に関して話があるから、少し場所を移動してほしい。沙良は悪いが席を外してくれ」
兄にそう言われ、私は不思議に思いながらも了解する。
皆がダイニングからリビングへと移動する姿を見送り、後片付けを始める事にした。
今回は大人数での食事会だったので、洗い物が沢山ある。
これ、魔法で簡単に出来ないかな?
8人分の食器を1人で洗うのは結構大変だ。
汚れだけをアイテムBOXに収納出来ないか試してみよう。
結果……。
そんな旨い話はなかった。
汚れは物と認識されないらしい。
残った料理をタッパーに入れアイテムBOXに収納する。
あぁ前回ホームに設定した時、食料品は全て回収したんだった。
必要な物をアイテムBOXから取り出し、冷蔵庫に入れて置かないと。
明日の朝、食べる物が何もない状態になってしまう。
食事会の片付けが終わり一息吐いた頃、兄達が戻ってきた。
皆、受けた衝撃が落ち着いたのか穏やかな表情になっている。
どうやら2人の結婚は、反対されずに済んだようだ。
父だけは、未だ複雑な表情のままだったけど……。
兄と旭は説得するのが大変だったのか、少し疲れた顔をしているみたいね。
食後のコーヒーを淹れている所だったので、席に着いてもらう。
料理を沢山食べた後だから、デザートはチョコレートにした。
それも1粒200円する、お高い方だ。
ホワイトデーのお返しに毎年、兄と旭がくれた物だけどね。
2人は毎回、律儀に3倍返しをしてくれたんだよ!
箱を取っておいて良かった~。
アイテムBOXには×365をして大量にあるので、ちまちま食べる必要もなく大皿に盛って出した。
まぁ、日本円が沢山あるので購入すればいいんだけど……。
父が換金の能力を持っている今は、アイテムBOXにある大量の金貨も日本円にする事が可能だしね。
「そういえば、あなた。どうやって沙良だと気付いたの?」
母が父へ、再会時に私を見て抱きしめた事を聞いていた。
それは私も知りたい。
面影がない所か別人になっている娘の姿を見て、真っ先に向かってきたから驚いたんだよ。
「それは……。父親としての勘だ!」
「……勘ねぇ。産んだ私でも気付かなかったのに?」
「行方不明だった息子と、亡くなっていた尚人君が一緒にいるんだ。それなら、傍にいるのは娘の沙良だと予想出来るだろう?」
「あら、一緒にいたのは結花さんも雫ちゃんも同じよ?」
「いや沙良だけは、俺の事を懐かしい目で見ていたからな。消去法で娘だと勘が告げたんだ」
「……そう。不思議な事もあるものね……。所で沙良、茜と雅人と遥斗はいつ召喚してくれるのかしら? やっぱり家族全員揃った状態の方が嬉しいわ」
「茜を召喚するなら、旦那さんも一緒に呼ばないと駄目だよ。4人全員召喚するには、Lvを40上げないと難しいと思う」
「いや、先に樹を召喚してあげた方がいい。年齢的に、いつぽっくりいくか分からないし相談したい事もあるんだ。子供の事は、樹を召喚してから考えよう」
父が何気に酷い事を言っているようだけど?
旭の父親は召喚する予定でいたから、年齢的に考えて最初にした方が確かに良いか……。
それを聞いた旭のお母さんと、雫ちゃんが嬉しそうな表情になる。
「まぁ、うちの人を先に呼んでもらえるの? 8年も会えなくて心配だったのよ。沙良ちゃん、よろしくお願いね!」
どうやら1ケ月程ダンジョン攻略を中止して、のんびりとする事は出来ないらしい。
私もLvを上げる必要があるから、話に乗っておこう。
「分かりました。頑張ってLvを上げますね! お兄ちゃん、旭、来週からダンジョン攻略開始だよ!」
「その前に、母さんと父さんの冒険者登録にいこう。2人はLvが0だから、何かあってもいいようにLvを少しは上げておいた方がいいだろう」
「そうだね。基礎値が高いから、私達よりHPとMPの上がりも早いし」
「あら、それならスキップ制度を利用して一緒にダンジョン攻略をしましょうよ。私達、今は冒険者をしているの!」
旭のお母さんが母に提案する。
それを聞いた父が「……ダンジョン攻略」と呟き固まってしまった。
子供の頃、一緒にRPGをして遊んでいたから、もっと嬉しそうにするかと思ったのに……。
「あっ私達、剣術と槍術を教えてもらっているの。家具職人をしているご老人なんだけど、とっても強いのよ! 他の人にも教えてくれるか聞いてみるね!」
「そっ、そうか……。子供達がお世話になっているなら、挨拶にいかないとな」
父はそう言うと、コーヒーを一気に飲み干した。
そろそろ夕食会をお開きにしよう。
これから両親には、頑張ってもらう時間が必要だ。
「今日は、お母さんと一緒の部屋で寝るわね」
嬉しそうに言う母に、父が当然だろうと頷いている。
どうしよう!?
サヨさんの事を忘れて、父に迷宮ウナギをたらふく食べさせてしまった!
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