ガーグ老達がくるまでに、まずは先立つものが必要だ。
お忍びで冒険者をした時、貯めたお金を部屋の隠し扉から取り出す。
実は、この扉から王宮へと続く秘密の通路にいける。
最終的には王の書斎に通じる道だ。
今は必要ないが、いずれ役に立つ日がくるかもな……。
それから王都が詳細に描かれた地図を広げ、沙良の居場所を予想する。
もし子供が連れ出したのなら、娘は意識がない状態かも知れない。
近くに仲間がいる場所まで案内しただけなのか?
騒がれるのを防ぐため、一緒に連れ去られてしまったのか……。
子供が巻き込まれたかどうかで、沙良の行動は大きく制限される。
人質を取られている状態だと迂闊な真似は出来ないだろう。
意識のない少女を運ぶには、人目に付かない馬車が必要だ。
だが武器屋の近くに馬車は止まっていなかった。
他に考えられるのは、騎獣か……。
しまったな、シルバーと泰雅を連れてくれば良かった。
テイムされた従魔は主人の居場所が分かるから、直ぐに沙良を発見出来たのに……。
今日は奏屋とガーグ老の家具工房へいくだけの心算だったから、2匹を置いて出掛けたのが悔やまれる。
沙良を見失って30分。
馬車ならまだ王都内にいる筈だ。
騎獣は魔物の種類に依って速度が変化するが、それでもまだ王都を出てはいないだろう。
今回の件は、アシュカナ帝国の仕業じゃないと踏んでいた。
沙良は迷宮都市にいると知っているからだ。
だから、これは事前に計画された犯行ではない。
王都で沙良の姿を見掛け、目を付けられたのだと思う。
次に足を確保しようと、マジックバッグ100㎥に必要な物を詰め込み家の外へ出る。
すると突然、庭にガーグ老達影衆が姿を現した。
やけに早いな!
総勢20名、その中には現当主の姿もある。
ドラゴンへ変態した2匹の背中に乗ってきたんだろう。
「待たせた王よ! して状況を確認したい。御子が連れ去られて、どれくらいだ?」
ガーグ老から、無駄な言葉を省き単的に質問された。
俺はドワーフの鍛冶職人がいる店を出た直後、娘が消えて30分程だと話す。
その際、娘が男の子に声を掛けられた件も伝えておいた。
「子供か……。御子は子供には甘いでの、全く警戒せんかったのだろう。所で王よ、何のために通信の魔道具を渡したと思っておるのか? 王都へいくなら、事前に連絡をしてくれねば困る。それに、どうして従魔を連れておらぬのだ。おれば、御子をみすみす攫われる事もなかったであろうに」
ガーグ老から苦言を呈され、その通りだった俺は返す言葉もない。
「悪かった、俺のミスだ。それで聞きたいんだが、ポチとタマに娘を追跡するのは可能か?」
樹の娘である沙良は、母親と魔力が似ているかも知れない。
現在の主人はガーグ老だが、もともと樹の従魔達である。
「そう思い、現在捜索を任せておるわ。御子の魔力は覚えておろう。魔力封じの魔道具を付けられていなければ、見付けられると思うが……」
そこで、ガーグ老の顔に焦りが浮かぶ。
娘の姿は、どう見ても貴族出身である。
魔法を使用出来ると分かれば、魔力封じの魔道具で拘束されている可能性が高い。
ならば敵を無力化するドレインの魔法は、使用不能かもしれないな。
時空魔法は使えるのか?
いや、あれも魔力が必要だろう。
娘が自力で戻るのは難しいか……。
「現在、王都にいるマケイラ家の諜報員に連絡し、御子の目撃情報を集めておる。ここは連絡がくるまで待つ方が懸命であろう」
ガーグ老から、無暗に動き回らない方がいいと言われる。
「では、家で待機する。直ぐに動けるよう、馬か騎獣の手配をしてくれないか?」
俺の言葉に、三男役の影衆が頷き塀を乗り越えていった。
俺達は家の中に入り連絡を待つ事にする。
その間、今回の犯人像を話し合った。
やはり、ガーグ老もアシュカナ帝国である可能性はないと言う。
背が低く見た目が幼い美少女を、簡単に攫えると思ったんだろう。
だとすれば、犯人の割り出しは難しい。
貴族の好事家ならば、王都の家に隠すかも知れないが……。
奴隷商が相手の場合、足が付かないよう王都を出て直ぐにでも場所を移すに違いない。
俺達は発見の報告をじりじりと待つ。
意識のない娘が酷い仕打ちを受けていたらと思うと、気が気じゃなかった。
暫くして、不意にガーグ老が顔を上げる。
2匹からの連絡だろうか?
「王よ、御子の現在地が分かった。この場所に見覚えは?」
そう言って、ガーグ老が地図にある屋敷を指す。
ここは……!?
どういった偶然なのか、それは第一王妃の没落した生家だった。
まさか、此度の一件は怨恨の可能性が?
当時3歳だった第一王妃の息子は300年経った今、生きてはおるまい。
では母親を殺された息子の怨嗟の声を受けて育った、息子の系譜による仕業だろうか……。
嫌な予感がして、背中にじっとりと汗を掻く。
俺は掠れた声になり、知っている事を告げた。
「そこは第一王妃の生家だった屋敷だ」
「……急ぎ向かわねば、御子に命の危険が生じよう」
全員が無言で家から出る。
既に人数分の馬と騎獣が準備されていた。
俺は迷わず、騎獣であるバイコーンに飛び乗り貴族街へと向かう。
あぁ、沙良……。
こんな所で、過去の因縁がお前に降りかかるとは!
今、助けにいくからもう少し頑張ってくれ!
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