【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第509話 迷宮都市 地下15階 新たな果物 2&夕食の『バーベキュー』

公開日時: 2023年8月8日(火) 12:05
更新日時: 2024年1月6日(土) 21:15
文字数:2,381

 その後、安全地帯に戻りテントから自宅へ移動しトイレ休憩。

 これにも安全地帯に設置してある簡易トイレを使わずに済むと、しずくちゃんとお母さんが大喜びしている。


 私は嫌な予感がしたので、一度も入らなかった。

 旭はダンジョンマスター時代トイレに嫌な思い出があるようで、安全地帯の簡易トイレを使用しようとはしなかったし……。

 兄は果物採取をしている時に、入った経験があるかもね。


 テントから出ると、怪我人が待機していた。

 三つ目ベアの爪で肩を大きく切り裂かれた男性だ。

 傷口が広範囲に渡っているからか、兄と旭が顔色を変える。

 鎧と服を脱がされていたので兄が直ぐに水を掛け、旭がヒールを唱え治療した。


 大きくえぐられていた皮膚の傷はなくなり、綺麗な状態に戻ると見ていた私もほっとする。

 2人が同時に対応したのは、時間が惜しかったからだろう。

 出血多量で危険な状態だったのか……。

 

 1階層下がっただけで、魔物の危険性がぐんと上がった気がする。

 いつか冒険者の死に立ち会う瞬間があるかも知れない。

 覚悟を決めた方がいいんだろうけど、現場に立ち会うのは辛いな……。


 男性は、危険な状態から数秒で脱した事に目を瞬かせていた。

 傷があった辺りを恐る恐る手でなぞっている。

 皮膚が綺麗になっているのに驚きつつ、喜んでもいるようだ。

 兄が治療代を固辞したため、旭だけが金貨17枚(1千7百万円)を受け取る。

 男性は、お礼を言いメンバーの所に戻っていった。

 

 それを見ていた旭のお母さんが感心している。

 ダンジョン攻略中、光魔法を使えるのは内緒にしていたらしい。

 若い少女2人のパーティーだ。

 狙われる可能性を考え、治癒術師としてバレる訳にはいかなかったんだろう。

 治療後のお礼・・もあるしね。

 あれは雫ちゃんの教育に悪い。

 父は旭が使用したヒールの効果を見て、何とも言えない表情になった。


「今の魔法は本当にヒールなのか?」


「ヒールしか覚えてないので、そうだと思います」


 父に聞かれた旭が答える。


「……知識の差なのか? お前達は外科医だから人体の構造を知っている分、効果が高いのかもな。あぁ、また心配の種が増えたじゃないか……」


 誰にともなく呟いて兄を見やると、


「後で石化治療した件を詳しく説明してくれ」


 と言ったきり父は黙ってしまった。

 突然異世界に召喚されてから、まだ1週間。

 分からない問題が多く親として心配なんだろう。


 私は夕食の準備を始めないと。

 2パーティーは『バーベキュー』らしいので、今日はメニューを合わせよう。

 雫ちゃんは、キャンプにも海にもいった事がない。

 病気の所為せいで遠出をするのが難しかったのだ。

 『バーベキュー』をするのは初めてだろう。


 母と一緒に材料を切り、ハイオークとねぎを交互に刺して串焼きを作る。

 兄に火を起こしてもらったら、父がお肉を焼いていく。

 雫ちゃんは、目の前で焼かれる野菜やお肉に目が釘付けになっていた。

 私はその間に、『シチュー』と『ナン』を準備しておこう。

 焼き上がった野菜や肉を皿に盛り、皆で食事を始める。


「頂きます!」


 お肉が焼ける匂いでお腹が空いたのか、雫ちゃんがミノタウロスの肉から食べ始めた。


「美味しい~! ダンジョンで食べてるとは思えないよ!」


「おや? 妹さんは、サラちゃんの料理を食べた事がないのかい?」


 雫ちゃんが叫んだ言葉を耳にして、アマンダさんが不思議そうな表情をする。


「少し事情があり、私達は最近まで王都のダンジョンを攻略していたんです」


 旭のお母さんの返事を聞いて、アマンダさんは納得したらしい。

 

「じゃあ、これからは美味しい食事が食べられるよ。サラちゃんは、本当に料理上手だからね」


「はい、すごく嬉しいです! 毎日楽しみが増えました!」


 雫ちゃんが、笑顔になり元気一杯答えている。

 これは、新しいメニューを幾つか考えておく必要がありそう。


「あ~、聞いても良いか分からないんだが……。サラちゃんのご両親は、どれだけ歳の差があるんだ?」


 ダンクさんがこっそり私に尋ねてきた。

 同じ年ですけど?


「父も母も、一緒の年齢ですよ?」


 そう答えた瞬間、聞き耳を立てていた2パーティー全員が「ええぇ~!」と声を上げる。

 あぁ、そうか……。

 この世界の人は平均身長が高いから、私と変わらない背で日本人の母の顔が若く見えるんだろう。

 父はイギリス人とのハーフで背も185cmある。

 おまけに兄より体格がいい。

  

 良かったね、お母さん。

 かなり若い母親だと思われたみたいだよ?

 旭の父親が召喚されたら、文字通り歳の差夫婦になるだろうけどね~。


 母は冒険者達に若く見られて嬉しそうだ。

 旭は少し複雑そうにしている。

 見た目がになってしまった母親に、思う所があるんだろう。

 そんななごやかな雰囲気の夕食が済むと、アマンダさんが新しいデザートを期待しながら待っている。

 私はマジックバッグからアメリカンチェリーを取り出し、全員に2個ずつ配っていった。


「サラちゃんありがとう。この果物は、何ていう名前なんだい?」


「アメリカンチェリーです。これも甘くて美味しいですよ~」


「初めて見る果物だね。じゃあ、頂こうか!」


 アマンダさんが一口食べたのを見て、メンバーも食べ始めた。

 アメリカンチェリーは皮をく必要がないので、兄も旭も食べている。


「ああ、この味もいいね」


 果物好きなアマンダさんが、笑顔になって2個目を口にする。

 子供の頃、茎と種が離れないよう遊んで食べた事があったなぁ。

 ダンジョン産の果物に種は入っていないけど……。


 もう一つの遊びは出来るかも知れない。

 茎を口の中に入れて結ぶのだ。

 出来るのは、キスが上手い人だと言われていたっけ。

 あれは本当なんだろうか?


 少し興味が湧いたので、この遊びを2パーティーに教えてあげる。

 結果、冒険者で出来たのはダンクさんとケンさん。

 パーティーメンバーでは、私の母と雫ちゃんだけだった。

 う~ん、キスが上手いと言うのは眉唾まゆつばかも?

 雫ちゃんは、キスをした経験がないだろうしね。

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