「樹の召喚なんだが、やはり少し早めた方がいい。母さんも妊娠してパーティーが1人減るし、子供達の誘拐もある物騒な世界のようだしな」
何を言われるかと思い身構えていたら、樹おじさんの召喚の件だった。
これから生まれる香織ちゃんは異世界で生きる事になる。
ホーム内は安全だけど、ずっとそこで生活する訳にはいかないだろう。
雫ちゃんのお母さんは3人目が欲しいみたいだし、夢で香織ちゃんも同じ事を言っていたなぁ。
何より、ホームに独りでいるのは寂しいよね。
「召喚するLvはもうあるんだけど、お兄ちゃんにどう説明するかが問題だよ。地下16階を攻略していると思ってるから、Lv40になったとは言えないし……。2人だけのパーティーでも、1ヶ月でLvが10上がるのは不自然過ぎるでしょ?」
「なんとか、お前の結婚式までに呼んでやりたい。きっと、出席したいだろうから……。後、2ヶ月の間にLvを10上げる上手い方法を考えよう」
私の偽装結婚式に、樹おじさんが出席したいと思うだろうか?
相手はガーグ老だけど……。
「どう考えても地下16階じゃ無理だよね。う~ん、お兄ちゃんは私の安全を優先するだろうから、安全地帯から魔物を倒せると話すしかないか……」
アイテムBOXに生き物を収納出来るのは話しているけど、マッピングで見た範囲へ魔法を使用可能なのは内緒にしている。
直接魔物と対峙せず、魔法で倒しアイテムBOXに収納するだけの討伐方法なら兄も許してくれるだろうか?
「賢也は、俺より過保護だな。どっちが父親なのか分からん」
父はそう言って苦笑する。
兄が妹の私に過保護なのは昔からだ。
子供の頃、何度も誘拐されそうになったのが原因だと思うけど……。
「まだ起きていると思うから、お兄ちゃんを呼んでくる」
実家では、お酒が飲めなかったし今頃2人で飲んでいるだろう。
兄の家に入ると、リビングでニュースを見ながら兄がビールを飲んでいた。
旭は、その隣で兄に凭れ眠っている。
私は寝ている旭を起こさないよう、声を出さず兄を手招きした。
兄は私の仕草を見て話があると思ったのか、旭を抱き上げると寝室まで運び戻ってくる。
Lvが高いから、お姫様抱っこも簡単だろうけど見ているこっちが恥ずかしい。
「どうした沙良?」
「お父さんとちょっと話があるから、きてくれる?」
「分かった」
兄と一緒に部屋まで戻ると、父が樹おじさんの召喚の話を切り出す。
案の定、2ヶ月後に召喚したいと聞いた兄が難色を示した。
そこで私が秘密にしていた件を何気なく口にする。
「果物を採取する時、魔法を使用して切り離すのが面倒だったから、マッピングに映る範囲で可能か試してみたの。そうしたら、アイテムBOXに入ったんだよ。じゃあ魔法も使えるかと思って、やったら出来ちゃった。私、半径30km以内なら魔法を使用してアイテムBOXに収納出来るみたい」
話を聞いた兄が呆れた表情をし額に手をやる。
「……お前の魔法は、どうなっているんだ? マッピングとアイテムBOXの組み合わせが、最恐過ぎるだろう……」
「あ~、安全地帯を出なくても魔物を倒せるから、安全にLv上げが出来ると思うよ? 心配なら月曜日、一緒に付いてきて? 地下20階は誰もいないから全滅させても問題ないし!」
兄は暫く考え込み父に視線を向ける。
「大丈夫だ。俺もLv30になっているし、何も心配はいらないぞ!」
胸を叩いて太鼓判を押す父。
「じゃあ月曜日、地下20階まで一緒にいこう」
「了解! 樹おじさんを早く召喚してあげようね~」
最後に、くれぐれも能力を知られないよう注意し兄は帰っていった。
私達は兄の説得が叶い、ほっと一安心する。
これで2ヶ月後、Lv40になっても不思議に思われないだろう。
翌日、土曜日。
奏屋へ果物を卸した後、サヨさんを連れて家にいく。
待ち合わせの10時より早く、タケルの父親が馬車に乗りやってきた。
母が書いた手紙の内容を読み事情を把握した奏伯父さんと母とサヨさんを残し、私と父と兄は2階に上がる。
家族の再会を邪魔しちゃ悪いからね。
積る話もあるだろうと私達は遠慮したのだ。
奏伯父さんのために日本料理も用意してある。
今朝、サヨさんと母が好物を沢山作っていたのだ。
アイテムBOXに収納したから、熱々の状態で食べられるだろう。
2時間後。
そろそろ落ち着いたかと思い1階へ降りていく。
奏伯父さんは別人になっている私の姿に驚いている様子だったけど、それは私も同じ。
「また可愛くなって」と心配そうに言われてしまった……。
母の妊娠報告も聞いたのか、父へ「おめでとう」と言葉を掛ける。
義兄からお祝いの言葉を受け、父は恐縮しているみたい。
お昼になったので、アイテムBOXから料理を取り出し皆で一緒に食事をする。
奏伯父さんは久し振りの日本料理に感激し、母さんの作った料理が一番美味しいと言いながら食べていた。
それは、母が作った物だけど……。
同じ味付けなので分からないのかな?
サヨさんは目を細め、息子が沢山食べる姿を微笑ましく見ていた。
奏伯父さんが異世界に転生したなら、亡くなってしまった祖父もいないかしら?
ふと、そんな事を思ったのだった。
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