【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第425話 迷宮都市 毒消しポーション完成

公開日時: 2023年5月24日(水) 12:05
文字数:3,293

 約束の時間5分前に薬師ギルドに到着した。

 2人とも、購入したばかりの新しい服を着ている。


 今日は冒険者としての活動ではないし、薬師ギルドに行くと分かっているので兄が服装を考慮したんだろう。

 ポーションを作成する現場に入るのは、清潔な恰好かっこうが適切だ。


 受付嬢にゼリアさんと約束している事を伝えると、別室に案内してくれる。

 通された部屋は応接室らしい。


 冒険者ギルドの会議室とは違い、部屋の中はお金が掛けられているように感じる。

 装飾品も飾られていたので、ここは貴族を通す部屋なのではないだろうか?


 1時ぴったりに、ゼリアさんが部屋に入ってきた。


「お二人とも初めましてだね。私は薬師ギルドマスターをしているゼリアだよ」


「初めまして、沙良の兄の賢也です」


「初めまして、メンバーの旭です」


 兄達が席を立って挨拶を交わす。

 ゼリアさんは2人を見て、一瞬目を細めた。


「おや? あんた達は人間なんだね」


 ???


 この世界に人間以外の他種族がいる事は知っているけど、面と向かって人間か確認された事はない。

 カルドサリ王国は特に他種族と交易をしていないので、国内にいる大半は人間なのではないかしら?


「はい、私達は人間です」


 兄は少し面食らった様子でゼリアさんに答えを返した。


「ふむ、最近の魔道具は余程優秀なのかも知れないね。まぁ、人間だというのならそうなんだろう」


 まるで謎々だ。

 旭は、何を言われたのかさっぱり理解していない。

 

 兄が片眉を上げ「どういう事だ?」と仕草しぐさで聞いてきたので、私は肩をすくめ分からないと返した。


 2人の外見的特徴に、エルフや獣人やドワーフの要素はないからだ。

 それに私には何も聞かれなかった。

  

「さて、治癒術師である2人が浄化の魔法を使用出来る事はやつから話は聞いている。私も弟も口は堅いから安心おし。教会なんぞに言ったりはしないさね。早速さっそく、ポーションに浄化の魔法を掛けてもらえるかい?」


 そう言ってゼリアさんはテーブルの上にマジックバッグから取り出したポーションと、ハイポーションにエクスポーションを並べだした。


 各ポーションを10個、全部で30個もの数だ。

 まぁ実験なので、数が多い方が結果が分かりやすいだろう。


 兄と旭は、それぞれ5本ずつ浄化の魔法を掛ける事にしたようだ。

 ただ、どのLvを使用するか迷っている。


 現在2人のホーリーLvは10で消費MPは100だ。

 Lv10の魔法を使用すれば、普通の人間なら3回くらいしか使用出来ない。

 魔力0になって昏倒してしまうからね。


 15本分を掛けるとなると、1回のMP消費を20以下にする必要があるのだ。

 兄は旭へゼリアさんに見えないよう、テーブルの下で2本の指を立ててLv2を使用する事を伝える。


 旭は兄からのメッセージに気付いて、OKのサインを出した。

 その後、2人が各種ポーションにLv2のホーリーを掛けていく。


 ヒールを使用する時は特に目に見える現象は起きないけど、ホーリー使用時は少しキラキラした粒子が見える。

 昼間には分からない程、ほんのわずかな光なんだけどね。


 今もポーションがかすかに光っては消えていく。

 ポーションは透明なガラス瓶に入っているので、その様子がよく見えるのだ。


 私は、綺麗だなぁと思いながら兄達が作業を終えるまで待っていた。


「お若いの、安心なされい。誰にも口外したりはせんよ」

 

 不意にゼリアさんが、ぽつりと言葉をらす。

 それは年若い私達に向けたものであったのか……。

 何故なぜか、視線が壁に向いている事が気になった。


 兄達が浄化を終えたポーションを手に取って、ゼリアさんが目をみはる。


「こりゃ驚いた。全部のポーションに毒消しの効能が追加されておるわ。お主らは、本当に高名な治癒術師なのだな。これなら、普通のポーションでもキングビーの毒を消せるだろう」


 おおっ!

 それはすごい!


 これで、毒消しのポーションが完成した。

 後で兄達にお礼を言わないとね。


 迷宮都市ではポーションの値段が銀貨1枚(1万円)と安いから、そこに浄化の値段を加算しても冒険者達はダンジョン価格を払うより安く治療が出来る。


 それは地下14階を拠点にしている人達にとって、かなりの朗報になるだろう。


 そしてゼリアさんは、何気に鑑定魔法が使えるんですね?

