王都の上空を飛行する黒曜の背に乗りながら、後ろにいるバールへ話しかける。
「この地図にあるパジャン王国へ行った事はあるか?」
「いえ、私はその国に降り立った事がありません」
「ドワーフの国から5つも国を跨いでおるが、お前が知らぬなら距離も不明か……」
もしかしたらと思い尋ねてみたが、バールも行った事がないらしい。
それなら黒曜にも聞いてみよう。
「黒曜。パジャン王国を知っておるかの?」
『ご主人様、申し訳ありません。他国に向かう場合、大抵ワイバーンを騎獣に選ばれるので……』
「それもそうか。素朴な疑問なんじゃが竜馬とワイバーンでは、どちらが速く飛べるのだ?」
『空を飛ぶというのであれば竜馬は飛竜に勝てませんが、私はご主人様と契約を結んでいるので恩恵を受ける事が出来ます。当然、ワイバーンより速く飛べます!』
契約を結んだ覚えはないが……?
黒曜の言葉が気になり、鍛冶魔法のLvが上がらないため、ずっと確認していなかったステータスを3年振りに開く。
【シュウゲン 16歳】
★加護(火の精霊王)
レベル 125
HP 1,612
MP 1,512
槍術 Lv50
剣術 Lv50
体術 Lv50
投擲術 Lv50
言語習得 Lv10
魔法 特殊魔法(鑑定)
魔法 特殊魔法(鍛冶Lv0)
魔法 火魔法(ファイアーボールLv50、ファイアーアローLv50、ファイアーウォールLv50)
契約従魔(契約者の能力を借り行使する事が可能)
●竜馬(雌)【黒曜】 Lv125 使用魔法(サンダーレインLv50)
知らぬ間に言語習得を覚え、黒曜が契約従魔になっておった。
言語習得はドワーフの古語を学んだ際、自然と覚えたのであろう。
しかし、どうやって黒曜が契約従魔になったのかの?
理由が分からず首を捻っていると、バールが口を開き話し出した。
「シュウゲン様が、竜馬に名を与えたからです。その時に、きっと喜び契約を結んだのでしょう」
はて? そんな事があるのか?
それよりテイム魔法との違いはなんじゃ?
「テイムされた従魔と契約従魔では、異なりそうだな……」
「そうですね。契約従魔の場合は、主の能力を引き継げるのが大きな違いでしょうか? 黒曜はシュウゲン様が本来持っている……能力の恩恵を受けられるので、ワイバーンより速く飛べるのではないかと……」
儂は火魔法しか持っとりゃせんが? 飛行速度が変わるとは思えんがの。
しかし黒曜が雌とは知らなんだ。
少々、勇ましい名前を付けてしまい申し訳ない事をしたな。
暫くして国境を越えたので、方角が合っているか一度下りてみる事にした。
地図の通りなら北に隣接したヘルツ王国の筈。
門兵に声を掛け、ここはヘルツ王国か質問すると変な顔をされる。
フェザー王国だと言われ頭を抱えた。
あのクソボケ爺め! 間違った地図を渡すとは、どういう心算だ!
教えてくれた門兵に礼を言い、再び黒曜が空へと上昇する。
方角だけは合っていると信じ次の国境に向かい、国名を確認した。
今度はヘルツ王国だと答えられ、胸をほっと撫でおろす。
どうやら渡された地図には、全ての国名が記載されていないようだ。
国境を超える度に国名を調べながら1週間後。
やっと、目的のパジャン王国に辿り着いた。
この1週間は野宿ばかりしていたから今日は宿屋で泊まろうと、入国者のチェックをする門兵に冒険者ギルドカードを見せる。
すると門兵が怪訝そうな顔で、「他国のC級冒険者は入国出来ないのを知らないのか?」と言ってきた。
そんなもん初耳だわ! あの師匠は、どうも必要な説明を省く癖があるようだな。
儂が憤慨している様子を見て、本当に知らないようだと思った門兵が、
「あ~S級冒険者になるか、他のA級ギルドカードがあれば……」
少し困ったように続ける。
それを早く言ってくれ! 冒険者以外にA級ギルドカードを持っておるぞ!
ここまで来て、とんぼ返りする羽目にならず良かったわ。
意気揚々と取り出した鍛冶師ギルドカードを見せ、無事に入国する事が叶った。
国によって、入国審査に必要な身分証が違うんだろう。
冒険者資格と他のギルド資格に差があるのは、習得する難易度に違いがありそうだ。
パジャン王国内に入ると、冒険者や商人の姿が多く通りを歩いている。
冒険者は分かるが、商人がここまで多くいるとは驚いたな。
この国には、商人が買い付けにやってくるような交易品があるんじゃろう。
手頃な価格の空いている宿屋を見付け、黒曜を預けに騎獣屋へ向かう。
騎獣屋でワイバーンが何頭も繋がれた姿を見て、呆気に取られた。
ドワーフの神殿で会った火竜よりかなり小さいが、それでも体長は20m以上ある。
この国の騎獣はワイバーンが主流なのか?
騎獣屋の主人に金を渡し黒曜を預かってもらったあと、宿へ引き返し夕食を簡単に済ませ久し振りにベッドで横になった。
他国の料理を期待したが、翌日の朝食に出てきた代わり映えしないパンと塩味のスープにがっかりし、異世界では食に期待出来ぬと知る。
黒曜を騎獣屋へ引き取りに行き、パジャン王国内についている印の方角へ進む。
2時間程で険しい山脈が続く場所に到着し、山の麓に降り立つ。
「ここが、ワイバーンの生息地か……静かなものだな。1匹くらい上空を飛んでおらんのか?」
発見次第、狩ろうと思っていた儂は宛てが外れ肩を落とす。
「シュウゲン様の気配を感じて、上空を飛び回る勇気のある飛竜はいないでしょうね」
苦笑しながらバールが呟いた。
「人を化け物みたいに言いおって。儂は只のドワーフだ。今は紅顔の美少年でもあるがな!」
そう言ってから、誤魔化すように呵々と笑う。
80歳を過ぎているのに紅顔の美少年とは、よく言ったものだ。
小夜が聞いたら笑うであろうな。
山場では黒曜が降り立つ場所が確保出来ぬだろうと、その場に残しバールと共に入山する。
ワイバーンの姿が一向に見えぬが、とりあえず山頂まで行くか。
3時間くらい山道を歩く間、魔物は出ず快調に進む。
そして遂に頂上へ到着した瞬間、連なる山脈からワイバーンが群れをなし一斉に羽ばたいてくる。
その数、およそ数百匹!!
流石に、これ程の数を相手取るのは儂でも無理じゃ。
情報も得ず無計画に突っ込んだのは失敗だったかと、緊張で背中に汗が滴り落ちた。
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