庭に厩舎がないと気付き、黒曜が快適に過ごせるよう再び商業ギルドを訪れた。
竜馬用の厩舎を注文すると金貨30枚請求される。
あぁ出費が嵩むの……、金を惜しむ気はないが自分で建てられるだけの技量はないので仕方ない。
ついつい寒くなった懐具合を案じながら、そういえば昨日レガントのダンジョンで狩った魔物を換金せずにいた事を思い出す。
地下1階の魔物だが、S級ダンジョンに出現するのは深層に近いものばかりだった。
換金すれば減った分を補えるだろうから、レガントの都市へ向かおう。
今後の予定がさっぱり分からぬので、マジックバッグに収納した魔物が腐る前に金に換えんとな。
自宅へ戻り黒曜に乗ってレガントの都市へ行き、冒険者ギルドで換金すると1日の収入とは思えん金額になった。
鍛冶師をするより、S級ダンジョンを潜る冒険者でいた方が稼げそうじゃが……。
選択を誤ったか? いや、小夜の薙刀を作ってやらねばならんからの。
鍛冶魔法の使い方をマスターするまでは我慢しよう。
換金を済ませ王都に戻ってくる。
往復2時間程度でレガントの都市と王都を行き来出来るのは、黒曜のおかげだな。
これなら実家も日帰り可能だし、採掘した【紫水晶】を手土産に帰ったら母親が喜ぶだろう。
翌日。
約束の時間10分前に鍛冶師ギルドへ向かい、ガンツ師匠を待った。
9時ちょうどに師匠がギルド内に入ってくる。
「よし、今日も時間通りだな。部屋へ行こう」
師匠の後についてギルド内にいくつかある部屋の1室へ入ると、沢山の書棚が見える。
鍛冶魔法を使用する場所ではないのか、練習用の鉱物ひとつない。
「今日から鍛冶魔法の基礎を教える。まずは必要なドワーフの古語の習得からだ」
鍛冶魔法の使い方ではなく、古語の習得とな?
「武器に魔法を付与する際は、必ず古語を刻む必要がある。名匠となるには避けられんから、しっかり勉強するように」
そう言って、書棚から見るからに年代を感じさせる装丁の本を1冊取り出し渡される。
中を開くと、まるで象形文字のようなものが書かれている。
まさか、この年で新しい言語を習う事になろうとは……。
体を動かすのは得意だが、正直勉強は苦手なんじゃが?
鍛冶魔法を教えてもらえるものとばかり思っていた儂は、難解な文字に呆然とし項垂れた。
「最初は基本文字を覚えるだけでいい。試験の結果が満点になるまで頑張れ!」
簡単そうに言ってくれるな。
鍛冶魔法を楽しみにしていただけに、テンションが下がる。
「バール。お前も一緒に覚えろ」
「はいっ? 私もですか? 一体、何のために……」
「いつか役に立つ日がくるかも知れん。人生は日々勉強じゃ」
「はぁ……、分かりました」
儂だけが苦労するのは割に合わんと、バールを勉強仲間に巻き込んだ。
一緒にすれば効率も上がるだろう。
その日、普段使わぬ脳を酷使してダンジョンを攻略するより疲れた。
どう考えても儂には向いておらん。
バールも文字を覚えるのは苦手なようで、難しい顔をし唸っていた。
それから月~金曜日は古語の勉強で土・日は休み。
5日間も嫌いな勉強をさせられるのはストレスが溜まり、自然と休日はレガントのダンジョンで発散するようになった。
鉱物の採掘も勘で行い、宝石になるものをいくつか発見し母親へ土産に持って行く。
小夜と結婚した時は金の指輪を贈ったが、結局ダイヤの指輪は買ってやれなんだ。
儂の給料では子供3人を育てるので精一杯で、学がなく道場で師範として教える仕事しか出来なかったのだ。
冒険者として稼ぎがある今なら、宝石をいくらでも買ってやれるのに……。
いつかこの世界で再会した時に渡せるよう、宝石となる鉱物を沢山集めておこう。
1ヶ月後。
古語の基礎試験を受けた儂とバールは、満点を取れず不合格となった。
馴染みのない文字を1ヶ月で覚えるなど無理じゃ!
表音文字だけでなく、表意文字や単語を表す漢字に該当する文字もあり泣きたくなる。
その後、何度も試験を受け直し、儂らが合格するまで3年の月日が流れた……。
儂やバールの頭が悪かったとは思いたくないが……。
頭の良い小夜であれば、半年も掛からず覚えたであろうか?
師匠はその間、一切鍛冶魔法を教えようとはせず試験に落ちる度、肩を落とす儂を笑っておった。
そして漸く鍛冶魔法を教えてもらえると喜んでいたら、武器の素材になる魔物を狩ってこいと言われ漫画のような地図を渡される。
印をつけた場所に生息している、ワイバーンの鱗を取るのが課題らしい。
このクソ爺めっ! 本当に鍛冶魔法を教える気があるのか!?
弟子になってから3年も時間を無駄にし、あの象形文字に襲われる夢まで見たというのに、まだ教えないとは……。
とっとと鱗を提出してやるから待っておれ!
鼻息荒く、その場を後にして行き先を調べる。
うんんっ? これは、他国ではないか?
移動するだけで、相当時間が掛かりそうな課題に眉を顰めた。
ドワーフの国には、ワーバーンが生息していないのかのぅ。
しかし、この見るからに怪しい地図を信用してよいものか不安になる。
手書きで描かれた大まかな国の位置だけで、距離がさっぱり見当つかん。
食料は多目に用意した方がよいだろうと王都で食材を買い込み、黒曜に騎乗し目的地へと旅立った。
ポイントを押して下さった方、ブックマークを登録して下さった方、作品を応援して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!