 私はてっきり、実際キングビーに刺された人を実験台にするのかと思ってましたよ。


 その治験を依頼されるんじゃないかとの予想が外れ、思わぬ人物が鑑定魔法を持っているのだと知る事になった。

 

「迷宮都市限定にはなるが、毒消しポーションの販売許可を出そう。魔道具屋での販売価格は、そうさね浄化の必要があるから金貨10枚と銀貨10枚(1千10万円)にしよう」


 教会の司教に依頼する浄化代は金貨10枚(1千万円)だ。

 薬師ギルドの方で販売利益を載せるならそのくらいが妥当な値段か……。

 

 ダンジョン内での治療は、金貨17枚なので金貨6枚・銀貨90枚分(6百90万円)安くなる。

 それに私達がいなくても治療出来るのが大きい。


 ゼリアさんは浄化代を兄と旭に払ってくれた。

 15本分なので、金貨150枚(1億5千万円)だ。


 思わぬ臨時収入に、旭の顔が輝いている。

 兄は異世界のお金に興味がないようで、そのまま私に渡してきた。


「さて、このままだと販売数が不足しておる。まだ魔力は残っているだろうから、ポーション20本追加で浄化を頼もうか」


 さらりとゼリアさんが、兄達の魔力残量を把握している事を伝える。

 まぁ、あれだけのアンデッドを毎週換金していたら気付くだろう。


 再びテーブルの上に出されたポーションを各自20本浄化し、その分のお金も貰う事が出来た。

 今後は、毎週薬師ギルドに顔を出して各自30本の浄化を請け負う事に決定する。


 ダンジョン内で、私達が毒消しのポーションを販売する事も了解をしてくれた。

 土・日はダンジョンにいないので、アマンダさんとダンクさんのパーティーには保険として是非ぜひ持っていて欲しい。


 2パーティーには本当にお世話になっているから、先行販売してもよいだろう。

 魔道具屋で販売を開始するのは、月曜日からという事だった。


 ゼリアさんにお礼を言って、薬師ギルドを後にする。

 ポーションに浄化を掛ける時間は1本当たり数秒なので、まだ1時間くらいしか経過していなかった。


 兄達はこれからジムに行く予定らしい。

 本当に毎週よく飽きないなぁ~。


 兄達をホームの自宅に送り、私は明日シルバーとフォレストを稽古場に連れて行ってもよいかガーグ老に確認しに行こう。


 薬師ギルドから家具工房まで、マッピングを展開しながら歩いていると視界に不審な動きをする2人組を発見する。


 この人達は、ダンクさんが話してくれた他国の諜報員ちょうほういんだろうか?

 少し様子をみようと思っていたら、2人組が唐突に地面に倒れた。

 

 おや?

 この展開は以前とまったく同じだ。


 もしかして、諜報員同士の争いがあるのかしら?

 私以外の人間が、密かに手を下しているらしい。


 やはり異世界は物騒だなぁと改めて思い直す。

 日本じゃ諜報員同士の抗争なんて、一般人が関わる事はないだろう。

 

 巻き込まれないように注意をしなくちゃ。


 家具工房に到着すると、今日もガーグ老達が顔中ポーションまみれで出迎えてくれた。

 家具作りは意外に怪我が付き物なのか……。


「ようきたサラ……ちゃん」


「こんにちは~。明日の稽古時に、私の従魔を連れてきてもいいか確認しにきました。えっと、2匹いるんですがゴールデン・・・・・ウルフのシルバーと迷宮タイガーのフォレストです。少し体の大きい魔物ですが、皆さん大丈夫ですか?」


「うむ、かまわんよ。ゴールデン・・・・・ウルフは初めて聞くがの……」


「あっ、そうだった。毛が黄金のシルバーウルフです!」


 サヨさんにテイムした魔物は進化しないと聞いたので、シルバーウルフにしておかないと駄目よね。

 従魔登録の用紙に思いっきりゴールデン・・・・・ウルフって書いちゃったけど、大丈夫だったかな?


「そっ、そうか……毛が黄金とは、また珍しいシルバーウルフだな……」

  

「えぇ、貴重な個体をテイム出来たのでラッキーでした!」


 テイムした従魔が進化した事は内緒だ。

 魔物の中にも突然変異で色が違う個体がいると思う。


 ガーグ老は私の話を聞いて、「そういう事もあるだろう」と苦笑していたのだった。

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