部屋へ入ると、先程の魔族が後ろ手に両手を縛られ床に放置されていた。
ポーションで止血したのか、切り落とされた足首の部分に布が巻かれている。
流れ出た血の跡は拭き取られ床は綺麗な状態になっていた。
「食事に致しましょう。王女様方の、お口に合うと良いのですが……」
休憩の間に昼食の準備をしてくれたようで、テーブルの上には軽食が用意されている。
異世界のパンを薄くスライスし、フライが挟んである物とスープだった。
これは『フィッシュバーガー』かな? ヴィクターさんをちらりと見る。
「ケンが調理長と一緒に作った物です」
料理担当のケンさんが、私達のために作ってくれたらしい。
きっとエンハルト王国の料理は苦手だと思ったんだろう。
「ありがとうございます。では頂きますね」
手を付けようとしたところ、女官長からやんわりと止められた。
?? 食べちゃ駄目って事?
不思議そうな顔をしていると、女官の1人が樹おじさんと私の分を少しずつフォークで切り取り口にする。
次にスープを一口飲んでいた。
あぁ、毒見か……王族は大変だなぁ。
食事の度に毒見役が確認してから食べるなんて、料理が冷めちゃいそう。
でも他国で出された料理を毒見するのは、信用してないと言っているも同然だ。
問題にならないかしら?
毒見役の女官が小さく頷いたのを確認して、女官長が食事を促す。
もし毒が盛られていても、『毒消しポーション』と兄がいれば解毒は可能だけどね。
直ぐに効果の出ない遅効性の毒も問題ない。
私は出された昼食を食べながら、青龍の声がいつから聞こえなくなったか尋ねた。
「今から12年程前です。巫女も困り何か対策が必要だと予知能力を使用した結果、ヴィクターをカルドサリ王国の迷宮都市へ送り出す事にしました」
「12年……」
12年もアマンダさんとして過ごしたなら、ヴィクターさんも大変だったろうな。
予知能力では明確な時期が分からないらしい。
私達が出会ったのは2年前なので、男性と見抜けないくらい演技も上手くなっていたのかしら?
「青龍は何処にいるんですか?」
「王宮から、海へ繋がる道があります。巫女しか、その先に続く扉を開けないのですが……」
「えっ!? じゃあ私達は青龍と会えないんじゃ……」
「いえ巫女が予知した以上、王女様なら可能です」
女王は、そうはっきりと言い切って樹おじさんを見る。
う~ん、本物のヒルダさんなら大丈夫だったかもしれないけど……。
この依頼、果たせるか不安になってきた。
「魔族は、どうされますか?」
「依頼者との契約不履行を理由に、異界へ戻ると思います」
異界? へぇ、悪魔みたいに召喚されるのか。
なら普段は、その異界に住んでいるんだろう。
ステータスの魔力を対価に望みを叶える魔族。
本当なら高いリスクを払って契約する相手だけど、私ならそのリスクを回避出来る方法がある。
「じゃあ、身柄を引き取ってもいいですか?」
「ええっと、はい。どうぞ、ご自由にして下さい」
「ガーグ老、部屋に運んでおいてね!」
「沙良? 何を考えてるんだ?」
「後で話すよ」
訝し気な表情をする兄に向って、私はにっこりと笑った。
魔族は使い勝手がよさそう。
魔力を与える契約者には危害を加えないだろうし、いい拾い物をした。
今はまだ弱い魔族も、私の考えた方法なら直ぐ爵位が上がり強くなるに違いない。
少し反則技だけど、侯爵位まで上がれば利用価値がある。
食事を済ませた私達はガーグ老達と女官達と別れ、女王の案内で王宮の奥へと歩き出す。
巫女以外開ける事の出来ない扉の前まで進むと女王とヴィクターさんは、よろしくお願いしますと言い頭を下げ引き返していった。
ここから先は神聖な場所なんだろう。
さて、偽者の私達に扉を開けられるかしら?
「よし! 全員で押してみよう!」
力技かい!?
樹おじさんの言葉に反対意見は出ず、扉に全員が両手を当てる。
「せ~の!」
おじさんの号令で皆が力一杯、扉を押した。
すると大した抵抗もなく扉が動き出す。
うん? 誰かが巫女の資格を持ってるの? まだ生娘のリーシャかしら?
「おっ、開いたな。中に入ろう」
私達が中へ入ると扉は自動的に閉まった。
海へ続く道の中は真っ暗で何も見えない。
兄がライトボールを幾つか出し、照らし出してくれる。
どれくらい歩くか分からないため、シルバーとフォレストをアイテムBOXから出し騎乗して先を急いだ。
10分程すると潮の匂いが漂ってくる。
海が近くなってきたようだ。
更に5分後、長く続いた道が突然開けた場所へ出る。
「……あれが青龍!?」
目の前に横たわる大きな青い竜の姿を見て、私は大興奮!
ワイバーンは鱗が茶色で華がなかったけど、青龍はワイバーンの2倍くらいの大きさで全身の鱗がサファイヤみたいに輝いていた。
目を閉じているので、瞳の色が見えず残念だ。
セイさんが言ったように寝ているのかしら?
「お兄ちゃん。触っても大丈夫かな?」
「国を守護する青龍なら危険はないだろう。従魔達も警戒してないし、大丈夫だと思うぞ」
兄から許可をもらい、目を覚まさない青龍へ近付き鱗を撫でる。
鱗の表面は磨かれたようにつるつるしていた。
少し冷んやりとする。
反対に赤い鱗は温かかったなと記憶が過ぎった。
この知らない記憶は何だろう?
「青竜王。巫女姫が来ましたよ」
セイさんが語りかけると、青龍の大きな目がピクリと反応して鱗と同じサファイア色の瞳が表れた。
寝ていたわけじゃなかったみたい。
『小さな巫女姫、見ない間に大人になりましたね。おや、もう子供も生まれたんですか?』
玄武と同様に、青龍も直接頭の中へ話し掛けてくる。
念話の方が意志を伝え易いんだろう。
「巫女姫はこちらですよ」
セイさんが笑いながら、私を紹介する。
ふむ、そういう演技をする必要があるらしい。
『おやおや、まだ小さな巫女姫のままですか。ではそちらは?』
「母のヒルダです。初めまして竜族の御方。エンハルト王国の巫女が、貴方様の声が聞こえないと心配しておりました」
『あぁ、少し長く寝すぎていたようです。いつもは玄武が遊びに来る時、起きるんですが……』
やっぱり寝ていたようだ……。
そして、玄武と親交があるみたい。
目が見えず海を渡って来られなかったんだろう。
先日治療したので、また遊びに来るかしら?
「青竜王の守護している国の湧き水が減り、水質が落ち碧水晶の品質が下がり困っているようですよ」
セイさんが事情を伝えると、青龍はそれは拙いですねと呟き全身光に包まれた。
青龍が消え、目の前には壮年の男性姿が見える。
おおっ! 人の姿に変態出来るのか!?
青い色の長い髪と瞳をした偉丈夫で格好いい。
兄と茜が驚き固まっていた。
樹おじさんとセイさんが動じてないのは、年の功かしら?
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