【3巻発売&コミカライズ決定!】自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

48歳の主人公が異世界で12歳の少女になり、冒険者として生きるお話です
如月 雪名
如月 雪名

第552話 椎名 響 28 消えた娘の捜索

公開日時: 2023年9月20日(水) 12:15
更新日時: 2024年1月11日(木) 21:39
文字数:2,109

 ガーグ老達がくるまでに、まずは先立つものが必要だ。

 お忍びで冒険者をした時、貯めたお金を部屋の隠し扉から取り出す。

 実は、この扉から王宮へと続く秘密の通路にいける。

 最終的には王の書斎に通じる道だ。

 今は必要ないが、いずれ役に立つ日がくるかもな……。


 それから王都が詳細に描かれた地図を広げ、沙良の居場所を予想する。

 もし子供が連れ出したのなら、娘は意識がない状態かも知れない。

 近くに仲間がいる場所まで案内しただけなのか?

 騒がれるのを防ぐため、一緒に連れ去られてしまったのか……。


 子供が巻き込まれたかどうかで、沙良の行動は大きく制限される。

 人質を取られている状態だと迂闊うかつな真似は出来ないだろう。

 意識のない少女を運ぶには、人目に付かない馬車が必要だ。

 だが武器屋の近くに馬車は止まっていなかった。


 他に考えられるのは、騎獣か……。

 しまったな、シルバーと泰雅たいがを連れてくれば良かった。

 テイムされた従魔は主人の居場所が分かるから、直ぐに沙良を発見出来たのに……。

 今日は奏屋かなでやとガーグ老の家具工房へいくだけの心算つもりだったから、2匹を置いて出掛けたのが悔やまれる。


 沙良を見失って30分。

 馬車ならまだ王都内にいるはずだ。

 騎獣は魔物の種類に依って速度が変化するが、それでもまだ王都を出てはいないだろう。

 今回の件は、アシュカナ帝国の仕業しわざじゃないと踏んでいた。

 沙良は迷宮都市にいると知っているからだ。

 だから、これは事前に計画された犯行ではない。

 王都で沙良の姿を見掛け、目を付けられたのだと思う。


 次に足を確保しようと、マジックバッグ100㎥に必要な物を詰め込み家の外へ出る。

 すると突然、庭にガーグ老達影衆が姿を現した。

 やけに早いな!

 総勢20名、その中には現当主の姿もある。

 ドラゴンへ変態した2匹の背中に乗ってきたんだろう。


「待たせた王よ! して状況を確認したい。御子が連れ去られて、どれくらいだ?」


 ガーグ老から、無駄な言葉を省き単的に質問された。

 俺はドワーフの鍛冶職人がいる店を出た直後、娘が消えて30分程だと話す。

 その際、娘が男の子に声を掛けられた件も伝えておいた。


「子供か……。御子は子供には甘いでの、全く警戒せんかったのだろう。所で王よ、何のために通信の魔道具を渡したと思っておるのか? 王都へいくなら、事前に連絡をしてくれねば困る。それに、どうして従魔を連れておらぬのだ。おれば、御子をみすみすさらわれる事もなかったであろうに」


 ガーグ老から苦言をていされ、その通りだった俺は返す言葉もない。


「悪かった、俺のミスだ。それで聞きたいんだが、ポチとタマに娘を追跡するのは可能か?」


 いつきの娘である沙良は、母親と魔力が似ているかも知れない。

 現在の主人はガーグ老だが、もともと樹の従魔達である。

 

「そう思い、現在捜索を任せておるわ。御子の魔力は覚えておろう。魔力封じの魔道具を付けられていなければ、見付けられると思うが……」


 そこで、ガーグ老の顔に焦りが浮かぶ。

 娘の姿は、どう見ても貴族出身である。

 魔法を使用出来ると分かれば、魔力封じの魔道具で拘束されている可能性が高い。

 ならば敵を無力化するドレインの魔法は、使用不能かもしれないな。


 時空魔法は使えるのか?

 いや、あれも魔力が必要だろう。

 娘が自力で戻るのは難しいか……。


「現在、王都にいるマケイラ家の諜報ちょほう員に連絡し、御子の目撃情報を集めておる。ここは連絡がくるまで待つ方が懸命であろう」

 

 ガーグ老から、無暗に動き回らない方がいいと言われる。


「では、家で待機する。直ぐに動けるよう、馬か騎獣の手配をしてくれないか?」


 俺の言葉に、三男役の影衆がうなずき塀を乗り越えていった。

 俺達は家の中に入り連絡を待つ事にする。

 その間、今回の犯人像を話し合った。


 やはり、ガーグ老もアシュカナ帝国である可能性はないと言う。

 背が低く見た目が幼い美少女を、簡単にさらえると思ったんだろう。

 だとすれば、犯人の割り出しは難しい。

 貴族の好事家ならば、王都の家に隠すかも知れないが……。

 奴隷商が相手の場合、足が付かないよう王都を出て直ぐにでも場所を移すに違いない。


 俺達は発見の報告をじりじりと待つ。

 意識のない娘がひどい仕打ちを受けていたらと思うと、気が気じゃなかった。

 しばらくして、不意にガーグ老が顔を上げる。

 2匹からの連絡だろうか?


「王よ、御子の現在地が分かった。この場所に見覚えは?」


 そう言って、ガーグ老が地図にある屋敷を指す。

 ここは……!?

 どういった偶然なのか、それは第一王妃の没落した生家だった。


 まさか、此度こたびの一件は怨恨えんこんの可能性が?

 当時3歳だった第一王妃の息子は300年経った今、生きてはおるまい。

 では母親を殺された息子の怨嗟えんさの声を受けて育った、息子の系譜けいふによる仕業だろうか……。

 嫌な予感がして、背中にじっとりと汗をく。

 俺はかすれた声になり、知っている事を告げた。


「そこは第一王妃の生家だった屋敷だ」


「……急ぎ向かわねば、御子に命の危険がしょうじよう」


 全員が無言で家から出る。

 既に人数分の馬と騎獣が準備されていた。

 俺は迷わず、騎獣であるバイコーンに飛び乗り貴族街へと向かう。


 あぁ、沙良……。

 こんな所で、過去の因縁いんねんがお前に降りかかるとは!

 今、助けにいくからもう少し頑張ってくれ!

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