俺との手合わせで、挨拶が中断された件をガーグ老が詫びる。
「サラ……ちゃん。儂の独断で先行してしまい悪かったの。紹介が途中だったわ。この2人が息子の嫁御……のようだ」
最初からずっと気になっていた、オカマにしか見えない高齢の2人はガーグ老の息子達の嫁? であるらしい。
おかしいな、ガーグ老には息子が1人だけの筈だが……。
きっと隣にいるよく似た彼が、現当主の息子だろう。
「フランクの妻で、リヒトと申します」
「ジルの妻で、ジュードと申します」
口から出るしわがれた野太い声に、どう考えても妻だとは思えなかった。
彼女達に女性らしさは一切感じない。
名前を名乗ると、2人が片膝を突き騎士の礼をした。
沙良をハイエルフの王族と知り、対応したためと思われる。
「これ、サラ……ちゃんが驚くではないか! 普通に挨拶をすればいいのだ!」
ガーグ老が叱責し、2人が慌てて立ち上がった。
娘は自分を普通の人間だと思っているから、ガーグ老達は何も言わずに護衛をしているのだろう。
となると、息子役と妻役は全員影衆だな。
妻役が一番年上に見える所は、失敗しているようだが……。
唇から大きくはみ出している口紅が、またなんともいえない。
きっと妻役は本意でないとみえる。
挨拶を交わした沙良達は、全員ドン引きしていた。
誰もが言いたい言葉を飲み込んでいるに違いない。
嫁じゃね~!
その後、ガーグ老が漏らした「それにしても、誰も似ておらんの……」の言葉には、皆が心の中で思った事だろう。
息子達程じゃない! ……と。
長男が一番若く見える兄弟は普通じゃないぞ?
ガーグ老の一声で稽古が始まった。
俺は特に必要がないと言われ手持ち無沙汰になったので、雫ちゃんの稽古相手をする。
彼女は剣術Lv9らしい。
この中では一番Lvが高いだろう。
俺は剣術Lv50なので、相手役には充分だ。
2時間程で稽古が終了した。
尚人君が一番扱かれたらしく虫の息をしているが、大丈夫だろうか?
妻と結花さんには、少し疲れた表情が見える。
沙良と賢也は充実した時間だったのか、満足そうだ。
いつもは稽古の後で、沙良がお礼の食事を作るらしい。
ガーグ老の三男役の影衆が、テーブルを出し準備をしていた。
嫁役の2人は、当然ながら手伝わない。
年齢的に影衆の中でも序列が上の者達なんだろう。
ただ、ここは演技をした方がいい場面じゃなかろうか……。
気付いたら沙良とガーグ老の姿が消えていた。
稽古中、俺から離れていたポチとタマが再び両肩に乗る。
ホーホーと鳴き俺の頬に頭を寄せて懐くのは、樹の魔力を感じている所為かも知れないな。
10分程すると、沙良が工房から出てくる。
そしてガーグ老から俺を呼んでほしいと言われたそうだ。
話したい事もあるので丁度いい。
沙良へ分かったと返答し、工房へ向かった。
工房内に入ると、ガーグ老が片膝を突き待っていた。
「王よ。どのような御業か生きて無事の御帰還、嬉しく思いますぞ」
「ガーグ老、久しいな。どうか立ってくれないか。席に座り、落ち着いて話をしよう」
俺が軽く肩に手を触れるとガーグ老が立ち上がり、まじまじと顔を見つめてくる。
「して、そのお姿は……。姿変えの魔道具を使用していなさるのか?」
正直ガーグ老と再会するとは思わず、何をどこまで話してよいものか迷っていた。
俺と樹が本当は、この世界の者ではなく転生者であると言えば信じてもらえるだろうか?
その後、元の世界に戻り再びこの世界にやってきたなんて、御伽噺より酷い内容だ。
ここは樹が召喚されるまで、話を合わせておいた方が無難だろう。
「あぁ、今は姿を変えている」
「さようか。ポチとタマが、姫様の番がきたと騒ぐで確かめさせて頂いた。御子を見付け、育てておられたのかの」
「王座を降りた後、死んだ振りをして娘を探しにいったのだ。幸い娘は生きて見付かった。再婚した妻と一緒に育てたんだよ」
という事にしておいた。
「おお、そうであったか! 姫様も喜ぶであろう。御子には出自を話しておられんのか?」
「娘は自分を、成長が遅い人間だと思っている。ハイエルフだとは、まだ言っていない」
「それは……拙いかも知れん。御子は時空魔法適性持ちの【存在を秘匿された御方】である。本来ならば王宮深くの精霊殿に住まわれるのが普通。急遽、現当主率いる『万象』50名を呼び寄せたが警護態勢は万全とは言えん。なにしろ毎週ダンジョンを騎獣に乗って攻略されるでな、『万象』達もダンジョン内の警護は骨が折れそうだわ」
「娘の警護には50人の影衆が付いているのか?」
その人数を知り驚いた。
樹の時は10人だったのに……。
「【存在を秘匿された御方】はエルフ国、最後の砦。時に王より命を優先される方なのだ」
それを聞き、やはり樹の産んだティーナはエルフの守護神と言われる存在であったと確信した。
それが何故、沙良の体になっているのかは不明のままだが……。
「護衛の件に関しては、通信の魔道具を渡してはどうだろう? 確か、念話のように会話が出来る物ではなかったか?」
「おお、それは良い! 実は、王に話が……」
それから語られたガーグ老からの内容に、俺は怒りを抑えきれなくなった。
南大陸にあるアシュカナ帝国が、数年先このカルドサリ王国がある中央大陸に攻めてくるらしい。
更にはその王が、娘を9番目の妻にしようと狙っているそうだ。
在位中、他国と戦争になった事は一度もない。
元国王として国が戦火に巻き込まれると知り、傍観するのは無理だ。
何らかの手を打つ必要があるだろう。
娘を帝国なんぞに奪われて堪るものか!
そんな好色な男は切り捨ててやる。
まぁ、娘を誘拐するのは実際至難の業だがな。
あの子はマッピングで周囲を確認出来るし、不審人物がいればホームで自宅に逃げればいい。
実質、誘拐は不可能だ。
「それと、お渡しした剣は姫様が王がLv100になったお祝いにと誂えた物。姫様が亡くなった後に完成品が届いたため、渡す事が出来ませなんだ。王と一緒に冒険者をすると言い、とても楽しみにしていなさった。姫様がシュウゲンのエロ爺……名匠に媚びを売り作ってもらった品である。どうか大切に使用して下され」
あぁ、樹の剣にしては軽いと思ったのは間違いなかったようだ。
あいつ……。
日本に戻ってから、一度もそんな話をしなかったじゃないか。
エロ爺の言葉が引っかかるが、大方また女の武器を盛大に使ったんだろう。
やり過ぎるなと言っておいたのに……。
でも俺の武器を注文してくれたのは、ちょっと心にクルものがある。
召喚後に、ちゃんとお礼を言わないとな。
冒険者がしたいという、お前の願いは叶いそうだぞ?
そうだ、冒険者活動で金を稼いだら〇ーレーを買ってやろう。
樹もバイクは好きだった筈だ。
2人でツーリングするのも良いだろう。
あまり長く2人でいると沙良に不審がられるため、話の続きは昼食後の将棋の時間でとなった。
最後にガーグ老から、沙良だけLvの上がり具合がおかしいと言われたんだが……?
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