時間がないので、残り8軒もさくさく回り人数と年齢を確認し迷宮都市に移動。
迷宮都市の子供達155人については、毎週炊き出しで顔を合わせているので全員の住んでいる家と年齢は把握済みだ。
何気に私の記憶力って凄いんじゃないかしら?
これはステータス表記にないだけで、知力がLv相当に上がっているのかもね……。
今テストをしたら満点が取れそうよ!
学生時代に、この記憶力が欲しかった~。
2つの町を確認して回っただけで、4時間以上が経過している。
でもそのお陰で人数と年齢を確認出来たので、後はサイズ別の人数を集計すればいいだけだ。
毛糸を買いに行くと言って『肉うどんの店』を出たので、アリバイ作りのために雑貨屋に行き大量の毛糸を購入する。
子供達315人分と『製麺店』の大人10名分・『肉うどんの店』の大人5名分を編むので、毛糸は幾らあっても困らない。
サヨさん達のグループにボランティアとは言え、労働力を借りて更に毛糸代まで負担してもらう訳にはいかないからね。
夕方の5時。
『肉うどんの店』の店内に入ると、まだ皆は編み物の最中だった。
母親達に毛糸の入ったマジックバック3㎥(旭から貰った)を渡して、今日の編み物教室は終了。
手伝ってくれた人全員に、お礼として桃を1個ずつ手渡した。
息子の店で売っている値段(銀貨10枚・10万円)を知っているサヨさんは、恐縮していたけれどアイテムBOXに大量にあるので気にしないでほしい。
今日はサヨさんと約束をしているので、とても楽しみにしていた。
初めて会う、元日本人の転生者もしくは転移者だ。
今まで、この世界の人に不審がられると思って聞けなかった事を色々聞いてみよう。
店を出て人気のない場所まで歩き、2人きりになってからサヨさんに話しかけた。
「サヨさん。これから私の能力で移動するので驚かないで下さいね」
「まぁ、何処に連れて行かれるのかしら?」
うふふっと、サヨさんは悪戯っぽく笑っている。
意外とおちゃめな人なんだな。
「一瞬ですから、目を瞑って下さい」
「はい、心の準備はしましたよ」
「じゃあ行きますね!」
言った瞬間に自宅の玄関に到着。
「もう目を開けてもいいですよ」
「あらあら、まあまあ! これは一体どういう事なのかしら!?」
驚かないように注意をした心算だったけれど、サヨさんは予想外の場所に連れてこられて、とてもビックリしてしまったみたいだ。
「えっと、ここにいるのも何ですし。部屋に入りましょう」
靴を脱いで部屋の中に入ると、サヨさんは固まってしまった。
「サヨさん? 大丈夫ですか? 椅子に座って下さい」
「えぇ、何とか……。まさか、日本の部屋にくる事が出来るなんて信じられないわ」
衝撃で動けないサヨさんの手を引き、椅子に座ってもらう。
ご高齢なので倒れてしまったら大変だ。
私は日本の物が懐かしいだろうと思い、緑茶を急須で入れてお出しした。
「まぁ、緑茶だわ! 懐かしい良い香りね~、頂きます」
そう言うと味わうように、サヨさんがゆっくりと緑茶を飲んでくれた。
これで少しは落ち着いて話が出来るかしら?
「サヨさん。気が付いていらっしゃるかも知れませんが、私は元日本人の転移者で椎名 沙良と申します。今は若返って19歳ですが、本当の年齢は55歳なんです」
「ええ、日本の方だと予想しておりました。『肉うどん店』のオーナーの時点でね。異世界にうどんはありませんから。私も元日本人で木下 小夜という名前でした。当時は60歳だったから夫も子供も孫もいたんです。気が付いたら、赤ん坊になっていてそれはもう混乱しましたよ」
サヨさんは遠い記憶を思い出しながら語り出したのだった。
「記憶を持ったままでしたから、60歳で赤ん坊のフリをするのも大変だったわ。母親の苦労を知っているから、なるべく迷惑をかけないように大人しい赤ん坊を演じましたけど……。お腹が空くのだけは耐えられなくてね、体が欲しがる物だからやっぱり泣いてしまうんです。不思議ですね、赤ん坊は泣くのが仕事なんでしょう。それから大人になって、今の主人と出会ったんです。日本にいた時の主人と離婚した訳じゃないから一緒になる事には葛藤がありましたけど、これも運命だと思って受け入れ結婚しました。その時に、名前をサヨと改名したんです。こちらの世界の両親が付けてくれた名前もありましたが、60年間自分の名前だったサヨの方がしっくりするんですよ。えぇ、本当に色々ありました。長い話になるけれど、同郷の誼で聞いて下さるかしら?」
「ええ、勿論。時間は沢山あるので大丈夫です。日本人の方とお話し出来るなんてとても嬉しい事なので、是非聞かせて下さい」
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